【四日市市長選2024】防災にどう向き合う? 現実感のある準備を市民とともに
巨大地震と大津波への備えが叫ばれて久しい。今年は新年早々の能登半島地震、8月の南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)発表などがあり、あらためて避難や日ごろの備えについて考えるきっかけになった。四日市市でも11月にトイレ処理に特化した内容の訓練、5月にペット同伴避難所の運営訓練が開催されるなど、実際に起こりえる状況に対応しようとする備えが目立つようになっている。
四日市市の富田一色で9月にあった伊勢湾台風殉難者慰霊献花式で、当時は高校生だったという80歳代の男性から体験を聞いた。わずかな時間で家の一階が水没し、恐怖の夜を過ごしたといい、「今でも近くには津波避難タワーがなく、安心して身を寄せられる高さのある避難所がない」と心配していた。
市の危機管理統括部に話を聞くと、少し事情が違うことが分かった。市の場合は、津波避難タワーを建てるより、津波の想定地域内では、いざという場合に駆け込む先となる津波避難ビルを増やそうとしてきたという。
マンションや公共施設、民間企業などで、鉄筋などのしっかりした構造があって3階以上を基本とし、現在、市内に127カ所が指定されているという。東日本大震災があった2011年度には約80施設だったので、約1.5倍に増えた勘定だ。
市によると、地震発生から四日市の沿岸に津波が到達するまでには約70分の猶予があるという。津波の高さは5mが想定されており、市民に配られている津波避難マップには、海抜5mの地点を結んだ「津波避難目標ライン」が引かれている。できるだけ、このラインより西へ逃げてほしいという意図だ。
とはいえ、一度にみんなが西へ移動し始めたら、どうなるか。年齢や身体の状況や周辺の道路事情などから、逃げ遅れる人もいるはずだ。そんな時、命を守るために、津波避難ビルに一時的に逃げることを勧めている。
津波避難目標ラインを目指すのか、津波避難ビルを目指すのか、市民は、あらかじめ、自分の移動時間などを考えておく必要がある。自分がどのルートでどこへ逃げるかは、ある意味、オーダーメードのようなもので、一人一人違う。そうした現実の状況を前提とした市と市民の連携作業が、求められるような気がした。そこでは、市民の側も積極的に考える姿勢が求められる。
9月に四日市市で開かれた「不測の事態に備える」をテーマにしたセミナーで、三重大学大学院工学研究科の川口淳教授が強調したのは、絵に描いたような想定での防災訓練を機械的に繰り返すのではなく、本当にどんな事態になるのかを考え、地域独自の準備などを企業のBCP(事業継続計画)のように考えていく必要があるという内容だった。
乱暴に言ってしまえば、想定は想定で、どれほどの津波がいつ襲来するのかはその時にならないと分からない。想定の情報はしっかり共有し、いざ、想定外が起きた時でも、そこからどうするかを共有できる市と市民の関係こそが理想だと思える。市民が、前向きな姿勢になることで、市の取り組みも、より研ぎ澄まされていくのではないか。
四日市市長選には、いずれも無所属で、現職の森智広さん(46)、新顔の伊藤昌志さん(54)、同じく新顔の小川政人さん(76)が立候補している(届け出順)。防災については、それぞれが発表している政策などで「石原・塩浜地区海岸保全施設整備の推進」「避難所の環境向上」「どこに住んでいても、安心できる防災対策」「緊縮財政より積極財政で災害対策を」などの言葉が読み取れる。