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「鎌倉のチベット」今泉台は自然豊かで、人生をリセットしたくなる場所だった

湘南人

画像出典:湘南人

今泉台は、鎌倉市の中心から少し離れた場所に位置しており、その静けさと豊かな自然が特長です。「鎌倉のチベット」と呼ばれる所以は、この場所が持つ独特の静寂と穏やかな雰囲気にあります。その中心となるのは、今泉台にある商店街。最近ではなぜか第二の人生をスタートさせるべく、なにかをチャレンジしたい人たちが引き寄せられてくるのだとか。人々が今泉台に惹かれる理由について探ってみました。

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「大船駅〜鎌倉湖畔循環」ルートを江ノ電バスに揺られて

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今泉台へのアクセス方法で特に便利なのは、江ノ電バスの「鎌倉湖畔循環」ルートです。大船駅東口から出発し、今泉台エリアを巡回します。バスは約15分ごとに運行されており、混雑することなく乗車できるため、観光客にとっても利用しやすいです。

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バスに乗りながら、鎌倉の美しい風景を堪能し、途中で地元の風景を楽しむことができるのも江ノ電バスの魅力です。

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今泉台へ向かう途中で下車して寄ったのは今泉不動とも呼ばれる寺院・称名寺。今泉不動の停留所から徒歩10分程度です。

滝とともに静かな時間が流れる、隠れた名所「称名寺」

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開山は弘法大師(空海)と伝えられ、元は真言宗の寺であったようです。江戸時代に入り、浄土宗の寺として再興(1684年頃)されました。本堂脇の弁天堂には弁財天、

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きつい傾斜の階段を登った先にある不動堂では、前立の不動明王が八大童子を従え、

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不動堂脇奥には三十六童子と大日如来をお祭りしており、今泉不動として親しまれているそうです。

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境内にある陰陽の瀧では時期になるとホタルが飛び交っているとか。
称名寺は、観光地として有名なスポットではありませんが、その分、静かに過ごせる場所です。観光客で賑わう鎌倉市内ではなく、オルタナティヴな鎌倉を味わいたい人にはぴったりの場所ではないでしょうか。

称名寺(今泉不動)

アクセス
JR大船駅東口5番バス乗り場より江ノ電バス「大船駅〜鎌倉湖畔循環」行→「今泉不動」下車→(徒歩5分)→称名寺(今泉不動)住所
〒247-0052 神奈川県鎌倉市今泉4-5-1電話番号
0467-45-1774
拝観時間
8:00~17:00
駐車場
あり公式ホームページ

関連リンク

【鎌倉市 観光スポットレポ】称名寺 - 澄んだ滝に心が洗われる

マイナスイオンたっぷりの鎌倉湖畔(散在ガ池)へ

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いよいよ今泉台に向かいます。バス車内、右手に見えるのが地元の方々が「鎌倉湖」と呼んでいる散在ガ池。今泉台の東側に広がる静かな池です。

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何もない、でも「静けさ」があるといった感じで、マイナスイオンのなかでデジタルデトックスをしたい人におすすめです。この日は誰ともすれ違うことがなかったので、とても集中できる環境なのは間違いないです。

ただ、足元があまり良くないので、トレッキングシューズなどを履いていったほうがよいかもしれません。苔が多く、滑ります。

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散在ガ池森林公園

アクセス
JR大船駅東口5番バス乗り場より江ノ電バス「大船駅〜鎌倉湖畔循環」行→「今泉不動」下車→(徒歩3分)→散在ガ池森林公園住所
鎌倉市今泉台七丁目930番1電話番号
0467-47-1176(散在ガ池森林公園管理事務所)
0467-45-2750(財団法人鎌倉市公園協会 事務所(鎌倉中央公園内))開園時間
午前8時30分から午後5時15分まで休園日
12月29日から翌1月3日まで
駐車場
なし公式ホームページ

散在ガ池(鎌倉湖畔)周辺には、湖畔商店街という小さな商店街があります。

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この商店街は、池を訪れる際の途中にあるため、散策の途中で立ち寄るのにぴったりの場所。観光地にはない、素朴で温かみのある店が並んでおり、かわいい屋根がチャームポイントです。

第2の人生をスタートしたくなる商店街とは

今泉台には、静かな環境と調和する小さな商店街が広がっています。特に「北鎌倉台商店街」に注目です。ここは地元の人々にとっては日常的に利用される商店街であり、たとえ観光客が訪れても、観光地特有の慌ただしさを感じることなく、地域の生活を感じながら過ごすことができるでしょう。

