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新時代を切り拓くトライアルライダー小玉絵里加選手

MOTOINFO

皆さんは二輪車の「トライアル」という競技をご存じでしょうか?バイクトライアルとは大きな岩や崖、そして人工的な障害物を設定したコースをいかに正確に、足を突かずクリアするかテクニックを競うモータースポーツです。そんなトライアルの世界に身を投じて24年、プロのライダーとしてライバルとしのぎを削ってきた小玉絵里加選手(以下、小玉選手)は、今や日本を代表するトップクラスの実力を持つ選手として知られています。これまでの競技人生や普段のバイクライフまで、オン・オフ両方での小玉選手のバイクの楽しみ方に迫ります。

トライアルライダー

小玉絵里加

1988年12月21日生まれ、奈良県出身。


11歳になった2000年より父の影響でトライアルを始める。2010年に近畿選手権NBクラスランキング7位NA昇格。2013年にトライアル国別対抗戦フランス大会に初出場を果たす。翌2014年のアンドラ大会にも代表選手として出場。2015年、全日本トライアルレディースクラスの設立に携わり、全日本トライアルレディース選手会の初代代表に就任。2016年から2022年にかけて、全日本トライアルレディースクラスのランキング2位に位置する。2019年には国際B級クラス昇格 (男女混争)する。近畿地区では女性史上初の快挙。

父の影響で始めたトライアル

ご実家がバイクショップで、お父さまがロードレースのチーム運営をしていたという環境で生まれ育った小玉選手。そのお父さまがトライアルに方向転換されたことから、小玉選手もトライアルの道に進むことになりました。

「父がトライアルに転向したのが2000年で、私が10歳の頃でした。元々父は趣味でトライアルをやっていて、私が広場でトライアルバイクに乗っていた姿を見て『この子はトライアルに向いている』と思ったらしく、『トライアルをやってみないか』と言われたんです。私自身もトライアルに興味があったので、軽い気持ちからでしたが自分自身で『やってみよう』と決めました。ちょうどその頃から反抗期に入ってて、大学生になるまではずっと父親とは喧嘩ばかりでした(笑)」

世界大会に挑む2013年までのプロキャリア

実家のバイクショップが運営するトライアルチーム「TEAMぱわあくらふと」への所属から始めた小玉選手。日々のトレーニングからさまざまな大会のレース参戦と、経験を積みながらステップアップしていきました。年齢や性別で区切られたレギュレーションがなかったため、小学5年生の小玉選手は大人に混じって競技に挑んでいたのです。

「当時は(トライアルが)“好き”というよりも、“悔しくて続けた”という表現が合っていると思います。始めたばかりの頃の私は体が小さくて、しかも周りは大人ばかり。バイクも、今のような車重が65〜70kgぐらいのコンパクトで軽い車両じゃなくて、85kgぐらいある海外製の古いモデルだったんです。それで大人たちと一緒に競技に参加するので、操るだけで精一杯でした」

それでも持ち前の負けん気で苦難を乗り越えながら、中学、高校でもトライアルを続けてキャリアを積んだ小玉選手ですが、国内B級ライセンスを取得してからはまったくレースで勝つことができない時期が続きました。

「国内B級ライセンスも取得して着実にレベルアップをはかっていたのですが、学生だったこの頃はレースで全然勝てなくて、順位も最下位になってしまったんです。勝てない日が続いたせいでトライアルを辞めたくなって、父親に相談しました。そうしたら『せっかくここまでやったんだから、国内A級ライセンスを取ってから辞めたらいいじゃないか』と言われたんです。


その後、国内A級ライセンスを取得できたんですが、そこから結果もついてくるようになって、結局辞めることなく続けていました。父にうまく乗せられたんですね(笑)。


ちょうどこの頃、自動車の免許も取得して、ひとりで動き回れるようになったんです。それでいろいろな人たちと練習を始めるようになって、それが楽しくてトライアルを好きな気持ちが強くなっていきました。同時に、(トライアルを)教えてくれている人たちに『自分が勝つ姿を見せたい』という気持ちも芽生えてきて、それも続ける大きな要因でしたね。


大学生になったのを機にトライアルを辞めるという選択肢もあったのですが、自分の意思で『続けよう』と思えました。トライアルを続けることが強制ではなくなったことが、今の自分のトライアルキャリアを語る上でのターニングポイントだと思います」

トライアル国別対抗戦に参戦する

プロのトライアルライダーとしてトップシーンで活躍を続ける小玉選手は、ついに世界の大舞台に挑戦する権利を得ます。25歳になった2013年にはトライアル国別対抗戦(トライアル・デ・ナシオン)のフランス大会に、そして翌2014年にもアンドラ大会に代表選手として出場を果たしました。国別対抗戦での貴重な体験についてお聞きしました。

「当時この国別対抗戦の代表選手になるには、自己申告制で本人の意欲があれば選ばれる感じでした。もちろん今はしっかりとした選考基準がありますが、『(国別対抗戦に)出たい』という気持ちで出場の機会を得られたんです。


国別対抗戦で世界を経験できたのは大きかったです。当時の自分は国内A級に上がって全国選手権にも出場していて、女性ライダーの中では上位の方だと思っていました。でもいざ世界の舞台に挑んでみると、びっくりするぐらい周りのレベルが高くて、全然相手になりませんでした」

