フランスでは洋服のお直し代を国が一部負担!日本でも大切な洋服をお直しするという選択を
物を長く大切にする文化が根付くフランスで、2023年10月から衣類や靴の修繕・修理をすると、代金の一部を政府が負担してくれるという制度が始まりました。 ファストファッションの普及やどんどんアップデートされる流行などによって、直すより新しいものを買う方が効率的という時代ですが、やっぱりお気に入りの服とは長く付き合いたいもの。 お直しやデザインリメイクを行う東京・自由が丘にある洋服のお直しができるカフェ『nucafe』の髙畠海さんを訪ね、洋服をお直ししながら⻑く着る楽しみ、おもしろさについて伺いました。
髙畠 海さん
山口県立大学家政学部卒業/山口県立大学院国際文化学研究科修了。2002年フィンランド・ヘルシンキ芸術デザイン大学(現アールト大学)ファッションショー「HIMO」参加。在学中よりミュージカルやダンスの舞台衣装製作、各種イベントの衣装制作に携わる。現在は、自由が丘の『nucafe』にてサイズ直しからデザインリメイクを行う。著書に『手ぬいでできちゃう!服のお直し』(新星出版社)がある。 Instagram:@nucafe_jiyugaoka、@recouture_k
新しい服を買う前に、「お直し」という選択を
フランスでは持続可能なファッションを目指す取り組みの一環で、2023年10月から服や靴の修繕・修理をすると、代金の一部を政府が負担してくれるという制度がスタート。 フランス政府のパートナー・エコ団体である「Refashion(リファッション)」の認定を受けたショップで修繕・修理をすると、内容に合わせて7〜25ユーロの手当が支給されるそうです。 世界的にも衣類廃棄が問題になっているファッション業界。日本でも近年フリマアプリやフリーマーケット、セカンドハンドショップを利用する人も増え、捨てない選択肢も増えてきました。 自分の手元から必要とする誰かの元へ受け継ぐというのもいいけれど、お直ししたりリメイクしたりして、できるだけ長く楽しむというのもやっぱりいいものです。
お直しは究極のオーダーメイド。自分だけの特別な1着に
服の破れや虫食いを直したい、体型の変化に合わせてリサイズしたい、パンツをスカートにリメイクしたいと、お気に入りの1着を手に近所の方はもちろん海外からも、老若男女さまざまな人が髙畠さんのもとを訪れるそう。 誰がどんなシチュエーションで着るのか、その服の問題点はどこにあるのか、対象物が明確なお直しは、オーダーメイドに近いと話す髙畠さん。思い入れのある服をほかにない1着に仕上げていきます。 「お直しは、究極のオーダーメイドだと思っています。お直ししてまで長く着たいということは、それだけ思い入れがあるということ。穴が開いたり、引っ掛けてしまったり、破れたりしたら気持ちが沈んでしまいますが、お直しを施すことで世界にひとつのオリジナルに。落ち込んだ気持ちを喜びに変えるお手伝いができたら思っています」。 服もバッグも、靴も、手をかけることで、より愛着も増すはず。「服とそんな付き合い方をして欲しい」と髙畠さんは話します。 髙畠さんは、お直しの相談から採寸・フィッティング、縫製、仕上げまで1人ですべてを担当。丈詰めひとつとってもいかに体型に合わせられるか、着る人のライフスタイルに寄り添えるかが大事です。服のデザインやパターンも学んだ知識や経験を生かしながら最適解を探ります。 「流行のスタイルもいいけれど、洋服を素敵に着こなすためには自分の体型に合っているかどうかが重要です。その方が流行に左右されず長く着ることもできます。だからこそ細部までしっかり確認して相談しながら調整するようにしています」。
着る人の想いまでよみがえる。お直しの魅力とは
「『ほかで断られたけど、これも直せる?』と、服だけでなくバッグやアクセサリー、たまに靴までお直しに持ってきてくれるお客さまもいます」。 髙畠さんのアイデアと技術、経験を信頼して、まるで駆け込み寺のようにさまざまな相談が寄せられます。昔初任給で買ったバッグやコート、就職して初めて両親に買ってもらったスーツ、祖父母の形見やおさがりなど。40年前、50年前のものも多いそう。 「昔は既製品が少なかったので、オーダーメイドが多かったんですね。今より生地が良いものも多く、大切にとっておいている人も多いです。私の父も当時のスーツはほとんどがオーダーメイド。今は受け継いでお直しして着させてもらっています」。
