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スイスの実業家シルビオ・デンツ氏の20年にわたるボルドー右岸での挑戦

ワイン王国

スイスの実業家シルビオ・デンツ氏の20年にわたるボルドー右岸での挑戦

スイスの実業家、シルビオ・デンツ氏(Silvio DENZ)がサンテミリオンの「シャトー・フォジェール(ChateauxFaugères)」と「シャトー・ペビ・フォジェール(Péby Faugères)」、カスティヨン・コート・ド・ボルドーの「カップ・ド・フォジェール(Cap de Faugères)」を取得してから20年になるのを記念して、パリのラリック会館で記念夕食会が開かれた。

デンツ氏は2005年に3シャトーを取得後すぐに大胆な変革に着手した。最初に人々の関心を集めたのは、2009年に建築家マリオ・ボッタ氏が手掛けた「シャトー・フォジェール」の醸造所だ。“大聖堂ワイナリー”と呼ばれるこの先進的な建造物は、重力を利用した最適な醸造プロセスを実現し、サンテミリオンの景観に溶け込みながらも斬新なデザインを誇っている。

建築家マリオ・ボッタ氏が設計し、2009年に完成した「シャトー・フォジェール」の醸造所。‟大聖堂ワイナリー”とも呼ばれ、重力を利用した醸造プロセスとサンテミリオンの景観に溶け込むデザインが特徴

2012年のサンテミリオンの新しい格付けで「シャトー・フォジェール」と「シャトー・ペビィ・フォジェール」がともに「サンテミリオン・グラン・クリュ・クラッセ」に昇格し、デンツ氏の畑と醸造設備への徹底的な改革投資が報われた。
さらに、20年には「シャトー・ペビィ・フォジェール」がオーガニック認証(AB)を取得し、環境を尊重したブドウ栽培への長年の取り組みが実を結んだ。21年には、新しいワイナリーが、同じくマリオ・ボッタ氏の設計によって完成し、シャトーのスタイルが一層際立つようになった。

2021年に完成した「シャトー・ペビィ・フォジェール」の新しいワイナリー。こちらもマリオ・ボッタ氏による設計で、シャトーのスタイルをさらに際立たせている

デンツ氏が所有する3つのシャトーは、それぞれ異なる個性を持ちながらも、ボルドー右岸の石灰質粘土質土壌の魅力を鮮やかに表現している。

シルビオ・デンツ氏が所有する3つのシャトーのワイン。(左から)『シャトー・フォジェール』『シャトー・ペビィ・フォジェール』『シャトー・キャップ・ド・フォジェール』それぞれが右岸のテロワールを表現する

「シャトー・フォジェール」の葡萄園は38ヘクタールだが、最良の区画を選んで生産面積を徐々に縮小している。平均樹齢35年。石灰岩台地と粘土石灰質の斜面が自然の円形劇場のような地形を形作っている。平均的なブレンド割合はメルロー85%、カベルネ・フラン10%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%。近年ますます洗練された味わいへと進化している。

「シャトー・ペビィ・フォジェール」は7ヘクタールの畑で、南/南東向きの粘土石灰質斜面に位置する。1998年に前オーナーのピエール・ベルナール・ギゼに敬意を表して誕生したこのワインは、100%メルロー。平均樹齢45年のブドウから年間わずか1万6000本しか生産されない希少なワインで、2005年にはロバート・パーカーから100点満点を獲得した。最近では、15年産に対してロバート・パーカーが98点、ジェームス・サックリングが99点の評価を与えている。

「シャトー・キャップ・ド・フォジェール」は、サンテミリオンに隣接する「アペラシオン・カスティヨン・コート・ド・ボルドー」で面積は18.5ヘクタール。持続可能な農業を認証するHVE3を取得している。平均的なブレンド割合はメルロー85%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%、カベルネ・フラン5%。若いうちから楽しめる味わいが特徴。12年には英国女王の即位60周年行事で提供された。