小玉選手が特に驚いたのは、周囲の選手の成長ペースが速いことでした。

「2013年のフランス大会に出場したに私と同レベルぐらいだった選手が、翌年のアンドラ大会で再会したときには格段にレベルアップしていたんです。『どうしてここまでレベルが上がっているんだろう』と疑問を抱くようになりました。いろいろ考察して、日本と違ってヨーロッパの1日の陽の長さもあり、練習量や練習ができる場所、練習レベルの高さなどトレーニング環境が日本と大きく違うんだと思い知らされました。


また技にも流行りがあって、国内では評価対象ではないけど世界大会で評価される技があるんです。世界で勝つには、そうした取り組みも必要になってきます。若い人たちが世界に挑戦するのが難しい状況ですが、私にできるサポートをこれからも続けていきたいと思っています。

レディースクラスの立ち上げ

国別対抗戦を経験した翌年の2015年、小玉選手はそれまで全日本トライアル選手権に存在しなかった「レディースクラス」の立ち上げに尽力しました。このレディースクラスの立ち上げは世界に挑むうえで不可欠だったと言います。何故でしょうか?

「自分が経験した世界との差を埋めたいという想いから、日本モーターサイクルスポーツ協会(以下、MFJ)に『レディースクラスを設立したい』と直談判しました。現在全国各地の女性ライダーを集め、レディースクラスというカテゴリーのなかで切磋琢磨することで(女性ライダーの)レベルアップにつなげたかったのです。私が所属する近畿エリアには私を含めて3人の女性ライダーがいて、3人それぞれがお互いの成績や勝ち負けを意識していたと思います。数少ない女性ライダーをひとつのカテゴリーにまとめて、世界に挑みたいという人のステップアップの場にしたいんです。また、そういう人をサポートできる体制を作っていければと思います」

日本の女性トライアルライダーとしてパイオニアとなる小玉選手が、こうした若手女性ライダーのサポートに取り組む理由は、国別対抗戦を経験したからこそだと説明します。

「国別対抗戦を経験していなかったら、レディースクラスを作ろうとは思わなかったでしょうね。世界のスポーツ界を広く見てみると、女性が活躍している業界が盛り上がっていることが分かります。日本のレディースクラスがトライアルの盛り上がりにつながっていけばいいなと思っています」

トライアルの醍醐味とは

第一線で活躍する小玉選手にとって、トライアルの醍醐味や面白さはどのようなものでしょうか。

「トライアルでは、ターンや岩の上を登ったりすることが多いのですが、やりはじめると『今日は5cm登れたから、明日はもう5cm!』という感じで、努力によってできるようになったときの達成感が魅力だと思います。大人になるとなかなかそういう達成感って味わえなくなりますが、それを練習するたびに味わえるのがトライアルの楽しみや面白さかなと思います。そういうときって、セロトニンという物質が出るようなんですよね。その達成感にハマる人も多いですよ。」

トライアルに興味を持った人が楽しむためには、どこに注目すると良いでしょうか。

「トライアルを観るという点では、私的には“推し活”をしたら面白いと思うんですよね。好きなライダーを見つけて、そのライダーを中心に競技を観るようにする。そうすると、そのライダーの周りにはライバル的な選手がいるので、選手たちが競っているときは盛り上がるし、そうやって追っかけながら競技を観ると面白いと思いますね。


トライアルは選手との距離がすごく近くて、表情も間近で見られますし、写真や動画も割りと自由に撮れるんです。私は結構(写真も動画も)ウェルカムなので、普通にファンと話もします。是非“推し活”をしてみてください」

日頃のバイクの楽しみ方

今も現役選手として競技人生を歩む小玉選手ですが、日頃はどんなバイクライフを楽しんでいるのでしょうか。

「普段もよくバイクに乗りますよ。所有しているのはHonda CBR250RRで、ときどき1人でフラッと走りに行ったり、友人と一緒に京都北部や和歌山までツーリングに行くこともあります。こないだは地元の針テラス(奈良県)で友人と待ち合わせて、そこでお茶して帰るなんてことも。ほとんど走ってないですけどね(笑)。


大型二輪免許も持っていて、イベントやメディアのお仕事でいろんなバイクに乗らせてもらったりしています。普段乗る機会がないバイクのときは、トライアルとは違った緊張感や楽しさがあって有り難いですね」

小玉選手はインストラクターとしてライディングスクールも定期的に開催しています。

「インストラクターを務める際は、特に安全意識をしっかりと持って指導しています。私のスクールでは、基本的には怪我をするような危ないことはしません。難しいことをしなくても上達できますからね。


私のスクールでは、ライディングポジションや手首の角度、それと姿勢といった基礎的なライディング方法を教えて、そこから応用でステップアップしていくカリキュラムになっています。初心者が気づいていない、陥りやすい部分をしっかりと伝えるようにしています」

トライアルの未来を切り開く小玉選手

小学5年生からトライアルの世界に入り、自らの技術に磨きをかけながら第一線で戦い続けるともに、トライアルの認知度の向上など業界の未来や発展にも取り組んでいる小玉選手。日本ではまだ知らない人も少なくないトライアルですが、実際に競技の迫力を体感してハマる人も多いのです。興味を持たれた方はMFJの全日本トライアル選手権のウェブサイトや小玉選手のSNSから直近の開催日と開催地を調べて、その場所に一度足を運んでみてください。きっと皆さんもトライアルの魅力に心を掴まれることでしょう。


お問い合わせ先:小玉絵里加 オフィシャルサイト 、小玉絵里加 X(旧Twitter) 、小玉絵里加 Instagram 、MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)

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