観れば「血が哭く」激烈ゴアバトル×悲しき少年兵ゾンビ!『血戦 ブラッドライン』&『哭戦 オペレーション・アンデッド』
いつの間にか桜が散りお花見気分も過ぎ去った4月18日(金)、春眠どころじゃない強烈な2作が日本公開を迎える。その名も『血戦 ブラッドライン』と『哭戦 オペレーション・アンデッド』。血が吹き出し哭き叫ぶ<戦>とは、なんとも物騒なタイトル。ちなみにどちらも<R15+>指定だ。
血も凍る北欧バイオレンス『血戦 ブラッドライン』
まずはフィンランド発のバイオレンス映画『血戦 ブラッドライン』から。――悪名高いリンド三兄弟が仕切る会員制の<クラブ>は裏社会の拠点でもあり、享楽と苦痛の入り乱れる魔窟となっていた。そこに口の固さを買われ番人(ドアマン)として雇われた、ムショ上がりの男カイヴォラが主人公ということになるだろうか。
あるとき武装した傭兵軍団がクラブを襲撃、残虐な殺戮を繰り広げる。突然の凶行に、カイヴォラたちは籠城し応戦。血肉と銃弾が散る攻防の中で、三兄弟と襲撃者の恐ろしい因縁が明かされてゆく……。
筋書きとしてはシンプルだが、いったい何が起こるのかは観なければ全く予想できない。ムチッと屈強な短髪野郎たちがスクリーンを埋め尽くし、タフガイおしくらまんじゅうの様相。かたや北欧らしい冷たく暗い映像は、観客の冷静な判断力を遮るような緊張感がある。
残酷に残酷を乗せた激烈ゴア全開アクションに思わず脂汗
本作はマフィア絡みのクライム劇のように静かに始まりながら、突然その暴力性を開放する。しかも、「フィンランド史上もっとも暴力的な映画」と謳うだけあって、いわゆるアクション映画におけるバイオレンスの範疇を完全に超えた、もはやスプラッタホラーのような超絶ゴア描写が大きな見どころだ。
監督のイサ・ユシラは本国のインディー映画界では名の知られた存在で、過去のフィルモグラフィを遡れば『ゴアマゲドン』(原題/2011年)など嗜好が丸わかりのタイトルが並ぶ。本作はそんなユシラの劇場長編デビュー作であり、彼のゴア映画愛がこれでもかと炸裂している。
大流血、身体損壊、苦痛のうめき声……とにかく“ガツンと暴力”を味わいたい! というエクスプロイテーション映画好きにオススメしたい『血戦 ブラッドライン』は、4月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサほか全国順次ロードショー。
なぜ少年兵たちがゾンビに!?『哭戦 オペレーション・アンデッド』
続いては『哭戦 オペレーション・アンデッド』。舞台は1941年、第二次世界大戦の真っ只中である。戦火は世界各地に広がり、中立国であるタイ南部・湾岸の村でも、有事に備え少年までもが兵士として訓練を受けていた。そんな状況下で伍長メークは恋人との間に子を授かり、束の間の幸せを噛み締めていた。
しかし、多数の戦艦を率いて日本軍が村に上陸すると事態は一変。メークの弟モークをはじめ、少年兵たちが日本軍との戦いに駆り出されていく。タイ政府は日本政府と友好的に交渉をしようと試みるが、一方で日本軍は“ある生物兵器”をタイに持ち込んでいた。それは禁断の実験によって生み出された、殺しても立ち上がる“不滅の兵”だった――。
バイオホラーみ強めのエクストリーム・ミリタリー・トラジック・ゾンビ映画
タイは大戦時に植民地支配を受けなかった数少ない国の一つだ。かつて日本とは絶妙な距離感を保ちながらも長らく同盟関係にあり、それは今日の良好な対日感情が物語っている。日本軍をフィーチャーしたのは史実ベースの<もしも>をテーマにしたリアル志向の演出であり、あくまでフィクションであることが強調されている。
そんな本作は『血戦~』とは一転、カラッと明るく色彩濃度も高い、なんとも常夏の国らしい映像が印象的。時代背景を忠実に表現したレトロなビジュアルも新鮮で、これからゾンビ蔓延るホラーな展開になるとは想像できない“苦況の中での青春劇”といったオープニングだ。
とはいえゾンビ云々以前に戦争の悲惨さをしっかりと見せつけつつ、ホラーの要となるゾンビ描写もかなり新鮮。密林を逃げ惑う若き兵士たちに襲いかかるゾンビは俊敏かつ獰猛で、『プレデター』シリーズの“人間狩り”的な恐怖もある。
腐臭が漂ってきそうな被害現場や思わずニヤリとさせられる強烈ゴア描写など、『ウォーキング・デッド』シリーズ等を経た今ならではのショッキング演出の数々はビジュアル的なセンスはもちろん、その完成度の高さに驚かされる。
「常夏ゾンビ映画」の新たな傑作が誕生
もちろんタイ兵だけでなく日本兵たちもゾンビの犠牲となるわけだが、両軍上層部のつばぜり合いを描くことでドタバタ・スプラッタに陥らない歴史~戦争映画としての側面を確保。バイオホラーでありながら、戦争の犠牲になるのは性別も年齢も問わず、常に貧しい庶民なのだと訴える。そして阿鼻叫喚の端々に、あの名作ゾンビ映画のオマージュか、あるいは実際の報道写真の投影かと思わせるようなカットも挿し込まれる。
本記事で言及したのは映画本編の、ほんの序盤にすぎない。タイの名匠アピチャッポン・ウィーラセタクンの初期作品のスタッフとしてキャリアをスタートさせたコム・コンキアート・コムシリ監督は本作で、自身の代名詞的作品『Khun Pan(原題)』シリーズと地続きの時代背景を選んだ。呪術など自国の土着文化を幻想的に盛り込む演出も引き継いでおり、その禍々しさは『哭声/コクソン』(2016年)を彷彿させる。
「タイ発のゾンビ映画」に対する先入観を覆しまくり、とにかく映画としての強度が凄まじい本作。幸い事前情報も限られているので、是非まっさらな状態で劇場に足を運んで欲しい。常夏ゾンビ映画の新たな傑作の誕生を目撃しよう。
『哭戦 オペレーション・アンデッド』は4月18日(金)より全国公開