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【現場密着】世界初、3Dプリンターで駅舎をつくる試み JRきのくに線の初島駅から

鉄道チャンネル

パーツがトラックからクレーンで運ばれる様子

JR西日本、JR西日本イノベーションズ、セレンディクスは3月25日深夜から26日早朝にかけて、JRきのくに線(紀勢本線)初島駅にて、3Dプリンターによる鉄道駅舎の建設を報道公開しました。世界初の試みということもあり、多数の報道陣が訪れました。世界初の3Dプリンター駅舎にはどのようなメリットがあるのでしょうか。また、今後、普及するのでしょうか。

今後の鉄道の未来を見据えた3Dプリンター駅舎

3Dプリンター駅舎が建設された、きのくに線初島駅は和歌山県有田市にある無人駅です。駅周辺にはENEOS和歌山製造所がありますが、2023年10月をもって石油精製機能を停止、11月からSAF(持続可能な航空燃料)をはじめとする新しいエネルギーの生産を開始しています。初島駅に特急「くろしお」は停車せず、2023年1日あたりの乗降客数は約530人です。現在は1948年竣工の木造駅舎を使っていますが、老朽化が進み、建て替えが課題となっていました。

1948年竣工の現駅舎

そこで、白羽の矢が立ったのが3Dプリンターを使った駅舎です。建設に携わったセレンディクスは兵庫県西宮市に拠点を置く、3Dプリンターを使った住宅メーカーです。

工程は、3Dプリンターで特殊なモルタル製のパーツを出力することから始まります。その後、それぞれのパーツに鉄筋コンクリートを注入し、パーツが完成。現地では、それぞれのパーツを組み合わせる作業を行います。

最大のメリットは建設スピードです。今回の駅舎の面積は約10平方メートルですが、3Dプリンターでのパーツの出力は1週間程度で済み、設置工事は約2時間30分で終了する計算です。同規模の駅舎を従来のコンクリート建設で行うと、1~2カ月を要します。

また、鉄筋コンクリートよりも造形が自由なことも3Dプリンター駅舎の強みです。従来のプレキャスト工法と異なり型枠を使用しないため、より自由な造形、デザインが可能です。

最後にコストの安さが挙げられます。JR西では数多くのタイプの駅舎がありますが、従来の鉄筋コンクリート造と比較すると、半分程度のコストで済むとのことです。

これらの3Dプリンター駅舎のメリットは、JR西が抱える課題解決の一助になることが期待されています。JR西では労働力不足により、駅舎やその他関連施設の設備更新、メンテナンスの維持が課題となっています。そこで、圧倒的な施工スピードと木造に比べ長期間の使用に耐え、高い耐震性を持つ3Dプリンター駅舎は、救世主といえる存在になり得るかもしれません。

まるで積木のような建設現場

初島駅は1面2線の地上駅で、駅舎とホームとは跨線橋で結ばれています。特急列車は通過しますが、日中時間帯でも1時間あたり上下各2本の列車が停車します。また、和歌山駅からの所要時間は約30分のため、初島駅は極端に乗降客数が少ない秘境駅ではありません。

最終列車の23時57分発の普通御坊行きを見送り、3Dプリンター駅舎の設置工事がスタート。新駅舎は現駅舎の隣に建設されました。工事はあらかじめ工場で出力したパーツを組み立て、固定する作業です。

部材は4つのパーツに分けられ、一つ一つをトラックが現場に運送します。運送されたパーツはクレーンで建設現場へ。そして、各パーツを積み木のように組み合わせながら、組み立てていきます。最後のパーツは湾曲した屋根となり、側面と組み合わせて完成です。組み立て工事は2時間ほどで終わり、ここから未明にかけて固定作業が行われました。

パーツを現場に設置する
積み木のようにパーツを組み立てる
最後に屋根を取り付ける
2時間ほどでパーツを組み上げた
未明まで固定化作業を進める

駅舎には有田市の名産「みかん」「たちうお」をイメージした装飾が施されているのが確認できました。

「みかん」をイメージした装飾が目立つ
側面に「たちうお」をイメージした装飾が施された

3Dプリンター駅舎の今後は

JR西によると、初島駅の3Dプリンター駅舎は内装工事等を済ませた後、7月頃に使用開始の見込みです。今後の普及に関しては、初島駅の新駅舎の効果を検証した上で、検討するとのことです。

ところで、今回の初島駅の3Dプリンター駅舎は約10平方メートルということもあり、現駅舎と比較すると、ずいぶんコンパクトになりました。現駅舎からのコンパクト化について、JR西の担当者に尋ねると「現駅舎はご利用人員がもう少し多かった時代に建てられ、その後の利用実態の変化もあり、現駅舎は規模過大」とし、「ご利用状況に即した大きさで今回駅舎を整備した。最終的には券売機、自動改札機、ベンチなどを設置する」と述べ、コンパクトながら、現在のニーズに対応した駅舎にする姿勢を示しました。

3Dプリンター駅舎は現駅舎の横に設置された

セレンディクスの共同創業者である飯田國大氏は3Dプリンター駅舎に関して、「かなりの鉄道会社から問い合わせが来ている」と述べ、3Dプリンター駅舎はJR西のみならず、他の鉄道会社からも注目を集めていることを明らかにしました。

セレンディクスの共同創業者である飯田國大氏

今後は全国的に初島駅のような1日乗降客数1000人以下の駅に、今回のような3Dプリンター駅舎が導入されるのではないでしょうか。

初島駅に入線した初電の和歌山行き

記事:新田浩之

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