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「新しいカルメン像」が誕生 東京二期会オペラ劇場『カルメン』演出イリーナ・ブルックの記者会見レポートが公開

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(左から)和田朝妃、イリーナ・ブルック

2025年2月20日(木)、22日(土)、23日(日・祝)、24日(月・休)東京文化会館大ホールにて、東京二期会オペラ劇場『カルメン』が上演される。この度、演出イリーナ・ブルックの記者会見が開催され、レポートが届いたので紹介する。

会見レポート

本プロダクション最大の注目は、イリーナ・ブルックの演出だ。イリーナは、演劇界の巨星ピーター・ブルックを父に持ち、フランスのレジオン・ドヌール勲章をはじめ数多の栄誉に輝いている。日本では、これまで新国立劇場「ガラスの動物園」やSPAC「House of Us」プロジェクトなどの演出を手掛けてきたが、オペラの国内での演出は『カルメン』が初となる。開幕を約1ヶ月後に控えた1月21日(火)、イリーナの記者会見が開かれた。

イリーナ・ブルック       写真提供:公益財団法人東京ニ期会  撮影:寺司正彦

イリーナは、日本で『カルメン』を演出することは大きなチャレンジになるという。フランス語の原作、舞台はスペインという作品を、文化背景のまるで異なる日本で、それも日本人歌手だけで上演することは決して簡単なことではない。どのようなビジョンを持って、この作品をつくりあげていくのだろうか。

イリーナ「オペラ演出で一番大切にしているのはストーリーです。《歌を通して、物語を伝える》ことを大事しています。そのために、何が必要となるか、また何が邪魔になるかを考えます。今回の上演にあたり、原作で色濃く描かれるスペインという舞台設定は障害になってくると感じました。また、日本になじみがなく、東欧に多いロマの存在を描くのは、人種の問題も含み、ヨーロッパでも難しさがあります。スペインの民族性やロマといった点に重きを置くのではなく、本プロダクションの中での想像上の世界をつくりあげていきたいです」

現実の地域性にとらわれず、普遍的なストーリーを目指す意図が読み取れるが、具体的にはどのような舞台設定となるのだろう。

写真提供:公益財団法人東京ニ期会  撮影:寺司正彦

イリーナ「時代設定は20~30年後の近未来で、どこか一箇所に定住せず、誰にも支配されていない土地(中間地帯)を旅して生きている人々の話になります。第1幕の舞台美術は《美しいガレキ》と呼んでいます。衣裳は特定の地域に定まらない無国籍的なものです。映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』からもインスピレーションをもらいました。世界観をかっちり決め過ぎず、自由な世界を描くことで、《カルメンが自由である》という視点がより伝わると思います」

オペラ上演においては、演出家が原典に対してどれだけ手を加えるか、自身の色を出すかが度々話題にあげられる。時には、演出家によるカットや改変が物議を醸すこともあるが、今回はどうだろう。ビゼーによる原作は、台詞入りのオペラコミック形式で書かれているが、イリーナはこの歌以外の台詞の部分をすべてカットするという。

イリーナ「ふだんストレート・プレイの演出をしているので、台詞の部分がどんどん多くなってしまうのではないかと心配されました(笑)。しかし、全く逆のことをしました。どんなに歌手が素晴らしくても、音楽のないしゃべりが多くなると、歌う時のエネルギーと同等のものにはなりません。台詞をだんだんカットしていきましたが、一部だけ残しても違和感があったので、すべてカットすることにしました。本来、台詞で説明されていた場面も演者の動きなどで表現し、台詞が無くても成立するようになっています。それにより非常にテンポがよくなり、感情もどんどんつながっていくようになりました。新しい目で見てほしいと思います」

写真提供:公益財団法人東京ニ期会  撮影:寺司正彦

ピーター・ブルックは2025年に生誕100周年を迎えた。同じく演出家の道を歩むイリーナだが、父との演出方法の違いも語った。

イリーナ「父の演出方法とはスタイルが全く異なりますが、演出の目的は同じで、《演者をいかに素晴らしく見せられるか》です。父はミニマリストで、何もない舞台で一人の演者を光らせることができましたが、私はたくさんの小道具などを使って演者を引き立たせます。自分が俳優としてキャリアを始めたことも大きな違いだと思います。父は演者に何も与えず、ある意味で裸になることを要求しますが、私は演者に何か要素を与えて安心させてあげたいと思うのです。どちらかというと映画のように演出することを重視していて、どこを切りとっても真実味のあるものにしたいと思っています」

昨年11月に二期会の歌手とのワークショップが開催された。その時の日本の歌手への印象や指揮の沖澤のどかについては次のように語る。

イリーナ「ワークショップを行う前は、日本の歌手について、体が硬くシャイなのではないかなど先入観を持っていました。しかし、みなさん驚くほど自由に体を使えていて、素晴らしいと思いました!リハーサルではいつも《オペラのような動きをしないでほしい》と言っています。ワークショップでも真実味のある演技を要求しましたが、すぐに順応してくれました。カルメン役の2人はカリスマ性もあり、現代的なマインドを持って古いものに縛られず演じてくれています。指揮の沖澤のどかさんとはベルリンでお会いしましたが、素晴らしい女性です。主に台詞のカットについて話しましたが、喜んで賛同してくれました。彼女もオープンな心を持っている方で、これから一緒に作品を作っていくのが楽しみです」

また記者会見にはタイトルロールの和田朝妃が同席し、意気込みを語った。

和田朝妃       写真提供:公益財団法人東京ニ期会  撮影:寺司正彦

和田「カルメンは演じる歌手によって十人十色。これほど多種多様なキャラクターを作り上げられるオペラはなかなかありません。イリーナはとても柔軟な演出家で、固定概念にとらわれず、歌手の意見を聞いてくれます。萎縮せずに演技ができて、楽しい稽古が続いています。新しい、自分にしかできないカルメン像をイリーナとともに作り上げ、皆様にお届けしたいと思います」

もう一人のカルメン役である加藤のぞみからは次のメッセージが紹介された。

加藤「イリーナは私たち、歌手のエネルギーを瞬時に感じ取って動きをつけてくれますし、こちらのアイデアもどんどん取り入れてくれるので《舞台を一緒に作っている》ということをより実感して、幸せを感じています。今までのカルメンのイメージをガラッと変える公演になる?! かもしれません。多くの皆様にご来場いただけたら嬉しいです」

イリーナと2人のタイトルロールの言葉から、従来のイメージから解き放たれた「新しいカルメン像」が想起される。2025年、『カルメン』は初演から150周年を迎えた。このメモリアル・イヤーに、新たに生まれ変わる『カルメン』を期待して待ちたい。

写真提供:公益財団法人東京ニ期会  撮影:寺司正彦

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