今回の夕食会はラリックとワインの融合を目指すシルビオ・デンツ氏が、パリ・ラリック会館オープンを記念して初めて企画した催しで、サービスに使われたウオーターグラス、大小ワイングラス、特製カラフなどのすべてのクリスタル製品はラリックの特別デザイン品が用意された

デンツ氏のボルドーでの活動は、彼の芸術への情熱と密接に結びついている。2008年に、フランスを代表するクリスタルメーカー、ラリックを買収し、09年からラリックの職人技をワインのボトルデザインに取り入れることを決め、まず『シャトー・ペビィ・フォジェール』のボトルに‟メルル(黒つぐみ)とブドウ”の彫刻を施した。次いで、16年から『シャトー・フォジェール』に‟聖杯”のモチーフが施されている。ちなみに、ラリックは1888年に宝飾職人ルネ・ラリックによって創設され、当初はアール・ヌーヴォースタイルのジュエリーで有名だったが、1909年にはガラス工房を開設し、特に香水瓶のデザインで成功を収めた。1925年のパリ万博ではアール・デコスタイルの作品が高く評価され、国際的な名声を獲得した。デンツ氏は、ワインとクリスタルを結びつけることで、フランスの職人技の伝統と現代のエレガンスを融合させることに情熱を燃やしている。

デンツ氏の活動はサンテミリオンにとどまらず、2010年には、ピングスで名をはせた友人のピーター・シセック氏と共同で「サンテミリオン・グラン・クリュ」の「シャトー・ロシュロン」を買い入れ、ビオディナミを導入し見事再生した。

シルビオ・デンツ氏が2014年に取得した、ソーテルヌの第一級格付け「シャトー・ラフォリー・ペラゲ」

さらに、2014年にソーテルヌの「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ」である「シャトー・ラフォリー・ペラゲ」を取得し、18年に同シャトーに「ラリック・ホテル&レストラン」をオープンし、ワインとクリスタルの世界を融合させた。このレストランは22年にミシュランの二つ星を獲得している。

近年では、2019年に、1763年創業のスコットランド最古のシングルモルト蒸留所グレンタレットを取得し、21年にレストラン「ザ・グレンタレット・ラリック」をオープン。こちらも22年にミシュラン二つ星を獲得している。

前菜“1998年ヴィンテージの解釈”と題した深海エビ(カラビネーロ)に『シャトー・キャップ・ド・フォジェール 2020年』
メインディッシュの「バザス牛、ジャガイモとトリュフ」に『シャトー・フォジェール 2016年』18年、20年、3つのヴィンテージが供された
チーズの盛り合わせは、著名なチーズ熟成士メートル・アントニー氏が選んだ、クリーミーな「ブリ・ド・モー」、「サン・ネクテール・フェルミエ」、そして表面を香ばしく炙った「コンテ・フラメ」。これに、パーカーポイント100点を獲得した『シャトー・ペビィ・フォジェール 2005年』そして2010年、2019年を合わせた。
軽いメレンゲのような「ブラン・ヴァプール」に、爽やかな柚子とハーブの香りを加えた“ソーテルヌの霧”と題するデザートに『シャトー・ラフォリー・ペラゲ 2015年』。そしてスイスの名門「フェルクリン」のチョコレートに合わせて、グレンタレット蒸留所のスコッチの樽で熟成させた特別なキュヴェ『シャトー・ラフォリー・ペラゲ キュヴェ・ザ・グレンタレット 2022年』が供された

また、ラリック社の製造拠点があるアルザスのヴァンゲン・シュル・モデール村の建物を高級ホテルとレストランに改装。こちらもミシュラン二つ星を獲得。付属の美術館に、ルネ・ラリックのオブジェを中心とするデンツ氏の芸術コレクション、約650点が展示されている。

夕食会でスピーチするシルビオ・デンツ氏(左)、ワインについて解説するソムリエのロマン・イルティス氏(右)

デンツ氏が20年前にボルドー右岸に投資して以来、「シルビオ・デンツ・ヴィンヤード」はフレッシュさと繊細なバランスを追求する現代的なスタイルのワインを生み出し、プレステージとイノベーションの象徴として、ボルドーワインに不可欠な地位を占めるようなった。

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