【パブロ・ベルヘル監督「ロボット・ドリームズ」】 ドッグのベッドルームにピンク・フロイド
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリー、沼津市のシネマサンシャイン沼津で上映中のパブロ・ベルヘル監督のアニメ映画「ロボット・ドリームズ」を題材に。第96回アカデミー賞長編アニメーション映画部門にノミネート。
米ニューヨーク、イーストビレッジのアパートで一人暮らしのドッグ。寂しさに押しつぶされそうな彼は、通販で組み立て式の友達ロボットを購入する。心を許せるパートナーの出現でドッグの生活は一変。喜びを分かち合える存在がいるって、なんて幸せなんだろう。
このような幸せにあふれた「第1部」が、その後の別離のドラマを際立たせる。見どころは多々あるが、心を通わせる当事者を「犬」と「ロボット」にした点が巧妙だ。男女、男同士、女同士ではない両者が演じることで、観客は「恋愛」でも「友情」でもない、それらを超えた「何か特別な絆」を感じ取ることができる。繰り返し出てくるアース・ウィンド&ファイアーの「セプテンバー」のフレーズが、場面ごとに違って聴こえる。
音楽使いが見事の一言。おそらくは1990年代であろうニューヨークの街に繰り出せば、行く先々でソウル、ハードコアパンク、アフリカンパーカッション、中南米のスティールパンの音が聴こえてくる。地下鉄車内では、スクラッチのまねごとをする男の子のヘッドホンからラップミュージックが漏れている。
音楽使いの巧みさは「音」だけではない。ドッグのベッドルームにはピンク・フロイド「狂気」のジャケットポスターが。作品世界の時制で考えても20年以上前のプログレアルバムを登場させることで、孤独をこじらせたドッグのありさまがくっきりはっきりと浮かび上がる。
(は)
<DATA>※県内の上映館。12月14日時点
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区、12月26日まで)
シネマイーラ(浜松市中央区、12月20日~2015年1月2日)
シネマサンシャイン沼津(沼津市、12月26日まで)