選手と共に走る! 舞台裏の情熱 フクダ電子アリーナ 芝のプロフェッショナル
ジェフユナイテッド市原・千葉のホームスタジアム「フクダ電子アリーナ(以下、フクアリ)」。そのピッチには、常に芝を最高の状態に保つ努力が続けられています。第一線で芝を管理する一人、日本体育施設株式会社 (関東支店)※の後藤拳人さんに話を聞きました。
(取材日/6月26日)
※蘇我スポーツ公園の管理運営を行う指定管理者「SSP UNITED」の構成企業
季節と共に変わる「芝の顔」
フクアリでは、季節に応じて「夏芝」と「冬芝」を使い分けてピッチを調整しています。夏芝はクッション性が高く、選手の足元の負担を軽減。一方で冬芝はやや硬めですが、寒さに強く、冬場でも緑度の高いピッチを維持できます。夏芝の成長が止まる秋口には冬芝の種をまき、傷んだ部分は砂と種を混ぜた素材で補修。春には逆に、芝を短く刈ることで冬芝の衰退を促し、自然に夏芝へとバトンタッチさせます。「天候や気候の変化に合わせて常に芝の状態を確認。課題をあぶり出し、考え、臨機応変にアプローチする」。これが芝の守り人・後藤さんたちの心構えです。
ピッチコンディションを高める努力
芝の状態は、選手のパフォーマンスにも大きく影響します。ボールの転がりやバウンド、選手の足元の安定感など、全てに芝が関わっています。「ボールをスピーディーに動かすチームのスタイルに合わせて、現在は芝の長さを12〜14mmに調整しています。少し短くするだけでボールの走りが全然違ってきます」と後藤さん。試合ごとにチームスタッフと密に連携を取り、最適な刈り高を見極めているのだそう。
また、真夏の高温時には涼しい時間帯に散水したり、真冬の寒さから守るためにシートをかぶせたり、芝の健康を守るための工夫も欠かしません。各作業においてタイミングを重要視しています。
試合直後のピッチは、見た目以上にダメージを受けています。特にゴール前や副審の走るエリアは、激しい摩耗が発生。「試合翌日には、ダメージの大きい部分を差し替えたり張り替えたりして、1週間で回復できるように整備します。冬場は中1日で試合が続くこともあるので、発芽を待つより即効性のある差し替えが重要になります」。また、補修した部分が目立たないよう、乾燥させた砂に着色料を混ぜて色を調整するなど、観客の目に触れない工夫も随所に光ります。
土壌とミリ単位の調整が職人の誇り
健康な芝を育てるためには、「土壌の質」も大きな鍵になります。後藤さんたちは「コアリング」「スパイキング」などの更新作業を定期的に行い、通気性や水はけ、栄養バランスを整えています。「フクアリはpHが高いことが課題の一つでもあるため、鬼怒川の砂を取り寄せて改善を図りました。高価ですが、それだけの価値がありますね」と、素材選びも徹底。
芝の高さは1mm違うだけでも、見た目にもプレーにも影響を及ぼします。特に差し替えた部分の調整は非常に繊細で、その違和感には何より選手自身が敏感だといいます。外周部分の芝についても、包丁を使って手作業で整えるなど、細部にまで気を配る。こうした丁寧な仕事が、フクアリのピッチの機能性と景観を支えているわけです。
J1昇格を今日も足元から支えて
後藤さんは自身もサッカー経験者で、学生時代はサイドバックを務めていました。この仕事に就いた今では、試合を見る際にまず「芝の状態」が気になるようになったと話します。
「選手が主役で、僕らはその舞台を作る裏方。でも、スタッフや選手から『芝の状態が良くなったね』と声をかけてもらえると、本当にうれしいです」。
この仕事を始めたのは約5年前。前職は全く違う分野で、芝の知識はゼロからのスタートでした。毎日現場でメモを取り、帰宅後にExcelにまとめて勉強するなど、努力の積み重ねで技術を習得。現在では、バランスが難しいフィールド上のラインを自身で引くほどに正確で誠実な仕事ぶりが、周りの信頼を得ています。「できることは全部やる。その姿勢だけは忘れないようにしています」と、頼もしい笑顔を見せます。
フクアリは今年10月で開業20周年を迎える、防災機能も備えた地域密着型のスタジアム。選手の「舞台」としての価値も高く、ジェフサポーターのみならずアウェーサポーターからも評判です。「J1に昇格するその瞬間まで最高の芝でサポートしたい。そしてJ1の舞台では、ジェフが上位争いをする姿をフクアリ1番のグラウンドキーパーとして支えたいです」と語る後藤さん。美しい緑の舞台裏には、情熱と誇りに満ちた職人たちの、技と心が込められていました。
千葉市蘇我スポーツ公園
ホームページ/https://sogasportspark.com/