ZAZEN BOYS、いつも通りの自然体で日本武道館に極上サウンドを響かせる
『ZAZEN BOYS MATSURI SESSION』2024.10.27(sun)日本武道館
10月27日に開催された『ZAZEN BOYS MATSURI SESSION』。初めて日本武道館のステージに立ったZAZEN BOYSは、2部構成による3時間以上に及ぶ公演内で、強烈なサウンドを鳴り響かせ続けた。チケットは全席完売となり、追加販売されたステージサイド席も観客で埋め尽くされたこのライブの模様をレポートする。
“ふらり”という言葉がまさしく似合う自然な足取りでステージに現れた向井秀徳(Vocal, Guitar) 、吉兼聡(Guitar)、MIYA(Bass)、松下敦(Drums)。客電が落ちた後、向井は手にしていた缶ビールを空けてゴクゴクと飲んだ。日本武道館で初めて鳴り響かせたのが缶を空ける音だったのが、なんだかとてもZAZEN BOYSらしくて嬉しくなる。そして「座りなさい」というジェスチャーをして観客を着席させた向井が「MATSURI STUDIOからやってまいりましたZAZEN BOYSです」と言い、「You Make Me Feel So Bad」がスタートした。4人が構築したバンドアンサンブルの熱量が、初っ端からとんでもない。メンバー全員がキメフレーズを共有しつつ高鳴らせるサウンドは、殴り合いのような殺気、綱渡りのようなスリルも帯びつつ燃え上がっていた。譜面では完璧に書き記せない無数のニュアンスを交えながら各々のサウンドを融合させる様にワクワク! 人力演奏による刺激の超一級品が、ステージから迫ってきた。
「SUGAR MAN」「MABOROSHI IN MY BLOOD」「IKASAMA LOVE」「Himitsu Girl’s Top Secret」「Riff Man」「Weekend」……様々な時期の曲を、最大限に輝かせていた4人。ZAZEN BOYSのライブは“MATSURI SESSION”と称されている。その時、その瞬間ならではの間合い、息遣い、魂の躍動、心臓の鼓動を交わし合っている彼らの演奏は“セッション”という言葉がぴったりだと再確認させられる場面の連続だった。「曇ってしょうがないんですね」とぼやきながらメガネを拭く場面があったりもしたが、時折のMCを「MATSURI STUDIOからやってまいりましたZAZEN BOYSです」「アー ユー ○○○○(※なんらかの有名人の名前)? 違うか……」という2種類の定番フレーズでほぼ貫いていた向井。武道館という大舞台ではあるが、いつも通りのスタイルでひたすら最強サウンドを鳴り響かせていた4人が、とんでもなくかっこよかった。
飲み干すと新たな缶ビールがスタッフによってすぐにステージに運び込まれる万全の体制下で、絶好の喉のコンディションを保ちながら歌っていた向井。彼と吉兼のギターのコンビネーションも本当に素晴らしかった。カッティングのバトル、コード+単音フレーズ、単音フレーズ×2など、多彩な絡み合いによって次々生み出された響きはレコーディングされた作品で聴いても素晴らしいが、生で体感するとクラクラするくらい痺れる。この日のライブでの彼らの音もリアルで血が通っていた。向井がステージ上で手足を引っ張って弄ぶことでお馴染みのゴム人形、通称“ビロリンマン” が登場して観客を沸かせたりもしていた「ポテトサラダ」。躍動するビートと渦巻く音像がトランス状態を誘ってくれた「はあとぶれいく」。起伏に富んだ壮大な展開が圧倒的だった「破裂音の朝」……などなど、あらゆる曲が至福のひと時だった。そして、第1部を締めくくったのは「Sabaku」。エンディング間際で《割と意外なほど、とてもさびしい》を《割と意外なほど、とても楽しい》に変えて歌った向井の真意はわからないが、武道館で歌って演奏しながら感じたことが素直に示されていたのかもしれない。「とても楽しい」という言葉に心の底から賛同した観客の歓声がステージに届けられていた。
写真家・佐内正史による風景写真がスクリーンに映し出され、「公園には誰もいない」が鳴り響いた幕間映像を経て突入した第2部は「DANBIRA」からスタート。テレキャスターを鋭く刻みながら歌う向井、多彩な表情の音色を次々放つ吉兼、グルーヴの権化と化していたMIYA、会場全体をビリビリと震わせた松下――4人のサウンドは、引き続き絶好調だった。特別な演出はなく、簡素なままであり続けていたステージだったが、4人の音が存在するだけで武道館が異世界となっていたことが、ひたすら思い出される。スタートするや否や歓声が上がっていた「安眠棒」。4人がスリリングなキメとタメを交わし合いながら駆け抜けた「Cold Beat」。観客の激しい手拍子が加わった「HANTAI TERMINATED」……この時点で開演してから2時間以上経っていたと思うが、ワクワクする気持ちは尽きることがなかった。「HARD LIQUOR」が披露された直後、「イントロ当てクイズでもやるか?」と向井が唐突に言い、4人で奏でたのはラーメン屋台のチャルメラを彷彿とさせる旋律。クイズの答えが「HARAHETTA」だと発表することもなく、彼らは「6本の狂ったハガネの振動」へと雪崩れ込んで行った。
向井のジェスチャーに従って序盤からずっと座っていた観客だったが、「半透明少女関係」のイントロが鳴り響いた瞬間、立ち上がって飛び跳ねる人々が続出。ミラーボールが回転する真下の客席エリアがダンスフロアと化した「CRAZY DAYS CRAZY FEELING」。哀愁を帯びた旋律の核に熱い何かが渦巻いていた「YAKIIMO」。アグレッシブなサウンドに刻まれた深いドラマに心を動かされずにはいられなかった「永遠少女」。そして「乱土」と「胸やけうどんの作り方」も畳みかけるかのように披露されて幕切れた第2部。4人は一旦ステージを後にしたが、アンコールを求める歓声と手拍子に応えてすぐに戻ってきた。
「最後にですね、深刻なお話をしなきゃいけないんですけど……。我々はですね…………MATSURI STUDIOからやってまいりましたZAZEN BOYSです」――深刻な事実を受け止めつつ体感したアンコールの曲「KIMOCHI」も鮮烈だった。太刀を激しく振り回すかのような不穏さを放つ爆音の連発を経て、向井が《K・I・M・O・C・H・I》とアルファベットを連呼し始めると、手拍子をしながら一緒に歌声を響かせた観客。4人で繰り広げたMATSURI SESSIONは、いつしか武道館全体を覆い尽くす巨大な規模へと変貌していた。そして、向井による指揮者のような腕の動きを合図に観客の大合唱がピタリとストップして迎えた終演。いつも通りの自然体で極上サウンドを響かせ続けていたZAZEN BOYSだが、何か特別なものも様々な場面で感じた気がする。正直なところ武道館のステージに立つ彼らをなかなかイメージできないまま会場に足を運んだのだが、“観に来てよかった!”と心の底から感じることができるライブだった。
取材・文=宮本英夫 撮影=菊池茂夫