野田クリスタル「自分の考えは“頑張って”伝えてる」集団開発率いる等身大の悩み【スーパー野田ゲーMAKER】
お笑いコンビ・マヂカルラブリーの野田クリスタルさんがゲーム開発を行っていることは、ファンのみならずゲーム好きの中でも有名だろう。そんな野田さんが手掛けるゲームシリーズ『野田ゲー』の新作『スーパー野田ゲーMAKER』が2024年12月19日(木)に発売される。
今作は『スーパー野田ゲーPARTY』『スーパー野田ゲーWORLD』に続く3作目。2023年9月に開発が発表され、クラウドファンディングでは1700人を超える支援者から合計約1700万円の開発資金を集めた話題作だ。
この3部作はいずれも面白法人カヤックとチームで開発を行っているが、以前は一人でゲーム開発に勤しんでいた野田さん。自身を「個人種目人間」と表現する野田さんは、チーム開発を率いるリーダーとして何を感じてきたのか。
野田さん:野田ゲーは俺を中心として作っているゲームだから、俺がビビったらおしまいじゃないですか。
そう語った野田さんからは、多くのファンに求められるゲーム作りに掛ける覚悟がうかがえた。
野田ゲーの新作は「変態プレーヤーによる変態的ゲーム」を生むかも
編集部:いよいよ野田ゲーの最新作が発売になりますね!『スーパー野田ゲーMAKER(以下、野田ゲーMAKER)』はどういうゲームなんですか?
野田さん:自分で無限にゲームを作れて、かつ全国のユーザーが作ったゲームで永遠と遊べるゲームです。いくつかの質問に答えていくと、AIが回答に沿ったゲームを生成してくれます。
思わぬゲームができたりするので、ゲーム開発の生々しさを味わえるものになったんじゃないかな。ゲーム作りは想像通りにいくこともあれば、簡単にはいかないこともあるから。
クリエーターの方にとっては、アイデアが全く浮かばない時に遊ぶと何かのヒントが得られるかもしれないですね。
AIが生成するゲームの難易度や面白さはピンキリ。「意外に面白いものもあれば、こんなもんずっとやってられんわってものもあります」(野田さん)
野田さん:上手くいくと30秒程度でゲームが作れちゃうんで、野田ゲーMAKERが売れた本数によっては1日に何百本という数のゲームが生み出される羽目になります。
編集部:羽目に(笑)
野田さん:その気になれば1分に一つのペースでゲームを作ってアップロードできるんでね。ただ、そうやってプレーヤーが作ったゲームがどんどん公開されていけば、野田ゲーMAKERはすごい空間になりそうな気がしています。
野田さん:というのも、AIで生成されたゲームは自分でエディットすることもできるんですよ。中身をどうするかはプレーヤーの自由。
世の中には「変態」と呼ばれるようなゲームプレーヤーがいるので、彼らの手によって変態的なゲームが生まれる可能性もある。どんなゲームが出てくるのか、俺も想像つかないですね。
編集部:2020年の取材で「『クソみたいなゲームのゲームセンター』や『しょうもないゲームの発表会』みたいな場を作れば、自作したゲームを披露するハードルは下がる」と言っていました。
今回はまさに「作ったゲームを発表する場」でもあるわけですね。
野田さん:そうですね。それに、「ゲームを作るゲーム」は昔から作りたかったんです。
小学生の時に『RPGツクール』を触っていたんですけど、ゲームを作り切れたことはほぼなくて。そもそも完成させるのが大変だし、面白くなるところまで作り込むのって時間かかるんですよね。
でも野田ゲーMAKERの場合、まず最初にAIがゲームの枠組みを作ってくれる。一応は完成しているゲームをエディットするので、ハードルが下がるかなと。
野田さん:ここで作られたゲームが、最終的には野田ゲーMAKERを離れて注目されるタイトルになったら大成功ですね。
それこそ『青鬼』がRPGツクールで作られただなんて今では誰も思わないじゃないですか(※)。そのくらいになったら最高だなと。
※『青鬼』はゲームクリエイターのnopropsが開発し、2004年に無料公開されたホラーゲーム。RPGを自作できる『RPGツクールXP』で作られている。
念願だった「ゲームを作るゲーム」を今やる理由
編集部:「ゲームを作るゲームを作りたい」思いはずっとあったわけですよね。なぜこのタイミングだったんですか?
