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日本の「食」と南米チリの海~海の生物多様性と持続可能な水産業

TBSラジオ

新世代の評論家・荻上チキと南部広美がお送りする発信型ニュース番組。

2024年10月4日(金)20時~Main Session

特集「日本の「食」と、南米チリの海~海の生物多様性と持続可能な水産業」

日本から遠く離れた南米チリの海と、 日本の「食」に深いつながりがあることをご存じでしょうか?

代表的なのが、お寿司や食卓に並ぶ、サケ=サーモンです。 チリのサーモンは、ノルウェーに次いで世界2位の生産量を誇り、 いま、サーモンは日本食人気も相まって世界的に人気の食材となっています。

しかし、チリでのサーモンの生産をめぐっては、 拡大する水産業が海の環境と生き物たちに様々な影響を及ぼしています。 その影響は生物多様性だけにとどまらず、環境負荷や先住民族との関係、 そして、今後のサーモンの行方にも広がっています。

他人事になれないもう一つの理由は、 実はチリのサーモンは、50年以上前、日本から持ち込んだものだったのです。

われわれの身近な食卓に上る「サケ=サーモン」。 今夜は、日本の食をめぐって、南米チリの海で何が起きているのか、 そして、我々にできることは何か、専門家とともに考えました。

【スタジオ出演】

吉田誠さん(WWFジャパン海洋水産グループ)

井田徹治さん(共同通信編集委員)

南米チリの海で何が起きているのか?

―チリ産のサーモンなんですけど日本から来たんですか?
吉田:そうなんです。意外だなと思われる方多いかと思うんですけれども、50年ぐらい前に日本の技術者がチリに行って、チリ産のサーモンの養殖の技術を現地に伝えてそこから産業が発展して今に至っているというような背景があります。

―では、外来種になるんですか?
吉田:そうなんですよ。これもあまり知られてないことかなと思うんですけれども、元々いなかったものなのでサーモンがチリにとっては外来種ですし、イケスから脱走してしまうことによって生態系がかく乱されてしまうようなリスクっていうところもサーモン養殖に関するのも問題点としてはありますね。

―実際に養殖でビジネスをしようということが前提で、日本からチリに持ち込まれたところがあるんですか?
吉田:そうですね。チリ、特に南の方の海の環境ってすごく豊かなんです。キャンペーンの名前がですね「海流の贈り物」というネーミングを付けていますが、ペルー海流がこの地域に流れておりまして、それによって豊富にプランクトンがこの地域にあり、それを食べる魚だったりとかいろんな生き物がいて豊かな環境が作られてるっていうところがあります。それがチリのサーモンの養殖という点でもすごく良い場所になっている。

―具体的にはチリの海でサーモンを巡って今どんなことが起きているのでしょうか。
吉田:大きく言うと二つあります。一つが、海の環境に関する問題。もう一つが、地域の住民や先住民の方々に関する問題があります。海の環境に関する問題については、海にイケスう作って養殖をしているので、餌をあげてその餌の食べ残しだったり、サーモンはフンとかするので、それが周辺の海洋の海域に流れてしまったりとか海底にたまってしまったりっていうこともあるので、水質汚染の原因の一つになるんです。また、外来種の問題で、生態系かく乱のリスクがあるといったところが、環境問題としての重要な点かなというふうに思います。

もう一つ、チリのサーモン養殖で重要なのが、地域住民の方や先住民の方との関わりなんです。特に南の方の地域に行くと、サーモン養殖会社と先住民の方が対立してるような地域もあったりするんです。なぜ、対立が起こるかというと、いろんな原因があるんですけれども、元々、先住民の方が、ここは私達が代々受け継いできた土地であったり、漁業とかをして利用している土地だっていうところに後からサーモン養殖企業が入ってきて、海の利用を巡って対立が起きてしまうというところがあります。

―漁業権の侵害をしているように捉えられるわけですね。
吉田:宗教的、文化的に重要に感じている地域っていうのもあるので、そこを侵害されてしまったという主張をされて対立が起きているところがあります。ただ、気をつけなければいけないのは、そういった地域もある一方で、サーモン養殖自体、地域の住民の方や先住民の雇用に繋がる場合もあるので、そのあたりは気を付けて見ていく必要があるかなと思います。

WWFジャパンの4つの行動

―WWFジャパンとしては、チリ産のサーモンについて、どういった取り組みをしていますか?
吉田:主な活動としては四つあります。一つはサーモン養殖をしっかりと環境や、先ほど出た社会的な問題を解決しながら、サスティナブルな形でやっていくための活動というものをしています。これまではASC認証という国際的な認証があるんですけれども、それが実は環境だったり社会を配慮しながら、養殖をしているものにつけられる認証なんです。その普及や、企業への働きかけを行ってきました。それに加えて、それだけでは十分ではないので、特定の海域を見た中で、より持続可能な形でできるには、どうしていけばいいのか、行政に働きかけたり、研究者と話し合いながら活動しています。

二つ目は、チリイルカ、チリにしか生息していない固有種がいるんですけれども、チリの海の生態系の健全さ・豊かさを図る上で、チリの固有種で鯨類のチリイルカが一つのバロメーターになるところがあります。どれぐらいの頭数が生息しているのか、どういう影響を受けているのかっていうところを調べながら、調べた結果をもとに、保全の計画を行政だったり研究機関と話し合いながら進めているというところです。

3つ目は、海洋保護区です。海洋保護区は、今はチリの政府としても積極的に設置をするという流れができています。国際的な目標としては2030年までに、国の排他的経済水域の30%を海洋保護区にするという目標があるんですけれども、実はチリは40%以上保護区になってるんです。ただ、その中ででも、保護区にするだけではなくてしっかりとそれがその地域の住民や、先住民、その保護区に関わる人たちを巻き込みながら、適切に管理されていくっていうことが重要になってます。保護区を作りました、ちゃんと管理されてませんみたいな事例もチリに限らず結構あったりするんですけれども、そういったところを実際に現場に入って、優良な事例を作って、それを今、チリの国全体に拡大させていく、普及させていくという活動をしています。

最後の四つ目は、小型の魚、特にカタクチイワシ、ニシンという魚がチリでも重要な産業になってまして、それがチリのサーモンの養殖の餌の原料に使われているのもそうなんですけれども、実は魚粉という形に加工されて日本にも入ってきてるんです。ですので、日本の養殖や、畜産業の餌の原料なんかにも使われてたりするんですよ。だからそれをより持続可能な形にしていくために、MSC認証の基準に基づいてしっかりと漁業管理もして生態系にも配慮した形で漁業ができるような形を目指して取り組みを進めているというのが、今、私達がやっている主な大きな四つの活動になります。

(TBSラジオ『荻上チキ・ Session』より抜粋)

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