福田美術館で巡る、風景画家・東山魁夷の旅路(読者レポート)
京都・嵐山、渡月橋を望む大堰川(桂川)沿いに佇む福田美術館において、同館が所蔵する東山魁夷(ひがしやまかいい)の名品約30点を中心に日本と西洋の風景画を紹介する展覧会が始まりました。
福田美術館
展示は3章構成、そこに共通するキーワードは「旅」。日本の旅、西洋への旅、画家たちの色彩の旅、技法の旅…。
第1章「日本と世界の風景画」
とりわけ、第2章「東山魁夷と旅する風景」の扉が開くと目の前には東山ブルーの世界が広がり、作品からあふれ出る清々しさに幸せな旅の途中にいるような気持ちにどっぷり浸ります。
鏡のような湖面に映り込む広い空と満月だけが描かれている幻想的な風景。見惚れました。
《月映》
上は白樺の向こうに見えるスウェーデン・ノルディングローの湖畔、下は北海道札幌市のカラマツ越しに見る円山。この二枚、並んでいたわけではないけれど、共通するキーンと冷えた空気に鼻の奥が冷たくなったのは私だけでしょうか。
《春来る湖》
《冬林》
透明度が高い長野県志賀高原にある三角池を題材にした作品。青を基調とした顔料を塗り重ねて細やかなタッチで水のゆらめきが表現されています。白い馬を探してしまいました。
《静けき朝》
ターコイズブルーに輝くことで知られる北海道千歳市のオコタンベ湖。原生林の紅葉とのコントラストによって神秘の湖がより一層神秘的に、吸い込まれそうな勢いです。
《盛秋》
道を描いた作品がとても多い作家です。そこに人物は登場せず、日の出前の薄明るい、今から光が差し込んでくる道を好んで描いたそうです。この作品も手前から左奥へと朝日に向かって鑑賞者が歩みを進めていく気持ちになります。
《朝光》
魁夷は生涯を通して旅を愛し、日本国内のみならず、オーストリア、北欧フィンランドへも旅しました。ブルーの中のピンク、ブルーの中の黄色がとても新鮮です。《丘の教会》には珍しく人の姿が描かれています。
左から《青きドナウ》、《山峡朝霧》、《緑の園》、《丘の教会》
装飾的なデザインの鉄柵越しから眺めた街並み。珍しい色味に楽しい旅に弾む気持ちが表れているかのようで惹きつけられた作品です。
《コペンハーゲンの街》
第3章「東山魁夷と同時代のカラリスト」では、魁夷の集大成ともいえる円熟の境地を示す二作品が展示されています。晩年の作品となる《緑の朝》の画面右側には、「白馬シリーズ」で登場する馬の姿を消した形跡がうっすらと残っているのが確認できます。注目ポイントです。
左《緑の朝》、右《明宵》
東山魁夷(1908(明治41)年~1999(平成11)年)は横浜生まれ、神戸育ち、東京美術学校で日本画を専攻、ベルリンへ留学し西洋画も学びました。帰国後37歳のとき召集令状が届きます。戦争の前後に兄、父、母、弟が他界するという失意のどん底にありましたが、39歳のとき日展出品作《残照》が特選となり、遅咲きながら40代で「風景画家」として不動の地位を確立しました。やがて「国民的画家」と呼ばれ、唐招提寺の襖絵など数々の大作を手掛け90歳まで絵筆をとりました。
本展では滅多に展示されることのない名品《花明かり》が特別に展示されているのも見どころです。満月が「祇園の夜桜」で知られる京都・円山公園の満開の桜を浮かび上がらせる様をご覧になりにお出かけください。
[ 取材・撮影・文:hacoiri / 2025年1月31日 ]