野田さん:野田ゲーシリーズの3作目だからです。
過去作でミニゲームをたくさん作ってきたんで、「もう俺が作んなくていいだろ」と思って。出し切った感もあったし、3作目もミニゲームの集合体だったら俺も作っていて飽きるだろうし。
でも、野田ゲーとしては「ミニゲーム」と「クソゲー」の枠から外れたくない気持ちもあったので、それならユーザーが作れるようにしたらいいかなと思ったんです。
編集部:「クソゲー」も大事な要素なんですね。
野田さん:正確に言うと「クソゲー」って一言で済ませたくはないんですけどね。クソゲーだと思って作ってないし、ちゃんと面白いし、成立しているゲームではあるので。
「野田ゲーとは」を定義したことはないけど、なんとなく「野田ゲーっぽさ」っていうのが生まれてきてるんで、その色は残したいよねっていう感じです。
編集部:定義がない「野田ゲーっぽさ」をチームで共有するのは難しそうです。
野田さん:その点はカヤックの後藤(裕之)さんはじめ、チームの皆さんがものすごい汲んでくれていますね。
インディー感を大事にしたかったので「ちゃんとしないでくれ」というのも伝えていて。だから、たまに「みんな俺より俺っぽいじゃん」って思うようなシーンもある。
野田さん:あと、野田ゲーと吉本興業のゲーム部門の相性がめちゃくちゃ良い。「低予算、人手不足、ゲーム会社ではない」っていう三つの条件が野田ゲーとうまく噛み合っている気がします。
ゲーム業界では三つとも不利な条件とされていますけど、それが許されているがゆえの面白さがあるかなと。
編集部:前回の取材で「バグや拙さを逆手にとって面白がっちゃえ」というアドバイスがありましたけど、その精神は今も通底にあるんですね。
野田さん:ただ、野田ゲーMAKERは今のところバグがないんですよ。
「ゲームを作るゲーム」なんで、そこにバグがあるとすげえややこしいことになるんですよね。だから今回に関してはバグがなくてだいぶ助かってます。開発チームがめっちゃ優秀でありがたいです。
「こうしたい」は頑張って言っている
編集部:野田さんはもともと個人でゲーム開発をしていましたよね。ユーザーやファンに求められるプロダクトをチームで作っていくために、意識したことはありますか?
野田さん:「俺はこの操作感めっちゃストレスなんだけどな」とか「画面のこれ気になるわ〜」とか、そういうのをちゃんと言い合うことですかね。
プレイヤーとしての自分の感覚を思い出しながらゲームを作っているけど、ユーザーの意見って無限にあるじゃないですか。俺がいらないと思うものを「絶対にいる」と思う人もいるわけで。
編集部:そういうときは話し合って着地点を見つけるんですか?
野田さん:どうしてたかなぁ……。
ただ、一応野田ゲーは俺を中心として作っているので、俺がビビったらおしまいじゃないですか。言えることは全部言って、あとはみんなで調整しようねっていう姿勢ではあります。
編集部:現場を引っ張る立場の人全般に通じる話ですね。
野田さん:でも、意見を言えばそこに稼働が生まれるわけで、一つ一つの作業にどのくらいのカロリーを費やすのか、ちゃんと考えにゃならんのですよねぇ……。
そこに気を遣って何も言えないのはダメだし、大人になり過ぎちゃいけない部分もあるけど、無邪気なだけだと周りが疲れるし……。
編集部:バランスが難しい、と。
野田さん:とはいえ自分の強みは子どもな部分だと思うから、大人になりすぎないようにはしていますかね。
少なくとも、どうしても気になる部分があって直してほしいと思ったときは、「どれくらい『どうしても』なんだ?」っていうのを自分に問うようにしています。
編集部:チームへの要望は「頑張って言う」感じなんですね。
野田さん:そうかもしれないなぁ〜。そこはきっと皆さんと一緒だと思いますよ。得意でもないし、培ってきたわけでもないし、まだ何も解決してないです。めっちゃ難しいし、常に悩んでますね。
お笑いの世界とは全く違う社会人の話だから「もう分からん!」って思う部分もあります。
もう一回、一人でゲームを作りたい
編集部:野田さんがゲーム開発を始めてから10年ぐらい経ちますよね。ゲームを作る際のスタンスやモチベーションに変化はありますか?