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商店街には、食料品店や雑貨屋、カフェなどが並んでおり、地元の人々の生活の一部としての役割を果たしています。昨今、「サカナヤマルカマ」という魚屋さんは、地域外からも注目されています。この店は、新鮮な魚を提供するだけでなく、移動販売も行っており、地元住民にとっては非常に便利な存在です。

魚屋のこだわりと天然魚への思い

サカナヤマルカマ(一般社団法人 鎌倉さかなの協同販売所)理事・狩野真実さんに話を伺いました。サカナヤマルカマでは、養殖や輸入魚を一切使わず、基本的には日本の海で取れる天然の魚のみを取り扱っています。狩野さんは、「日本は海に囲まれていて、たくさんの魚が取れるのに、スーパーで買える魚は限られている」と話し、そのため、サカナヤマルカマでは様々な種類の新鮮な魚を提供しています。特に、魚の状態には細心の注意を払い、旬の魚をその時期に美味しく食べてもらうことを重視しているとのこと。
「状態が悪い魚は売らないようにしており、その時期に良い魚だけを提供しています」

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サカナヤマルカマは地域のニーズに応えるべく、鎌倉市の買い物が不便なエリアに新鮮な魚を届けるために移動販売を行っています。「西鎌倉や二階堂、最近はテスト的に城廻に出店するなど、魚が手に入りにくい地域に出向き、住民主体で開催されたイベントに参加することで、地域の人々が新鮮な魚を手に入れる機会を提供しています」と狩野さんは語ります。

サカナヤマルカマでは丸魚を購入することで、鮮度が高い状態で複数の調理方法を楽しむことができます。
「刺身、焼き、そして汁物に使うことで、魚を無駄なく楽しめることを伝えたいですね」

サカナヤマルカマは、ただの魚屋ではなく、地域と共に新鮮で美味しい魚を届ける文化を作り上げているように思えます。狩野さんは、「日本の美味しい天然魚が食べられなくなる日が来ないように、地域の人々と一緒に美味しい魚を楽しむ文化を守っていきたい」と語ります。

チャレンジしたいひとたちが引き寄せられる街

今泉台という街について尋ねると、狩野さんいわく「この土地はなぜか人生で第二のチャレンジをしたいひとたちが引き寄せられてくる」とのこと。

「商店街入口のたい焼き屋さんは元々は広告系の仕事で、そこのパン屋さんは元美術教員でしょ。そもそも私はずっとアパレル業界にいたのに、今は魚屋さんですし」

人間は、自然が多くて落ち着ける環境でリスタートしたくなる生き物なのでしょうか。ちなみに鎌倉湖にはよく行きますか?と尋ねると、「私は行かないですね(笑)。でも今泉台にはハイキングコースがあるので山歩きが好きな人はけっこうこのエリアに来ていると思いますよ」

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取材途中にお店にいらっしゃったのは今泉台歴代の町内会長のおふたり。今泉台の歴史の証人がここに集結したところで、このエリアについて改めてお話をうかがいました。

元町内会長が語る今泉台の過去と現在、そして未来

なぜ鎌倉のチベットと呼ばれているのでしょうかと尋ねると「山にある街はだいたいチベットって呼ばれるんじゃないかしら」と笑ってこたえるのは今泉台の元町内会長でサカナヤマルカマの代表・田島幸子さん。

今泉台は昭和30年中頃から40年代にかけて開発されたベッドタウンで、現在もその名残を感じさせる静かな住宅地です。坂道が多く、自然環境に恵まれたこの地域は、かつて首都圏への通勤を目的としたサラリーマンたちが多く住む場所として栄えていたそうです。しかし、時が経つにつれ、地域の住民は高齢化が進み、若い世代が減少。こうした背景の中で、今泉台では住民同士が協力し、地域活性化や防災、防犯などに取り組んできたそうです。

今泉台の町内会では、地域住民同士の交流を深めるために様々な活動が行われ、地域の高齢者が安心して生活できるよう支援しているとのこと。地域イベントも充実しており、住民同士の絆を深めています。

超高齢化社会を迎えた街のモデルケースとして

しかし、深刻な課題も存在します。
「最大の問題は住民の高齢化だね。特に高齢者の増加に伴い、運転免許証の返納や買い物の不便さが顕著になっていますよ」と語るのは元町内会長で長年今泉台に住んでいる尾島さん。地域内の移動手段が限られているため、住民の生活に支障をきたしているそうです。また、医療機関の不足も大きな問題で、住民は近隣の病院や診療所へのアクセスに困難を感じています。

