思春期自閉症娘への対応に戸惑い。どこまで自己責任?反抗期の子どもとの適切な距離感は?【専門家回答も】
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
発達障害のある娘の思春期に入って増えてきた悩み。専門家に対応方法を聞いてみました
わが家にはASD(自閉スペクトラム症)の中学2年生の娘がいます。今まで、娘が苦手なことは、親として声かけやフォローをしながら、サポートをしてきました。しかし、小学4年生ごろから娘は思春期に入り、なかなか親の言うことを聞いてくれないようになりました。
中学生になってからは、私に対して反抗的な態度が目立つようになりました。
それでも私は、「これも娘にとって必要な成長」だと思い、できる限りのサポートを続けてきました。しかし、ASD(自閉スペクトラム症)の娘の思春期は、特殊で……。今回は発達障害のある娘の思春期に入って増えてきた悩みについて、鳥取大学大学院教授で発達障害を専門とする井上雅彦先生に対応方法などアドバイスをいただきました!
Q1.親のフォローを嫌がるけど、自分ではやらない
思春期に入ってから娘は、私の声かけやフォロー、そして療育グッズの使用を嫌がるようになりました。
「親に指図されたくない」という気持ちは、私にも覚えがあるため、とても理解できました。
親にあれこれ言われるのを嫌がるのは、親離れの始まり。
ここを通るから、自立できるのだと思っていたのですが、娘の場合、フォローを嫌がるので控えると……
パニックを起こし、怒って最後には私を頼ります。
娘のパニックが起きると、手も止まってしまうし、落ち着かせるのも大変。私は、パニックを起こさないようにしたくて、その前に避けられることを避けようと、声をかけるのですが、
フォローを嫌がる→パニック(怒る)→私を頼るという負の連鎖が続きました。
親を頼りたくないといい、親の手助けを嫌がるのに自分でなんとかしようという気持ちはない……。娘とのやり取りでイライラすることに疲れた私は、主治医の先生に助けを求め、
自立心と自立力のバランスについて教えてもらい、
娘に決定権を持たせ、自己責任でやってもらうことにしました。
小学校高学年から中学校は、この『自己責任』があーさんとの関わりのテーマでした。最初はこの方法で、自分で動くようになり、うまくいっていたのですが……
中学生になって、娘はいろんなことを忘れることが多くなりました。持ち物、提出物、言われたこと、約束したこと……中学生になり、部活も始めたため、覚えておくことが増えたので仕方ないとは思いました。
忘れないようにメモをとるほうがいいと何度も提案しました。
しかし……
娘は「メモをとらなくても大丈夫」と言い、頑なにメモを取ろうとしません。
その後、一時的にメモをとるようになったのですが……
すぐにメモすることを辞めてしまいました。なぜメモをとらないのか聞いてみると……「私は覚えられるから、メモは必要ない」と、譲りません。先生から注意され、私からもフォローされても、「大丈夫」だと言い切る娘。
このやり取りが何年も続いています。
私は自分の苦手部分を、自分の工夫で乗り越えるすべを教えたいのに……。親のフォローを嫌がるのに、すぐ頼ってくる、自分の苦手を見ない、娘のようなタイプは、どう対応していけばいいのでしょうか?
できないから提案すると拒否するなどは思春期特有の自立心のめばえと言えますが、それで失敗してしまうのを見るのもつらいし、しかしいつまでも親がやってあげるのも不安、またそれを受け入れてくれないという難しい状況ですね。分かってなくてできないこと、分かっているしできるけどやろうとしないことについては区別していく必要があるでしょう。前者は改めて教える必要がありますが、後者のほうがより難しい問題かもしれません。基本的には失敗の中で学んでいくことが望ましいですが、立ち直りが困難になるような大きな失敗は避けたいものです。
失敗の中で学ぶレベルについては時間はかかりますが学んだことは定着していくと思います。親からの提案としては「〇〇すべき」ではなくて「実験的にやってみよう」くらいのほうが良いかもしれません。立ち直りが難しそうな場合は理屈ではなく「あなたにもいろいろ理由や考えはあるだろうけど……ここだけは……!」という親からのお願いという作戦のほうが有効かもしれません。
Q2.子どもと適切な距離をとるのが、思春期・反抗期にはいいと言うが……
娘の特殊な思春期・反抗期に、ついイライラし、いろいろ言いすぎてしまうことが多い私。思春期・反抗期って、こういう状態が普通なのかと調べてみると……
「思春期・反抗期は親離れ、自立への第一歩。子どもとは適切な距離を保ち、助けを求められた時だけ、対応しましょう」と言ったことが書かれてありました。
適切な距離……。たしかに、自分が中学生の時のことを思い出してみると、親との関わりは、小学生時代に比べて劇的に減っていました。自分でなんとかしようという力も、この時代で培われたように思います。
しかし、娘の場合、まだまだ私のフォローが必要なことが多いため、距離をとることができません。パニックになった時も、放置ができないため、難しいです。発達障害のある子どもでも、親はある程度距離を保つことが必要ですか?
障害の有無にかかわらず思春期でかかわりや関係性が難しくなってしまったときに「できるだけ刺激しないようにするということでよいでしょうか」という質問があります。距離感を離すというのは、関わらなくするのではなくむしろ関わり方を変えるという意識が大切だと思います。親にとって気になる点を注意する事ばかりが増えると子どもにとってはそれが「自分を分かってくれない」「否定された」という気持ちになってしまうかもしれません。そうなると否定的、反抗的な行動もより強まってくるでしょう。
努力しているところや良いところを認めることに加えて、子どもが興味を持っている事について耳を傾け共有していくことが適切な距離感をはぐくむことに繋がります。その中で困ったことを子どもから相談してくることができるようになると良いですね。相談されたときにはすぐに大人からの模範解答を示すのではなく、共感しつつ「あなたはどう考えるの?」という問いを出したり、AとBとどっちがいいと思う?と選択案を提示したりして一緒に考えていく姿勢が大切だと思います。
執筆/SAKURA
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。