上原理生が限界突破! 『上原理生フェスティバル~Unlimited~』DAY2公演レポート
2025年2月22日(土)~23日(日)埼玉・コピスみよし ホールにて、俳優であり、声楽家としても活動する上原理生が故郷・三芳町にて、『上原理生フェスティバル ~Unlimited~』を開催した。その模様が届いたので紹介する。
公演レポート
それは、静と動の2日間だった。
2025年2月22日(土)と23日(日)に、埼玉県・コピスみよしで『上原理生フェスティバル~Unlimited~』が開催された。音楽の垣根を超えて活動を続ける俳優・声楽家の上原理生は、2日間で全く異なる趣向の2ステージを見事にやってのけた。
DAY1は、2025年1月にリリースされた上原の最新アルバム「Risonanze -響鳴-」の収録曲が中心のクラシカルなステージ。濱野基行のピアノ伴奏で始まり、途中からはグレイ理沙のチェロが加わって、後半はドラマティック・オーケストラ・コピスと共にクラシックやミュージカル、映画音楽をノーマイクの生声で届けた。
翌日のDAY2は、打って変わって全編バンドと共に歌謡曲を中心に届けるステージに。2日連続のコンサートで全く異なるジャンルのセットリストを組むという、上原だからできるなんとも破天荒な構成だ。ここからは、熱狂に包まれたDAY2の模様をレポートする。
暗転の中バンドメンバーが定位置につくと、今か今かと客席の視線が一気にステージ上へと向かうのが感じられた。ドラムが刻む軽快なリズムをきっかけに、七色の楽器の音色も加わり、華やかなショータイムが始まる。バンドが奏でる「sing,sing,sing」に合わせて、青、赤、緑、黄色とリズミカルに切り替わる色とりどりの照明が一気に気持ちを高揚させてくれる。そこに颯爽と現れたのは指揮者の辻博之。DAY1でオーケストラの指揮を務めていた辻だが、この日は「司会です! 今僕が歌うと思ったでしょう? 絶対に歌いませんよ。司会ですから(笑)」と、冒頭から辻ワールド全開で客席を沸かせる。
観客の心を掴んだ辻は、そのまま勢いに乗ってバンドメンバーを紹介。トランペットの藏持智明とサックスの柗井拓野によるユニット「Passo a Passo」、ドラムの阿部将大、ギターの村山遼、ベースの米光椋、アレンジ・バンドマスター・ピアノの山本清香。いずれも昨年の『Bitter & Sweet 上原理生×堂珍嘉邦 Special Concert』でも活躍していた、信頼の厚いメンバーだ。
第1部は上原のソロステージ。下手袖からゆったりとした足取りで現れた上原は、客席に優しく微笑みながら「さよならをもう一度」(尾崎紀世彦)で持ち前の美声を響かせる。歌い終えるやいなや、上原は辻と共にお笑い芸人顔負けのテンポの良い掛け合いで会場を和ませた。「今日はみなさん、大いにノリノリで盛り上がっていきましょう!」と上原が意気込むと、客席も大きな拍手と笑顔でそれに応える。
昭和歌謡からスタートした本ステージの2曲目は、ギターサウンドのアレンジにセンスが光る「ルビーの指環」(寺尾聰)。上原は艷やかな低音で客席をうっとりさせたかと思えば、マイクスタンドを抱え上げるワイルドなパフォーマンスを披露。マイクスタンドに添える指先一本一本にまで色気が漂っているのは流石だ。続く3曲目「悲しみにさよなら」(安全地帯)は、第一声から先ほどとは別人のような爽やかな歌声がホールに広がり、上原の歌声の幅の広さを思い知らされる。後半の転調の度に曲は盛り上がりを見せ、上原が大きな手を左右に振ると観客も手を振り、自然と会場の一体感が高まっていく。
第1部前半戦を終えると、藝大時代の同級生でもある上原×辻×山本の3人によるほんわかトークタイムで小休止。ここまで別れの曲が続いたこともあり、辻に「印象に残っているさようならは?」と聞かれた上原は、過去にLINEで別れを切り出されたエピソードを明かす。思いがけないプライベートエピソードに戸惑う辻と山本に対し「恋の一つや二つしないと、歌なんて歌えないですよ」と、サラッと名言が飛び出す場面も。
その後も昭和の名曲が続いた。情熱的な「かがやける愛の日に」(尾崎紀世彦)、軽快でドラマチックな「君は薔薇より美しい」(布施明)、いずれの曲でも伸びやかな気持ちの良いロングトーンをたっぷりと聴かせてくれた。
