藤津亮太さんの新刊『アニメ音響の魔法 音響監督が語る、音づくりのすべて』音に関わるすべての人に!
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は藤津さんが企画・取材を手掛けた書籍を、青木アナウンサーとの対談形式でご紹介します。
多彩な音響監督のインタビューが読める書籍が発売!
藤津:『アニメ音響の魔法 音響監督が語る、音づくりのすべて』(BNN)という本が2月27日に発売になりました。僕が企画・取材という形で関わった本で、自分で言うのもなんですが、面白い本ができたと思います。
青木:私も読ませていただきました。基本的には音響監督さんへのインタビューという形で話が進んでいきます。音に関わるすべての人にとって「これを読んだらためになる」そんな出来の本ですね。
藤津:はい、声優さんがどんな仕事をしているのかイメージを持っている人は多いかもしれませんが、音が最終的にフィルムにどういう形で定着するかという音響作業についてはなかなか知られていません。面白いけれど知られていないことを紹介したいと思いましたし、取材ものというのは自分にも勉強になります。その結果が多くの人にとってプラスになるといいなと思いました。
青木:アニメ音響についてフィーチャーしている書籍を初めて見た気がします。
藤津:あまり類書はありませんね。2007年に雷鳥社から『すごい!アニメの音づくりの現場』という本が出ていますが、類書で僕が持ってるのはこれぐらいです。
青木:『アニメ音響の魔法 音響監督が語る、音づくりのすべて』の0章では、音響監督の鶴岡陽太さんに話を聞いていますが、これは「アニメーションの基本のキ」というところなんでしょうか。
藤津:そうですね。アニメ音響の作業はどういうことしているのかというのを、最初から最後まで一通り伺いました。テレビアニメの作業をベースにして、鶴岡さんが仕事で経験したエピソードも含めて話していただいています。例えば、依頼ひとつにしても普通は制作会社から声がかかるのですが、映画『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』では、山本健監督から鶴岡さんが前に手がけた他の作品を見て、ああいう感じでお願いしたいと依頼が来たとか。そんなお話も披露していただきました。
今回の書籍では、鶴岡さんもそうですが、80年代に業界に入り、その後音響監督となって2000年代にたくさんの作品を手がけたベテランを中心にお話を伺っています。なぜかというと、その方たちが入った頃は、作業がアナログだったんです。それが途中でデジタルに変わった。だからこの方々からは、キャリアについてだけではなく、アニメ音響の技術的なこともいろいろ聞けるんじゃないかと思い、お願いをしました。
青木:まず、第1章に出てらっしゃるのが、『ソードアート・オンライン』『ガールズ&パンツァー(ガルパン)』を手がけた岩浪美和監督ですね。
藤津:岩波監督には代表作がたくさんあるのですが、『ガルパン』の何がすごいかというと、「音がいいから劇場に足を運ぶ」というムーブメントを作ったことです。TVシリーズでは2ch、Blu-rayで低音を強化した2.1chだった『ガルパン』でしたが、現在進行中の「最終章」では「DolbyAtmos」という最高水準の音響フォーマットを採用形になっていきます。映画の音響フォーマットが進化していくプロセスと、『ガルパン』の人気がうまく噛み合っているという点もおもしろかったです。
青木:そのあとに出てくるのが山田陽音響監督ですね。
藤津:岩波監督と山田監督はミキサー出身です。ミキサーというのは録音する側の技術的なトップにいる方で、そこを経由して音響監督になる方が結構いらっしゃるんですよね。なので山田監督には技術的な話をだいぶ細かく聞くことができました。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでは山田さんもアフレコにずっと立ち会われていたそうですし、新海誠監督の作品もやられています。大作にもたくさん関わっているのですが、もともとはミキサーを長くやり、その後独立されたという方です。
青木:この2人に聞く第1章は「音と技」というくくりでの表現でした。その後の第2章では「音と劇」になりますね。俳優たちをどう演出していくか、本人が俳優の場合はどうなのか、声優の場合はどうするのかという話でした。『装甲騎兵ボトムズ』のキリコ・キュービィー役をされた郷⽥ほづみさんなどが登場されますが、こちらも面白い人選でしたね。
藤津:音響監督は出自によってスタイルが違うというのは僕も何となくわかっていたので、ミキサー出身の人、声優・役者から音響監督になった人、音響制作といって音響全体の仕事の取りまとめをやっているポジションから音響監督になった人、この3パターンを押さえようという話になりました。そういう形で取材の相談をさせていただきました。
郷田さんのお話で面白かったのは、演技指導とディレクションは違うということ。演技指導というのは技術的に足りていない人をある程度のレベルまで上げること。これは当たり前だけど、アフレコの現場ではない方がいい出来事なわけです。ですが、ディレクションというのは、できる人に、「そうじゃなくて、こっち方向だよ」と具体的な指示をだすことです。プロはその場で切り替えられますからね。ディレクションに対応できる演技力があるのが前提でアフレコは回っています。
今回、協力として鶴岡陽太さんに入ってもらい、企画などにいろいろな意見をいただいたのですが、音響監督の明田川進さんにアニメ音響の昔の話を聞いてほしいというリクエストがあり、それでお話を伺っています。
青木:コラム的な形で挟まっていましたね。アニメ音響の魔法がどのようにアニメにかかっているのか、その仕組みをロジカルに学べる1冊ですので『アニメ音響の魔法 音響監督が語る、音づくりのすべて』、ぜひ手に取っていただければと思います。