こちらは古いレザージャケットのリメイク。襟を取ってシルエットを調整してノーカラージャケットに。
このジャケットのように虫食いや破れ、取れないシミがあったら、上から刺繍を施したり、端切れを重ねて隠したりと新しいデザインとして蘇らせるなど、アイデアにセンスが光ります。 また、履けなくなったデニムには布を付け足してリサイズしたり、ノースリーブワンピースに袖を付け足したり、パンツをスカートにしたり、ロングコートをショート丈にしたり。ほかにもさまざまなオーダーに応えます。
「袖を足したり襟を取ったり、形を変えたりと好みに合わせてリメイクしたり、体型の変化に合わせてリサイズする方も多いです。どれも制限があるなかでいろいろとアイデアを出すのは楽しいし、やりがいもあります。 もしかしたら、オーダーメイドよりお直しの方が難しいかもしれません。シャツひとつとっても縫い方や順序も違うし、仕様も違う。また服を作るのとは逆の手順をふんでいくので、それもお直しの難しさであり、おもしろさでもあります」。
お気に入りを長く大切に。その楽しみ方を伝えていきたい
中学生の頃から自分でTシャツの丈詰めするほど、服が好きだったという髙畠さん。 「学生時代から、自分が60歳になっても着たいかという基準で服を選んでいました。良いものを長く使いたい、好きで買ったものは長く手元に置いておきたいと思っていました」。 大学・大学院では、デザインやパターンなど服づくり全般をしっかりと学んだそう。また当時から友人にお直しを頼まれたり、ショーやイベントなどの衣装づくりに携わったり。なかでも、お直しを仕事に選んだのは、もともとオーダーメイドに関心があったこともきっかけのひとつでした。 「自分がデザインしたものが、知らない人の手によって作られ、売られて、知らない人が着るということに責任が持てないなと感じたんです」。 髙畠さん曰く、イギリスなどヨーロッパではツイードジャケットは3代受け継ぐのはあたりまえと言われているほど、良質な服を長く大切に着ることが根付いているといいます。 「昔、ヨーロッパに長期滞在して旅をしました。ポルトガルやエストニアで、新しい建物もあれば、ひとつ角を曲がれば壁がボロボロで骨組が剥き出しになっている場所も。そんな新しいものと古いものが共存する景色を見て、純粋にかっこいいなと思って」
髙畠さんがこの日履いていた靴は、なんと25年程前に地元で購入したミハラヤスヒロのもの。大事にメンテナンスしながら履き続けているそうです。 「雑誌を見て気になって、地元のセレクトショップで購入したのを覚えています。ソールも中も修理を重ねて長く履いています。どんどん自分の足に馴染んでくる感じも良いですよね」。 修理を重ねながら、物を大事に長く使い続けて受け継いでいく姿勢。それはもともと日本にもある考え方や価値観でもあります。 「いまは流行を追いかけてどんどん情報をアップデートしていくことが必要な時代。そういう世界があることは否定しないけれど、それだけじゃない物との付き合い方や楽しみ方があるということを、お直しを通して伝えていけたらと思っています」。
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思い入れのある服が、自分だけの特別な1着として生まれ変わる「お直し」。 お気に入りをアップデートしながら長く愛用することは、自分らしいファッションの楽しみ方や可能性を広げてくれるようにも感じます。 新しい服を探しに出かける前に、クローゼットにある服を見直してみるのも良いかもしれません。
■お店情報nucafe住所:東京都目黒区自由が丘3丁目7−10営業時間:お直し 12:00〜19:00 BARsalon 17:00〜24:00定休日:お直し 水・土 BARsalon 水Instagram:@nucafe_jiyugaoka @recouture_k※最新の営業情報などはお店のSNSなどでご確認ください。 執筆:高野瞳 撮影:飯本貴子