就学先、このままで大丈夫?転籍・転校の悩み、手続きの流れや専門家QA【発達ナビアンケート結果も】
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
通常学級・特別支援学級間の転籍や特別支援学校への転校の手続き方法は?専門家が転籍・転校の悩みにも回答!
小学校入学前に就学相談などで通常学級、特別支援学級、特別支援学校などお子さまに合った就学先を決められたと思います。しかし、実際に入学したり学年が上がるにつれて「今のわが子にはこの在籍クラスで合っているの?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
学習の困難や人間関係、環境などの理由から通常学級から特別支援学級へ、またその逆に特別支援学級から通常学級にクラスを移ることを「転籍」といいます。転籍や転校によって子どもの困り事が減ることも多くあります。
このコラムでは、通常学級と特別支援学級間の「転籍」や、特別支援学級と特別支援学校間の「転校」の仕組み、専門家のコメントなどを紹介します。
通常学級での支援は
・通常学級での合理的配慮(通常学級に在籍しつつ個別の教育支援計画などを元に合理的配慮を受ける)
・通級指導教室(特性や障害などによって授業に困難がある場合、困りごとに合わせて特定の時間だけ個別の指導を行う学級)
の2種類があります。
特別支援学級は学習や生活における困難を克服するための教育を行う学級となっており、発達障害の場合は知的障害の併存の有無にあわせて、「知的障害特別支援学級」「自閉症・情緒障害特別支援学級」から選択するのが一般的です。
特別支援学校は心身に障害のある児童・生徒が通う学校で、幼稚部(一部の学校)・小学部・中学部・高等部があります。障害のある児童・生徒の自立を促すために必要な教育を受けることができるのが大きな特徴です。
小中学校在籍時に「通常学級から特別支援学級(またはその逆)への転籍」「特別支援学級から特別支援学校(またはその逆)への転校」は可能です。
転籍・転校を希望する場合にはまず、担任や特別支援教育コーディネーターに相談します。学校側は子ども本人や保護者の意向など聞き取りを行い、校内の就学支援委員会で検討がなされます。その後、市町村の教育委員会にその結果を報告し、教育委員会では子ども本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、専門家などの見解、学校や地域の状況などさまざまな観点から転籍を決定します。最終的に都道府県(もしくは政令指定都市)の教育委員会で決定がなされます。
転籍も転校も手順はほぼ一緒ですが、特別支援学級・特別支援学校間の転校の場合は通う場所自体が変わることになるので、学校見学や体験などを行い、より慎重な判断が必要とされます。
※自治体によって転籍・転校の手続き内容は違います。まずは担任や特別支援教育コーディネーターに確認をしてみましょう
「転籍・転校」したことある?悩みや決め手などは?発達ナビ内アンケート結果
発達ナビ内でのみんなのアンケートにて「【通常学級?特別支援学級?特別支援学校?】お子さまの転籍・転校のエピソードをお聞かせください!」を実施しました。
転籍、転校をした方は約38%と一番多く、転籍、転校を考えたことがある・考えている(約35%)、転籍、転校を考えたことはない(約28%)と続きます。実際に転籍・転校をした、考えたことのある方は7割以上いる結果となりました。
アンケートに寄せられたコメントをいくつかご紹介いたします。
・転籍、転校をした
(略)
コロナ禍での突然の休校で、息子はパニックに陥り、癇癪や昼夜逆転、家庭内暴力がひどく出るようになりました。
担当医とも相談し、児童精神科に9ヶ月間入院することに。
小六の9月から、元の小学校に戻りました。コロナ禍以降の学校の様子は様変わりしていました。その環境の変化についていけず、息子は荒れてしまいました。また、院内学級では殆ど勉強する時間が無かったため、学習についていけず。毎日、学校で癇癪を起こし、私のところに連絡。早退する日々でした。
中学進学を前に、小中学校と相談員、スクールカウンセラー、私達両親と面談。「中学では、更に環境の変化が激しく、常に担任が見守れる体制ではない(通常級)。支援級ならば、少人数制で担任が対応しやすいため、転籍してみては?」と勧められました。
息子と私とで、中学の支援級を見学。息子は「静かな環境で、勉強を頑張りたい」との意向。中学からは支援級に転籍しました。
(略)https://h-navi.jp/selective_surveys/285
・転籍、転校をした
通常学級で小学校入学。
色々と困難さが出てきて、先生から検査をした方が…って勧められ検査をし自閉症スペクトラム障害・聴覚過敏・極度の偏食と診断。
学校の配慮で支援級も通えるように。
支援級では興奮することも無く穏やかに過ごせているって先生から話がありました。
(略)https://h-navi.jp/selective_surveys/285
※引用部分は読者の方からいただいた表記のまま記載をしております。
※自閉症スペクトラム障害は、現在はASD(自閉スペクトラム症)と呼ばれるようになりました。
※通常学級に在籍のまま特別支援学級に一時的に通えるようになる場合もありますが、学校の状況や判断によります。
・転籍、転校を考えたことがある・考えている
うちはADHD不注意型とSLD(書字と計算)の診断がついてる通常級の小6ですが、転籍するべきかどうかは毎年考えてます。
今は放デイでの取り組みや服薬の甲斐もあり生活面での困りごとはほぼ改善してるので、転籍するとしたら学習面でどうにもならなくなった時かなと。https://h-navi.jp/selective_surveys/285
転籍・転校の悩みについて専門家が回答!
