小学校の宿題問題!自閉症長男と発達グレー次男、それぞれの「やる気」調整術を大公開
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
次男の宿題が気になる、視覚優位の長男…
3歳の時にASD(自閉スペクトラム症)と診断された長男けんとは、現在小学3年生。特別支援学級の情緒クラスに在籍しています。そして、発達障害グレーゾーンの次男ゆうきは小学1年生。通常学級に在籍しています。
きょうだい2人とも、宿題は基本的に毎日3種類。算数の計算問題、国語の漢字(次男ゆうきは平仮名など)、そして国語の音読です。2人、それぞれが通っている放課後等デイサービスには、宿題タイムがあります。算数が好きなけんとは、算数の宿題のみ終わらせて帰ってくることが多く、残りの宿題は家でやります。次男ゆうきは宿題を全部終わらせて帰ってきます。放課後等デイサービスに行かない日は、2人とも家で宿題をします。
家庭学習を含め宿題などの勉強をする際、視覚優位な長男けんとは、次男ゆうきがやっている勉強がどうしても気になってしまうので、勉強するのはそれぞれ違う机。長男けんとはリビングダイニングにあるダイニングテーブルで、次男ゆうきはリビングにある机でやっています。
宿題をやる気になったポイント…わが子の場合
学校や放課後等デイサービスから疲れて帰ってくる子どもたち。宿題をどのタイミングでやれば、つらさなく「やるぞ!」と思ってもらえるのか……、子どもたちの様子を見ながら試してきました。
帰宅後すぐに宿題の時間にすると、疲れがあるのか次男ゆうきの機嫌がとても悪くなり、少しでも上手くいかないと怒り出します。宿題が終わるまでにとても時間がかかってしまうのです。逆に帰宅後、遊び時間を長く過ごしたあとに宿題をすると、「もう寝たい」「お腹空いた。ご飯食べたい」となり、宿題にとりかかるのがしんどそうでした。
わが家の場合、2人が安定して宿題にとりくめたのは、「帰宅」→「お菓子」→「宿題」→「動画タイム(1人5分)」にすることでした。この流れにすることを帰宅前に伝え、お菓子を食べて気分を上げたあと、「宿題をやってから動画タイムにしよう!」と伝えると、早く動画タイムにしたくてやる気満々に宿題を始めるのです。
ここでのわが家のポイントは2つ。「うれしいことで宿題を挟むこと」と「家に着く前に、帰宅後の流れを伝えておくこと」。見通しをつけることにより、気持ちが安定しているように感じます。
気合を入れた音読の宿題で疲弊…現在は
長男けんとの1番苦手な宿題は、音読です。嫌がるわけではありませんが、好きではない様子。特に繰り返し、何回も同じ作品を読むことや、長い文章の時にそう感じます。好きな作品は楽しそうに読みますが、最初は声に出して読んでいても、すぐに心の中で読みだしてしまい、ただの読書になっていることも。
長男けんとは構音障害があるため、発音がとても不明瞭です。しかし、いくら聞き取りづらいからといって、注意しっぱなしになってしまうと、本人も音読がつらくなってしまうだろうなと思い、最近は好きなように読んでいいことにしています(構音練習は、別で時間を取って毎日少しずつやっています)。
以前は、私が付き添って気合を入れて読ませようとしていましたが、2人して疲弊してしまうのでやめました。音読なので、さすがに無言で読んでいて「読書」になってしまっている時は「聞こえないよ。ママに聞こえるように、3の声の大きさで読んでほしいなー」と声をかけています(わが家では、こども園に通っていた頃から、声の大きさを5段階の目安に分けています)。
また、その日読むことになっている作品の内容によって、やる気レベルが変わってしまうことも。そんな時は私が判断して、読むページを少なくしたり、本人が読みたいところや、図書館で借りてきた本に変更したりして読んでいます。「先生からご指摘があったらやめようかな」くらい気楽にやってるので、許してくださっている先生に感謝です。
書字が苦手な息子たちと、大雑把な母の宿題チェック
私が子どもたちの宿題で一番驚いたのは、地域や学校、担任の先生によっても変わってくると思いますが、平仮名や漢字など「とめ・はね・はらい」をキレイに書くことが、重視されやすい点です。書字が苦手なわが子たちなので、私としては「結構キレイに頑張って書いたんだな」と思っていた文字が、次の日に添削されて返ってくると、直されていることも。
私自身が、「宿題をやっただけですごいな」と思っているので、字のキレイさまで細かく子どもたちに言わないのですが、汚すぎて読めない文字は「これは読めないから、書き直そうか」と伝えています。
そして、視覚優位で見通し不安が強い長男けんとのために、手づくりの視覚支援ツールを作成中です(半年近く作成が滞っていますが……)。「帰宅後にやること」を視覚を使って示していくためのもので、もちろん「宿題」という項目もあります。これが完成次第、活用していきたいなと思っています。
執筆/ゆきみ
(監修:室伏先生より)
宿題にまつわるさまざまな工夫を共有くださり、ありがとうございます。お子さんが分かりやすい工夫(スケジュールを視覚的に示す、声の大きさを数字で示す)やモチベーションを維持する工夫(宿題を行うタイミングとその心の準備、音読の量や内容の調整)がたくさん散りばめられていました。お子さんが何に困っているのか、何が苦手なのか、きっとたくさん観察されて行き着いた方法なのだろうと思います。神経発達症の有無にかかわらず、お子さんの苦手なこと、負担を感じることを知ってそれに対する工夫ができると、親御さんとお子さんいずれのストレスも減らすことができて、楽しく学習を続けられますね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。