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【アニメーション作家村本咲さんインタビュー】清水駅前芸術祭で公開中。各国の映画祭受賞相次ぐ「パーキングエリアの夜」とは

アットエス

3月22日に静岡市清水区のJR清水駅南北の4会場で始まった「清水駅前芸術祭」は、本県ゆかりのアーティスト13人が参加している。その一人、村本咲さん(静岡市葵区)はアニメーション作品「パーキングエリアの夜」(2024年)が昨年10月の第26回「DigiCon6 ASIA」(TBS主催)でグランプリを獲得し、今年2月には米国のスラムダンス映画祭短編アニメーション部門グランプリに選ばれるなど、各国で評価が急上昇している作家だ。静岡県内初上映の同作品について聞いた。(聞き手、写真=論説委員・橋爪充)

1枚の絵が発端だった

-「清水駅前芸術祭」で上映中の「パーキングエリアの夜」は日米のみならずブルガリアの第20回ヴァルナ国際アニメーション映画祭でグランプリ、韓国の第20回ソウルインディアニフェストで観客賞、フランスの第16回パリ国際アニメーション映画祭で最優秀監督賞を獲得するなど、多くの国で高い評価を得ています。こうした状況をどうご覧になっていますか。

村本:自分の中では特にスラムダンス映画祭(での受賞)が大きかったですね。2026年アカデミー賞の選考対象作品に入ることになります。こんなにも国際的な評価をいただいたのは初めてなのでびっくりしています。

-11分ほどのシンプルな作品ですよね。多くの動物が乗り合う高速バスが、とあるパーキングエリアに停車します。乗客は思い思いにエリア内で時間を過ごし、自分の席に戻ります。それだけと言えばそれだけですが、小さな物語の起伏がいくつもあり、作画も巧みです。どこからインスピレーションを得たのですか。

村本:2017年ぐらいに、夜行バスのツアーに参加して、学生時代によく高速バスに乗っていたことを思い出したんです。それで、ツアーバスの車内のイラストを描いてみたら、それを動かしたくなって。物語が浮かんだので1シーンだけアニメーションを作りました。そこからいろんな物語を肉付けしていきました。

-夜行バスの中でビーバーが口を開けて眠っている場面。1枚の絵が発端だったんですね。

村本:2019年から本格的に製作を始め、仕事の合間に少しずつ作っていきました。2023年度に文化庁の助成金をいただけることが決まり、ここで初めて「締め切り」ができました。本格的な製作期間は2023年から2024年3月にかけてです。

-人の営みを動物に置き換えたのはなぜですか。

村本:2013年からずっとそうです。学生の時は人間を取り上げていましたが、年齢や性別、国籍を描かなくてはいけなくなくなる。それ、必要ないと思ったんです。(登場人物を)動物にすれば、親しみやすいフォルムだから見る人も受け入れやすいですし。

-ストーリーはどのように考えたんですか。

村本:私たちの日常、「プチ事件」がいろいろ起こるじゃないですか。人に言うほどではないけれど、自分の中では結構大きい出来事。そういう小さいことの積み重ねを、自分自身は楽しんでいるんです。もともとパーキングエリアが好きで、そこでの時間を味わいたいという気持ちもあった。それでこんなものができました。

-ベンチに複数の動物が腰かける場面、発光する自販機の前でみんなが寒風に身をすくめる場面など、互いに「距離」を意識する様子がユニークです。

村本:いかにも日本人っぽいですよね。一人でいたくはないけれど、近すぎると嫌。あんまり他人と話をしたくはないけれど、ひとりぼっちも怖いという。(その場面は)心地いい距離感のあらわれだと思います。

-夜のパーキングエリアなので、全体にモノトーンに近い色合いですね。

村本:色がそんなに必要がない設定にしたのは、一人で作っている私にとって効率的かつ効果的だからです。あんまり色が多いと作業工程が増えるので。

-今回が県内初公開ですね。

村本:作品に出てくるパーキングエリアは東名高速道の静岡、足柄、海老名といった、パーキングエリア、サービスエリアをモデルにしています。静岡の方々にとって馴染みのある場所ではないでしょうか。

美大を目指したのは高3の夏休み

-1988年に生まれ、静岡西高を卒業されています。最終学歴は東京芸大大学院映像研究科アニメーション専攻修了とのことですが、美術の道を進もうと思ったのはいつでしょうか。

村本:高校3年の夏までは何も考えずに部活でハンドボールをやっていました。美大に行くと決めたのは夏休み。(美大予備校の)静岡美術学院に通い出しました。実は(美術家)薩川紗央さんをはじめとした芸術祭の主要メンバーは、その時の仲間なんです。

-アニメーションは昔から好きだったんですか。

村本:NHKでやっていた「パクシ」や「ニャッキ!」が好きでした。コマ撮りアニメなんですが、高3になって一人で作れると知り、自分もやってみたいと思いました。

-ずっとアニメーションを学んでいたのですか。

村本:名古屋学芸大に進み、CGや映画を含めた映像メディア全般を学んでいました。その中でアニメーションだけを専門的にやりたいという思いが募り、(「パクシ」の作者)山村浩二さんが東京芸術大で教授をやっていらっしゃると知って「行きたいな」と。

清水駅前芸術祭で上映中の「干支新年会」に登場する動物たちのパネル

見どころが多い清水駅前芸術祭のアニメーション作品

-今回の芸術祭では村本さんも含め、アニメーションや映像作品が目立ちますね。

村本:みんな知り合いなんですが、大好きな作家でもあります。スズキハルカさん(静岡市清水区出身)は商業的に成功しているアニメーション作家で、技術も高いと思います。鈴木沙織さん(富士市出身)は独特の造形が特徴。見た目はポップでカラフルで楽しいんですが、動きがどこか不気味で狂気と紙一重だなと感じます。餅山田モチ世さん(静岡清水区出身)、仁藤潤さん(同)は過去のコマ撮りアニメを出品していますが、とてもクオリティーが高い作品です。埋もれてしまうのはもったいない。たくさんの人に見ていただきたいです。

-次の作品も含め、創作活動について何か考えていることはありますか。

村本:今後もアニメーションは作っていくでしょう。ただ続けるために、制作資金の問題があってそこが課題かなと。助成金を集めたり、誰かにプロデュースしてもらうことも考えたいですね。発表の場が少ないのも悩みの種です。短い作品は映画館で上映してもらえないから、映画祭しかないんです。ウェブ公開もいいんですが、あんまり安売りしたくない。

-テーマやモチーフについてはいかがですか。

村本:常に共通したテーマで作ろうとは考えてはいません。同じことはやりたくない。自分がびっくりできることをやりたいですね。

<DATA>
■清水駅前芸術祭
会場:清水駅前銀座商店街、まちかどギャラリー、AKIBAKO、静岡市清水文化会館マリナート
会期:3月30日(日)まで※観覧無料
展示時間:月~金曜午前10時~午後4時半、土日曜午前10時~午後5時半

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