ここからは転籍、転校に関するお悩みを鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授の井上 雅彦先生に回答いただきます。
Q:通常学級在籍で通級指導教室にも通う小4男子です。高学年になり勉強が難しくなり、算数などで解けない問題が増えてきました。宿題などもかなり時間がかかっていたので相談し減らしてもらいました。ですが、やはり通級だけでは厳しそうに思えます。息子に特別支援学級への転籍を持ち掛けたら「嫌だ!」の一点張り。息子の意思を尊重したいとは思っていますが、親はどこまで介入してよいのでしょうか。
A:高学年になってからの転籍の場合、本人が特別支援学級での学びについてどのように理解し、受け止めているかが本人の意思決定の鍵になります。
まず、本人に体験入級をしてもらい、感想を聞いたり、親子でメリット、デメリットなどについて話し合いをする中で納得して入級するのが良いとおもいます。
Q:年長で中度の知的障害のある子どもがいます。小学校の就学先を特別支援学級と特別支援学校で悩んでいます。教育委員会の方からは「保護者の希望するほうで大丈夫ですよ」と言われました。もしこの先転校をする場合、特別支援学級から特別支援学校に行く場合と特別支援学校から特別支援学級に行く場合のそれぞれのメリット、デメリットなどが知りたいです。
A:特別支援学級から特別支援学校への転校は多いですが、特別支援学校から特別支援学級への転校はそれに比べると少ない傾向です。
特別支援学級は通常学級との交流の機会が頻繁にあること、特別支援学校はより専門性の高い教育内容が得られることが特徴です。
転校の方向性についての一般的なメリット、デメリットというよりもどちらの学校をスタートラインに考えるとその子どもに合っているかを重視すると良いでしょう。
Q:発達障害グレーゾーンの年長娘がいます。特別支援学級か、通常学級にするか迷っています。特別支援学級なら手厚い支援が受けられると思いますが、通常学級で頑張ることで伸びる部分もあるのではないかと思い……どちらでスタートしたほうが良いのでしょうか?
A:本人やご家族の希望があるのでどちらが良いとは一概には言えませんが、高学年になり特別支援学級に転籍する場合、特別支援学級に対する本人のイメージなどから転籍に対してネガティブな感情が生じる場合もあります。入学当時から特別支援学級で学ぶことに対して、マイナスイメージを持たないようにしておくことが大切です。
転籍や転校など気になることがあれば、担任の先生や特別支援教育コーディネーターに相談をしてみましょう
発達ナビでの「転籍・転校」アンケートでは、転籍・転校をした方、転籍・転校を考えている方は合わせて約7割ほどいる結果となりました。学習面、生活面、お子さんの希望など転籍や転校を考えるきっかけはさまざまですが、お子さんにとってより良い環境を整えるために、気になることなどあれば担任の先生や特別支援教育コーディネーターなどに聞いてみると良いでしょう。
ここからは転籍や転校に関するコラムをご紹介します。さまざまなエピソードはお悩み解決の参考になるかもしれません。ぜひご覧ください。
転籍・転校関連コラム
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。