野田さん:そこは変わらないですね。本当はもう1回、個人で開発したい気持ちはあります。
編集部:それはなぜですか?
野田さん:「自分がどんなものを作りたがってるか」「自分はどれくらいできるのか」って、一人でやってみないと分かんないじゃないですか。
今の自分がどういう状態なのか、ちょくちょく見ておきたいんですよ。変わってないか、あるいは良くなってるのか、悪くなってるのか。これはお笑いのネタにも言えるかもしれない。
編集部:マネジメントの立場にいるエンジニアの皆さんにも、同じような課題を感じている人はたくさんいると思います。
野田さん:チーム開発って補助輪をたくさん付けているようなものなので、「俺まだ自転車こげるよね?」って思っちゃうんですよ。定期的に一人で走っておかないと、補助輪が癖付いちゃいそうで。
もし一人でこげないのに前に進んでるとしたら、相当補助輪に体重が乗ってるわけですよね。「ちゃんと自走できて、その上で周りが補助してくれる」状態でいないとチームとしても良くないなと。
編集部:最後に一人でゲームを作ったのはいつですか?
野田さん:『R-1』で優勝した後に作ったのが最後かな。多分、2020年末くらい。『M-1』で優勝してからはマジで作ってないですね。そう考えると、だいぶ空いたな〜。
野田さん:久しぶりに昔作ったゲームを見ると「本当に俺がこれを作ったのか???」って信じられない気持ちになるんですよ(笑)
俺、まだプログラムできんのか? って思ったりもするけど、いざやってみると案外大丈夫だったり、前はできなかったことができるようになってたりもするんですけどね。
編集部:「自走できる状態でいたい」っていうのは、やっぱり今後もゲームを作りたいから?
野田さん:うーん。ぶっちゃけかっこいい理由じゃないですよ。
多分、舐められたくないんですよね。「あいつ、実は自分で作れないんだね」とか思われたくない。
野田さん:お笑いで言えば、「大喜利の新しいプラットフォームは作ったけど、最近自分で大喜利の答えを出してないな」みたいな感じに近いですね。
好きだから新しいプラットフォームを考えたくなるけど、そっちに集中した結果どんどんプレイヤーから離れてきてる。そこのバランスはずっと悩んでます。
編集部:プレイヤーとしてもちゃんと面白い答えを出せる自分でいたいわけですね。
野田さん:みんなで頑張るのも好きですけど、結局俺は個人種目人間だと思うんですよね。
自分で組み立ててかたちにしたり、結果を残したりするから気持ち良いって脳みそが常にある。
野田さん:実際、有名なゲームを作った人たちのことを調べてみると、俺が思っている以上にみんな開発の中にいるみたいなんですよね。2作目以降ってどんどん自分の手から離れていくはずなのに。俺ももうちょい頑張らにゃいかんな〜と思うことが多いです。
「ゲームへの熱量」がなくなったら野田ゲーは終わり
編集部:将来的に野田ゲーをどうしていきたいですか?
野田さん:うーん。どうするもなにも、まだ成功してないですからね。
編集部:どうなったら成功でしょう?
野田さん:広まる、売れる、開拓する、じゃないですかね。
編集部:プロダクト開発に関わる人全員の願い……!
今まさに模索中だと思いますが、「広まる、売れる、開拓する」を実現するには何が必要だと思いますか?
