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パリが最も華やいだ時代 ─ 「ベル・エポック ― 美しき時代」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

フランス語で「美しい時代」を意味する「ベル・エポック」。19世紀末から1914年頃まで、パリが芸術的にもっとも華やいだ時代です。

美術、工芸、舞台、音楽、文学、モード、科学など、さまざまなジャンルで文化が花開いたこの時代に焦点をあてた展覧会「ベル・エポック ― 美しき時代」が、パナソニック汐留美術館で開催中です。


パナソニック汐留美術館「ベル・エポック ― 美しき時代」


1871年、普仏戦争とパリ・コミューンの動乱を経験したパリは、それ以降の約半世紀にわたり、安定した時代を迎えました。オペラ座やエッフェル塔など現在のパリにつながる建築物も次々に完成し、近代都市へと姿を変えていきます。

ベル・エポック期の女性にとって欠かせないファッションアイテムのひとつが、帽子です。ルノワールは、モデルのために自ら帽子を手作りするほどこだわりを持っていました。


(左から)アンリ・ドトゥーシュ《サロン・デ・サン》 1896年 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵 / ピエール=オーギュスト・ルノワール《帽子を被った二人の少女》 1890年頃 パナソニック ホールディングス株式会社蔵


1870年頃から1890年頃までに見られる、腰の後ろを強調したスタイルのドレスは、後ろ腰の内側の専用の腰当て(バッスル)から、バッスル・スタイルと呼ばれます。

このふくらみは1880年代半ばから末にかけて大きくなり、「ティーカップが乗る」と例えられました


(左から)《アフタヌーン・ドレス》 1870-1880年代 文化学園服飾博物館蔵 / アレクサンドル・カバネル《狩の女神ディアナ》1882年 栃木県立美術館


パリの街を一望できるモンマルトルは、19世紀から20世紀にかけてナポレオン3世が進めた都市整備事業(パリ大改造)により、新興のキャバレーやダンスホール、カフェ・コンセール(ショーを見せる飲食店)などが軒を連ねる歓楽街になりました。

カフェ・コンセールのムーラン・ルージュは、1889年に開業。「近代ポスターの父」とも称されるジュール・シェレによる《ムーラン・ルージュ》は、同店の最初のポスターです。


(左)ジュール・シェレ《ムーラン・ルージュ》 1889年 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵


カフェ・コンセールのエルドラドで活躍したシャンソン歌手のアリスティド・ブリュアンは、黒いつば広帽と黒いジャケット、赤いマフラーがトレードマーク。

トゥールーズ=ロートレックは、ブリュアンの姿を描いたポスターをたびたび制作し、戦略的に宣伝を進めました。


(左手前)アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ブリュアンはモンマルトルに戻り 『オ・バ・ダフ』を歌う》 1893年 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵


多くの劇場が建てられたモンマルトル。中でも自然主義演劇を多く上演したテアトル・リーブル(自由劇場)では、上演目録用の挿絵や舞台装飾に芸術家が関わり、さまざまな表現が生まれていきました。

非日常的な雰囲気をもつサーカスも、芸術家を魅了。当時の最新技術である電気照明を駆使したダンサー、ロイ・フラーの踊りも、芸術家たちを惹きつけました。


(左から)シャルル・モラン《ロイ・フラー(黄色の衣装)》 1895年頃 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵 / シャルル・モラン《ロイ・フラー(オレンジ色の衣装)》 1895年頃 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵


ずらりと並ぶ《挿絵付き上演目録》は、当時作曲された楽曲の上演目録です。作曲したのは19世紀のモンマルトルで1000点以上の楽曲を作曲したガストン・マキーで、挿絵はアンリ=ガブリエル・イベルスが手がけました。

マキーは、舞踏会で演奏されるワルツを多く作曲し、「黒いストッキングのワルツ」が代表作です。


アンリ=ガブリエル・イベルス《挿絵付き上演目録》1893-1894年 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵  ※「黒いストッキングのワルツ」は下段右から5番目


世紀末のパリは、マリー・キュリーがノーベル賞を受賞、メアリー・カサットやシュザンヌ・ヴァラドンのような女流画家も活躍するなど、女性が活躍した時代でもありました。

アルフォンス・ミュシャやルネ・ラリックが知られるようになったのも、大女優のサラ・ベルナールが大きな役割を果たしています。


(左手前)ルネ・ラリック、アルフォンス・ミュシャ(デザイン)《舞台用冠『ユリ』(エドモント・ロスタン作『遠国の姫君』にてサラ・ベルナールが着用)》1895年頃 箱根ラリック美術館蔵


第一次世界大戦(1914-1918)は女性の社会的自立を促し、1920年代にはモードも大きく変化しました。過剰な装飾は排除され、基本的なシルエットは筒型。このスタイルは、当時の美術様式であるアール・デコとも呼応しました。

ココ・シャネルやマドレーヌ・ヴィオネなどの女性デザイナーは、女性の視点から革新的なモードを提案するようになりました。


(左から)《イブニング・ドレス》1928年頃 文化学園服飾博物館蔵 / 《イブニング・ドレス》1920年頃 文化学園服飾博物館蔵 / マルク・シャガール《花束》1911年 山梨県立美術館蔵 / 《こども服》1910年代 文化学園服飾博物館蔵


絵画や工芸だけでなく、舞台、音楽、文学、モードなど幅広い視点でベル・エポック期のパリを紹介する企画、華やかな会場で見どころたっぷりです。第3章「華麗なるエンターテイメント 劇場の誘惑」は来場者の撮影も可能です。

展覧会は山梨県立美術館からスタートし、パナソニック汐留美術館が3会場目。この後に岡山県立美術館に巡回します(2025年4月11日~5月18日)。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年10月4日 ]

※会期中、一部展示替えをします。
[前期] 10月5日(土)~11月12日(火)
[後期] 11月14日(木)~12月15日(日)
土日祝は日時指定予約制です(平日は予約不要)。
当日空きがあればご入館いただけます。

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