「だからこの街ではこれらの問題を解決するために、地域住民と行政や大学、企業と密に連携をしてきました」と語る田島さん。田島さんはサカナヤマルカマの代表でもあります。理事の狩野さんとともにお店の立ち上げに奔走し、開店当初は大変苦労したそうです。

「だって、それまで私はいわゆる普通の主婦だったので法人を作る知識なんかもちろんないですよ。大変だったけど、みんなが助けてくれました。なんにもわからないからこそ、怖いもの知らずだったというか。私がこれをやりたい!と言ったら、とにかく周りの人がそれぞれ得意なことをやって穴を埋めてくれて、なんとかお店のオープンにこぎつけました」

商店街がハブとなるコミュニケーション

取材の最中、狩野さんも田島さんも尾島さんも常に周りの人たちに「こんにちは!」と元気に挨拶をしていたのがとても印象的でした。この街では住民同士が対話をしながら買い物を楽しんでいるかのよう。商店街づくりが街づくりへと広がっている様子をリアルタイムに見ることができた気がします。

今泉台は、超高齢化という大きな課題を抱えつつも、住民の協力と行政の支援を受けながら、活気あふれる地域へと変わりつつあるようです。

サカナヤマルカマ

営業時間
11:00〜18:00頃定休日
月曜日、火曜日、第2第4日曜 ※その他店舗カレンダーによる
鎌倉市内各所で移動販売も​行っています
梶原山エリア 毎週水曜日 11:00-13:00
由比ヶ浜エリア 毎週金曜日 11:00-13:30
二階堂エリア  隔週木曜日 11:30-13:00
西鎌倉エリア  隔週木曜日 11:15-12:00頃
城廻エリア 隔週木曜日 12:30-13:30頃(2ヶ月のテスト販売)
今泉台 毎週水・金曜日 16:00~16:30頃 電話番号
0467-38-7017支払い方法
現金、カード、QR決済駐車場
ありアクセス
JR北鎌倉駅より徒歩約25分
JR大船駅東口5番バス乗り場より江ノ電バス「大船駅〜鎌倉湖畔循環」行→「北鎌倉台」下車徒歩2分住所
鎌倉市今泉台4-12-1

関連リンク

【鎌倉 ショップレポ】サカナヤマルカマ-魚屋の"if"の光景

続いて、この今泉台で新たなチャレンジを始めたひとたちを訪ねました。

元美術教員が営むパン屋Cailloux(カイユー)の挑戦

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Cailloux(カイユー)は2024年6月にオープンしたばかりのパン屋です。もともと大船に住んでいた吉田さんは、パン屋を開こうと物件を探していた際、たまたま見つけたこの商店街の物件に心を奪われたと言います。商店街には、お店がちらほらありつつも最初は少し寂しい印象を受けたそうです。ですが「焼き鳥居酒屋山や」の店主やたい焼き屋の店主など、まだ物件の下見をしている段階だったのに温かく迎え入れてくれてここで開業する決意をしたとのこと。

吉田さんは元々、学校の美術教員として働いており、パン作りは趣味として続けていました。一時期はパン屋になりたいと考えた時期もありましたが、仕事の忙しさから遠ざかっていました。しかし、育児休業中に再びパン作りに興味を持ち始め、挑戦を決意したそうです。

オープン前には、地域の人々に自作のパンを食べてもらう試食会を月に1回開催。商店街の焼き鳥屋さんが提供してくれる場所で、約1年間試行錯誤を繰り返し、地域の人々の反応を見ながら、満を持してオープンにこぎつけました。吉田さんの作るパンは「がっしりしたハード系」が特徴的です。

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現在も大船に住みながら、店に通っているそうで「自分のペースでやりたい」と語る吉田さんにとって、商店街の他の店主たちとのつながりは大きな支えになっているそうです。
「初めてのお店を開くには、同じ業界の人たちがいない方が逆に安心ですね」
この場所での挑戦を、地域の支えと共に楽しんでいるパン屋「Cailloux(カイユー)」に今後も注目です。

Cailloux(カイユー)

営業時間木・金・土 11:30 - 16:30
※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。定休日
月・火・水・日電話番号支払い方法現金、カード、QR決済(PayPay)駐車場
なしアクセスJR北鎌倉駅より徒歩約25分JR大船駅東口5番バス乗り場より江ノ電バス「大船駅〜鎌倉湖畔循環」行→「北鎌倉台」下車徒歩2分住所 神奈川県鎌倉市今泉台4-19-12