野田さん:それはもう、本当にこっちが聞きたい(笑)
ただ、「熱量がないのにやってるな」っていうのはバレると思うんですよ。
俺の中でゲームは大切なものだし、熱量もずっとある。でも、もし今後ゲームへの熱がなくなったら、もう野田ゲーの開発はやめようかなと。
野田さん:やっぱり「好きなもの」と「やってること」が重なったときに成功するっていうのは鉄則だと思ってて。そこは崩さないようにしたいし、俺はそれがやれる職業だからラッキーですよね。
会社員だと、ゲーム開発がしたくて入社したのに全然違う部署に異動するようなこともあるじゃないですか。
編集部:ありますね……。
野田さん:俺はずっと芸人だからあんまり考えたことがなかったですけど、最近会社の事情を知るようになって「会社員ってすげえな」って心底思うようになりました。
編集部:野田さんにとって、チームでのゲーム開発は社会を知る機会にもなっているんですね。
野田さん:俺は好きなことだけやってきたんだなってつくづく思います。
せっかく好きなことを仕事にできて、しかもある程度好きなようにやれるところまで来てるから、今の時間を大切にしたいなって思いますね。
お笑い芸人
野田クリスタルさん(
)
1986年生まれ。吉本興業所属のお笑い芸人。お笑いコンビ・マヂカルラブリーのボケ担当。ゲーム好きが高じて10年ほど前から自作ゲーム『野田ゲー』を作り始め、お笑いのネタでも使用するように。『R-1ぐらんぷり2020』では野田ゲーのうち、『もも鉄』『モンスト(モンモンとするぜストッキング姉さん)』を用いて見事優勝、18代目王者となる。同年の『M-1グランプリ2020』で優勝し、第16代王者に。Switch用ゲーム『スーパー野田ゲーPARTY』『スーパー野田ゲーWORLD』に続き、24年12月『スーパー野田ゲーMAKER』を発売予定。その他の活動に、パーソナルトレーニングジム『クリスタルジム』の発案など
■スーパー野田ゲー公式HP:https://super-nodage.com/
■スーパー野田ゲーMAKER公式X:@nodaparty
■YouTubeチャンネル:野田クリスタル【野田ゲー】
■アプリ:組体操合戦/愛方さがし/ブロックくずして/sushi/ボルダリング姉さん
ゲーム情報
Nintendo Switch『スーパー野田ゲーMAKER』(11月28日予約開始/12月19日発売)
「どんなゲームがいいでしょう?」「ひとりで遊びますか? ふたりで遊びますか?」といった「野田AI」の質問に回答していくと、ゲームが30〜60秒で生成されます。回答によってゲームは異なるので、何度でも新しいゲームをつくって遊ぶことが可能です。
また、自作のゲームをいつでも遊べるのはもちろん、オンラインで公開された他のプレイヤーがつくる野田ゲーも遊ぶこともできます。斬新でユニークなゲームから、どこかで見たことあるようなゲーム、流石に酷いクソゲーまで、無限に生まれる野田ゲーを、いつまでも飽きずに楽しめる点も魅力の一つ。野田クリスタルさんやプロのゲームクリエイターなどが作った野田ゲーも公開されているので、すぐに遊ぶことができます。
編集部:野田ゲーMAKERではどんなジャンルのゲームが作れるんですか?
野田さん:ジャンルでくくれないレベルまで持っていこうと思ったんですけど、突き詰めていくと2Dのゲームって横スクロールアクションがメインになるんですよね。その中にシューティングもあればパズルもあるし、音ゲーやクイズもあります。
ゲームのクリア条件もいろいろあるから、そこをいじっちゃえば何のジャンルだか分からないゲームも作れそうです。
編集部:従来のゲームだったらゲームオーバーになるようなアクションをクリア条件に設定することもできるんですね?
野田さん:全然できます。
「ゴールに着いたらゲームクリア」っていうのはゲーム側のルールであって、「穴に落ちたらゲームオーバー」っていうのも、到達した場所で起きるアクションに変わりはないんですよ。
だから逆に「ゴールしちゃったらゲームオーバー」ってこともできる。マジで何でも作れますよ。
>>詳細はこちら
取材・文/天野夏海 撮影/竹井俊晴 編集/秋元 祐香里(編集部)