【「シズオカ×カンヌウィーク2025」の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」完成作品上映会】日本映画の未来を担うクリエーターの短編作品を連続上映
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区のMIRAIEリアンコミュニティホール七間町で5月25日に開催された「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」完成作品上映会を題材に。
ndjc(New Directions in Japanese Cinema)とは、映画をはじめとしたコンテンツ産業の国際展開支援、グローバルに活躍できるクリエイターの人材育成を行う映像産業振興機構(VIPO)が2006年度から実施する事業。文化庁から委託を受け、若手映像作家を対象に、ワークショップや製作実地研修を行う。
2024年の第77回カンヌ国際映画祭では、ndjc出身の山中瑶子監督が河合優実さんを主演に据えて撮った「ナミビアの砂漠」が国際映画批評家連盟賞に選ばれている。
静岡市で開催の「シズオカ×カンヌウィーク2025」のコンテンツの一つとして実施された「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」完成作品上映会は、同プロジェクトに参加した6作家の作品を上映した。このうち、2024年参加作家の3本を鑑賞した。
たかはしそうた監督「あて所に尋ねあたりません」は、派遣労働者として仕分け倉庫で働く、他者とのコミュニケーションが苦手な女性が、職場を離れる男性社員に思いを伝える手紙を渡そうとする物語。
さまざまな場所からやってきた荷物がコンベヤーで仕分けられる。荷物はいずれ配送業者によって個人宅に届けられる。仕分け工場の中では段ボールに封じ込められた荷物は、どこから来て、どこへ行くのかが判然としない。それは、派遣会社ごとに勤務時間や待遇がまちまちの派遣労働者たちのありようと奇妙な相似形を描く。
武田かりん監督「いちばん星は遠く輝く」は3年付き合った恋人を今も忘れられない女性が主人公。ペットショップ勤務の彼女は、ペットのハムスターを失った友達の「ロス」に付き合うが、友達はそれをあっさり乗り越える。
「うみべの女の子」(ウエダアツシ監督、2021年)の演技が印象的な石川瑠華さんの「過去の恋愛を引きずりまくる女子」ぶりが素晴らしい。別れて半年もたつのに、ワンルームマンションの洗面台のコップには歯ブラシが2本立てられたまま。元カレの誕生日、ショートケーキを二つ、泣きながらわしづかみで食べる場面が秀逸だ。
守田悠人監督「あわいの魔物たち」は、光と風が心地よく感じられる秀作。東京在住の女性がパートナーの男性と愛犬を伴って、空き家になっている田舎の実家に里帰りする。静かな会話が続く中、犬がいなくなるという「大事件」が起こる。
とにもかくにも、会話の間が多い脚本が素晴らしい。まきストーブのあるリビングとキッチンでの男女のやりとりに心をつかまれた。カレー味のカップヌードルの出来上がりを待つ男。旧知のおばあさんからもらった柿の皮をむく女。男は読みかけの文庫本を読む。女は柿の果肉を切り取って男に差し出す。口に入れた瞬間顔をしかめる男。渋柿だったようだ。こうしたやりとりが、必要最小限のせりふで描かれる。ラストシーンでは軒先につるした干し柿が揺れる。いいあんばいの詩情を感じた。
(は)