今泉台に住み研究を続ける大学院生杉山さんのおすすめスポット

半年前に今泉台に引っ越してきた大学院生の杉山さんが初対面にも関わらず自宅に招いてくれました。

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杉山さんは元々、吉田さんの美術教員時代の教え子。商店街の雰囲気と地域の人々との交流に魅力を感じた杉山さんは、すぐにこの場所に住むことを決めました。

初めて訪れたとき、家族と一緒に物件を見に行ったという杉山さんは、商店街の人々のフレンドリーな雰囲気に驚いたそうです。「みなさんとはもちろん初対面だったのですが、なぜかその晩、一緒にワインを飲んだりして楽しかったです」と語ります。

現在、杉山さんは仏教学を専門に研究しており、すぐそばに建長寺など歴史的建造物があるこの今泉台エリアはまさに杉山さんにうってつけの場所。周辺のおすすめスポットを聞いてみると、天園ハイキングコースを挙げてくれました。

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「鎌倉湖は……行かないですね(笑)。天園ハイキングコースはおすすめです。『十三岩』というスポットは歴史的にも非常に貴重なものですので一見の価値ありですよ。ぜひ行ってみてください。鎌倉の深い歴史を肌で感じることができます」

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さっそく行ってみましたが、こちらもハイキングコースと称してかなり険しい山道だったので、ちゃんとした靴を履いていくのをオススメします。杉山さんは今後もこの地域の変化とともに、さらに深い学びと新たな発見を楽しんでいくことでしょう。

「一丁焼きこたろう」店主の軌跡と新天地への挑戦

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商店街の入口でひときわ目立つ「一丁焼きこたろう」の看板。店主のこたろうさんは、1951年生まれ。法政大学夜学部を中退後、持ち前の好奇心を満たすためにコピーライターとしての道を歩み始めました。自転車が好きだった井上さんは、自らが広告を手掛けることで、好きな自転車の世界に没頭。その後、本作りにも意欲を燃やし、単著に『東大寺図鑑』(長崎出版)を手掛けるなど、異色の経歴を持つ店主です。

縁あって奈良に移住し、2009年4月より「一丁焼きこたろう」を開店。「一丁焼き」のこだわりたい焼きを作り続け、多くの人々に愛されました。その後、2022年10月に奈良を離れ、新天地・鎌倉に店舗を移転。今泉台で、井上さんは再び新たな挑戦を始めました。

「たまたまぼんやり見ていたテレビに今泉台が映ったとき、ここだ!ってビビッときた。それだけでここに引っ越しちゃったよ」と語る井上さん。商店街の活性化に貢献し、地域の人々と共に歩みながら、より多くの人に愛されるたい焼きを提供しています。

「一丁焼きこたろう」は、井上さん自身がこだわり抜いて作るたい焼きが特徴です。外はパリッと、中はふわっとした食感で、どこか懐かしくも新しい味わいを感じさせます。

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「自分がやりたいことをやることが最も大切だと思っています。お客様に喜んでもらえるものを作り続け、地域と共に成長していく。それが一番の喜びです」と語る井上さんの姿勢が、この街でチャレンジしたい人を呼び寄せているような気がしました。

一丁焼き こたろう 北鎌倉天空店

営業時間
10:00 - 18:00定休日
不定休電話番号
090-3238-0297支払い方法現金駐車場なしアクセスJR北鎌倉駅より徒歩約25分JR大船駅東口5番バス乗り場より江ノ電バス「大船駅〜鎌倉湖畔循環」行→「北鎌倉台」下車徒歩2分住所
神奈川県鎌倉市今泉台4-20-2

今泉台で感じた心の癒しと新たな発見

今泉台を実際に訪れてみて、最初に感じたことはその静けさと自然の美しさです。鎌倉市内の観光地は確かに魅力的ですが、今泉台のような静かな場所で過ごす時間はまさに心の癒しになります。トレッキングコースは自然に囲まれた空間であり、何も考えずにただ歩いているだけで心が落ち着きました。

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商店街の持つ平和な空気は観光地とは異なり、ここでは「観光する」というよりも「自分自身をリセットする」という感覚を味わうことができます。ここで何かを新たに始めたいという人が多いのも納得です。商店街で出会ったひとたちは、みな一様に挑戦者であり、地域とのつながりを大切にしながら、自己表現を追求しているように感じました。元美術教員のパン屋さん、元広告業のたい焼き屋さん、など彼らのようにこの場所には、何かを始めたいという人々が自然に集まり、その温かい人間関係が地域全体を包み込んでいます。そんな独特の雰囲気が、この今泉台の最大の魅力だと感じた一日でした。

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