細野晴臣が日本の音楽シーンに与えた影響 ⑧ 散開に向かうイエロー・マジック・オーケストラ
細野晴臣が日本の音楽シーンに与えた影響 ⑧
コンセプトは歌謡曲、オリコン2位を記録した「君に、胸キュン。」
1981年に『BGM』と『テクノデリック』という、イエロー・マジック・オーケストラの持つ可能性を究極まで突き詰めた2枚の名盤をリリースして活動を休止した彼ら。メンバーの間では、活動を終えることも考えていたが、アルファレコードの意向により、解散はひとまず先延ばしにされた。翌1982年、イエロー・マジック・オーケストラとしての活動は休止となり、それぞれが個々に活動。細野晴臣は、高橋幸宏と共に “¥ENレーベル” を設立するとともに、ソロアルバム『フィルハーモニー』をリリースした。
1983年になるとシングル「君に、胸キュン。」で活動を再開。すでにバンドとしての活動を終えようと考えていたところ、カネボウ化粧品のコマーシャルソングのタイアップの話が来た。急遽レコーディングが行われ、同年3月25日にシングルとしてリリースされた。『BGM』や『テクノデリック』の路線とは打って変わった振付つきの歌モノで、コンセプトは歌謡曲。オリコンシングルチャートで最高2位を記録して、彼らのシングルとしては最も売れた作品となった。
全曲歌モノのアルバム「浮気なぼくら」
同年5月24日には7枚目のアルバムとなる『浮気なぼくら』をリリース。細野は「LOTUS LOVE」を提供。ほか、高橋との共作名義による「FOCUS」「EXPECTING RIVERS / 希望の河」、坂本龍一との共作名義による「WILD AMBITIONS」が収録されている。
このアルバムは、坂本と高橋の楽曲も含め全曲歌モノで、これまでとは大きく路線を変更した作品となった。それらは、シンセサイザーや打ち込みを使用したポップスで歌謡界にも影響を与えた。後にテクノ歌謡と称せられ、歌謡界にも同様のサウンドを持つ楽曲が数年の間に多数登場することになる。
ちなみに、細野晴臣が提供した主な作品には、イモ欽トリオ「ハイスクールララバイ」(1981年)、山下久美子「赤道小町ドキッ」(1982年)、松田聖子「天国のキッス」(1983年)、中森明菜「禁区」(1983年)、安田成美「風の谷のナウシカ」(1984年)などがある。
“散開” 前のラストアルバム「サーヴィス」
83年の7月27日には、ボーカル部分をシンセサイザーに置きかえたリミックス・アルバム『浮気なぼくら(インストゥルメンタル)』もリリースされた。同日にはシングル「過激な淑女」、9月28日にはシングル「以心電信」(You've Got To Help Yourself)をリリース。そして、12月14日に “散開”(解散)前のオリジナルラストアルバム『サーヴィス』をリリース。
当初は、『浮気なぼくら』を最後のアルバムとする予定だったが、高橋の提案により三宅裕司率いるスーパー・エキセントリック・シアターとのコラボレーション・アルバムが企画された。すでに散開が決定しており、最後のツアーとなる『1983 YMOジャパンツアー』が11月23日から東京・日本武道館など全国6カ所で行われていて、あくまで “散開” 記念の企画アルバムだった。年が明けて1984年2月2日には実質的なラストアルバムとなったライブアルバム『アフター・サーヴィス』をリリース。これは前述の武道館公演を収録したもので、オリコンのアルバムチャートで最高2位を記録した。
デトロイト発の音楽ジャンルであるテクノに迎合した「テクノドン」
そして、散開から10年を経た1992年2月に再生(再結成)が発表され、過去のライブ映像『ハラー』、『Y.M.O.伝説 1983散開コンサート at 武道館』、リミックス・アルバム『ハイテック・ノークライム』、『YMO versus THE HUMAN LEAGUE』などがリリースされた。
1993年5月26日にはアルバム『テクノドン』をリリース。テクノポップとは別ジャンルの、デトロイト発の音楽ジャンルであるテクノに迎合する形の作品となり、オリコンチャートでは最高2位を記録。6月10日と11日には、東京ドームにてライブも開催されたが、結果的には最後のオリジナル・アルバムとなった。
テレビコマーシャルに使用された「RYDEEN 79 / 07」
その後のイエロー・マジック・オーケストラとしての演奏は、2001年にNHK-BSの『細野晴臣イエローマジックショー』で、褞袍(どてら)を着て「ライディーン」を演奏。2004年には、ヒューマン・オーディオ・スポンジ名義で、国際フェスティバル『Sonar Festival 2004』や『sonarsound tokyo 2004』にて演奏をした。
2007年には、キリン ラガービール&クラシックラガーのテレビコマーシャルで「ライディーン」を新たなアレンジで録音した「RYDEEN 79 / 07」が使用された。同曲は配信リリースされ、iTunes Storeでダウンロード1位を記録。その後も多数のリミックス、発掘ライブ作品、ボックスなどがリリースされた。2023年に高橋幸宏と坂本龍一が逝去したため再結成は不可能となってしまったが、現在でも高い人気を得ており、後世のミュージシャンに大きな影響を与え続けている。
参考文献:
『コンパクトYMO』(徳間書店 / 1998年)
北中正和 編『細野晴臣インタビュー THE ENDLESS TALKING』(平凡社 / 2005年)
鈴木惣一朗『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音をつくってきた』(DU BOOKS / 2010年)
細野晴臣『アニエント・ドライヴァー』(マーブルトロン / 2011年)
藤井丈司 『YMOのONGAKU』(アルテスパブリッシング / 2019年)
門間雄介『細野晴臣と彼らの時代』(文藝春秋 / 2020年)
吉村栄一 『YMO1978-2043』(KADOKAWA / 2021年)
『イエロー・マジック・オーケストラ 音楽の未来を奏でる革命』(ミュージック・マガジン / 2023年)
田中雄二『シン・YMO イエロー・マジック・オーケストラ・クロニクル1978~1993』(DU BOOKS / 2023年)