いよいよ第1部最後の曲は、本邦初披露となる「限界突破×サバイバー」(氷川きよし)。この曲を上原理生が歌う日が来るとは誰も予想していなかったに違いない。辻が曲名を告げた瞬間、客席から聞こえた悲鳴にも近い歓声がその証だろう。サックスとトランペットの天井を突き抜けるような力強い音が鳴り響いた瞬間、ジャケットを脱ぎ捨てた上原が拳を振り上げながら登場。客席も熱い手拍子で上原を出迎えた。ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、バズーカ級の歌声で空間を支配する。向かうところ敵なしとはこのことか。髪を振り乱しながら叫ぶように歌い上げる様は、まさに“Unlimited”。前日にノーマイクでクラシックを歌っていた人物とはとても思えない。上原の知られざるロックな一面が垣間見える、圧巻のステージだった。
第2部の幕開けは、まさかの主役不在の状態でスタート。第1部のラストで限界突破していなくなってしまった(?)上原に代わり、辻が「Circle of Life」(映画『ライオン・キング』より)を歌おうと大きく息を吸い込んだそのとき、客席下手後方から「ナーンツィゴンニャー!」と上原がサプライズ登場。アカペラで冒頭部分を歌唱すると、マイクを手に悠々と歌いながら客席通路を練り歩きステージへ。曲の間奏中には、辻がおもむろにシンバのぬいぐるみを両手で高く掲げ、ざわめきと爆笑を巻き起こすという遊び心たっぷりな演出も。
上原のソロステージだった第1部に対し、第2部はゲストの石井一孝が登場。暗転して「ひとあしお先に」(映画『アラジン』より)の前奏が流れると、客席からは自然と手拍子が。客席上手後方にスポットライトが照らされると、にこやかな石井の姿が浮かび上がる。石井はディズニーアニメ映画『アラジン』で、実際に歌の吹き替えを務めている本物のアラジン。その煌めく歌声には惚れ惚れしてしまう。さらに、町の人や兵隊の声までコミカルに歌い分けるパフォーマンスからは、石井の歌唱力と人柄が同時に感じられた。歌い終わりに舞台袖に捌けたと見せかけ、ひょっこり顔を出してピースをキメるお茶目な姿には、思わずほっこりしてしまう。
シンガーソングライターの顔も持つ石井は、自身が作曲を手掛けたオリジナルナンバー「幕が上がれば」を披露。役者の決意と信念を描いたドラマチックな歌詞(作詞は竜真知子)とメロディは、静かに深く胸に響いてくる。
上原と石井は2024年にボーカルユニット「Las Voces」(ラス・ボセス)を結成したばかり。Billboard Live大阪でファーストライブを開催して以来、この日が関東初上陸となる。互いにミュージカルで活躍する中で、“顔が似ている”と周囲から聞かされていた二人。コンサートで初共演した際に「僕たち似ているよね?」と石井から上原に声をかけたのが最初の出会いだったという。
“顔面上の兄と弟”の思い出話に花が咲いたあとは、二人が2024年1月に共演したミュージカル『イザボー』からメドレーを披露。「傷だらけの国〜最悪の王妃」に始まり、石井はフランス王政で権力争いに身を投じるブルゴーニュ公フィリップとして「口を慎め」を歌い上げる。上原は狂気王と呼ばれたシャルル六世の今にも壊れそうな繊細な心を、「硝子の心」の悲哀に満ちた歌声で表現した。メドレーの最後は、壮絶な人生を生きるフランス王妃イザボーの決意を歌う「聖なる乙女〜The Queen of Beast」で締めくくられた。
気付けばコンサートも後半戦に。「ロンリー・チャップリン」(鈴木聖美 with Rats&Star)の心地よいメロディーに乗った、上原と石井のハーモニーに酔いしれる。「二人をつなぐ あのメロディ」という歌詞さながら、まさに音楽が二人を繋いでいた。
第2部最後を飾るのは、兄弟デュオ狩人のデビュー曲として有名な「あずさ2号」。遠くを見つめながら切ない表情で歌う二人の姿は、まるで本当の兄弟のよう。情感たっぷりに歌い終えると、これが本編最後の曲だったにも関わらず、二人は曲に気持ちが入り過ぎてそのままトークを始めてしまった。どうやってコンサートを締めるのかと思ったら、司会の辻が登場し「普通のアーティストさんは、最後の曲が終わったあとには喋らないんですよ」とツッコみ、会場はまたしても爆笑に包まれた。
三人でひとしきり喋り倒したあとは、仕切り直してアンコールへ。上原と石井は、ホールの扉を吹き飛ばす勢いで「I Was Born To Love You」(Queen)を熱唱。ステージ上で視線を交わし、ときには肩を組み、互いを称えるように歌い合う姿にはグッとくるものがある。Las Vocesの二人は、笑顔で手を降りながらステージをあとにした。客席に残る熱気と鳴り止まない拍手が、この2日間のコンサートの成功を物語っていた。
取材・文 = 松村蘭(らんねえ) 撮影 = 冨田味我