【取材レポ】京都・二条城本丸御殿のここがすごい!保存修理担当者にインタビュー~美しい障壁画などの見どころと、後世に伝えるための保存修理~
元離宮二条城本丸御殿は保存修理工事が終了し、2024年9月に18年ぶりの公開となりました。本丸御殿の見どころや工事内容について、担当者の方にお話をお聞きしました。
二条城本丸御殿とは
画像提供:京都市元離宮二条城事務所様
■二条城とは
二条城は1603(慶長8)年、徳川家康が京都御所の守護と将軍上洛の際の宿泊所とするために築城しました。3代将軍・家光の時代には後水尾天皇を迎えるために大規模な改修を行い、狩野派の障壁画などが多く加えられました。幕末、15代将軍・慶喜が二の丸御殿で「大政奉還」の意思を表明したことも有名です。1994(平成6)年にユネスコ世界遺産に登録され、絢爛たる桃山文化を400年の時を超えて今に伝えています。
画像提供:京都市元離宮二条城事務所様
■本丸御殿とは
画像提供:京都市元離宮二条城事務所様
現在の本丸御殿は、1884(明治17)年に二条城が皇室の離宮となった後、明治天皇の命によって1894(明治27)年に京都御所の北にあった桂宮家(かつらのみやけ)の御殿の主要部を移築した建物です。江戸時代の宮家御殿でこれほどの規模を残しているものは他になく、重要文化財に指定されています。明治から大正にかけて、大正天皇の皇太子時代、昭和天皇の皇太子時代の宿泊所として使用されました。
保存修理と見どころのインタビュー
日野貴之さん(左) 来本雅之さん(右)
京都市元離宮二条城事務所の総務課長 日野貴之さんと建造物保存整備担当課長 来本雅之さんに、今回の保存修理の内容と見どころについてインタビューさせていただきました。
日野「阪神淡路大震災で本丸御殿の建物に歪みが生じており、安全に観覧していただくため、今回の保存修理工事で耐震補強を施しました。平成29年~令和5年度にわたった工事が完了しまして、2024年9月1日から公開となりました」
ー保存修理工事はどのようなものだったんでしょうか。
来本「重要文化財や国宝の建造物の保存修理にあたっては、文化庁が定める『主任技術者』という資格者が工事を担当する必要があります。私を含めて有資格者は全国に150名程しかいません。
今回の修復のポイントは阪神淡路大震災で被災した部分を修理して、不足していた耐震強度を補強することです。できるだけ建物に負荷がかからないように、考えうる補強方法としてはかなりベターなものができたのではないかと思っています」
耐震補強の鉄骨柱(修理後)
ー修理完了後の様子ですが、鉄骨むき出しの場所もあるんですね
来本「文化財建造物の耐震補強では、2つの方法があります。ひとつは新しい補強材を入れる際はあえてなじませないようにする方法です。特に世界遺産の場合は、オリジナルの部分と後で付加したものを明確にわかるようにしています。
普通の町屋やお寺などであればある程度の壁の量があるのですが、『御殿』という建物は襖や障子などの建具を全部外してしまうとほとんど柱しか残りません。饗宴をするような時には見わたしのきく良い空間なのですが、耐震性能が非常に劣ります。なので鉄骨で主たる補強をしています。今後、京都で大きな地震が起こるかもしれないとも想定して対策しています」
ー鉄骨はあえて、なじませないように目立たせていたんですね。そのようなルールがあるなんて知りませんでした。
公卿之間 画像提供:京都市元離宮二条城事務所様
来本「もうひとつの方法が『見えない補強』です。公卿之間の建具は、両脇の建具を補強壁とする際に見えない補強としています。4枚の舞良戸(木戸)のうち、実は両脇の戸に構造用合板を使った補強建具としているんですよ」
ー修理内容によって、見える補強と見えない補強を使い分けられているんですね。
保存修理に関しては下記の京都市のnoteにも詳しくまとめられておりますので是非ご覧ください。
https://kyoto-city.note.jp/n/n0fdc79cb518d
ーそれでは、本丸御殿の見どころを教えていただけますか。
御書院一の間 画像提供:京都市元離宮二条城事務所様
日野「本丸御殿は幕末期の宮家御殿として非常に貴重な建築です。御書院(ごしょいん)の一の間(いちのま)は、床が一段高くなっており、格天井(ごうてんじょう)で壁が金箔貼、違棚(ちがいだな)、大きな床を備えた御殿内で最も格式が高い部屋です。
三の間は畳を上げると能舞台へと変わり、桂宮家最後の当主の淑子内親王(すみこないしんのう)と明治天皇が一緒に能を楽しまれたという空間になっています。御書院四季の間の春の間にある卍崩しの欄間(らんま)は、よく似たものが桂離宮にもあり、桂宮家ゆかりの建物としてのつながりや格式を感じさせるデザインになっています」
ー本丸御殿はお城の建物というより、「宮家」としての建築が味わえるんですね。
杉戸絵「花車図」 画像提供:京都市元離宮二条城事務所様
日野「障壁画も見どころで、237面の原画を公開しております。その時代の一流の絵師たちによって描かれた多数の障壁画を展示しており、京狩野や円山派・四条派などの江戸時代後半に京都で活躍した様々な流派の絵画を見ることができます。18世紀から幕末にかけて描かれた杉戸絵(すぎとえ)では『花車』や『舞楽』などといった宮家にふさわしい画題が選ばれています」
来本「本丸御殿は、日本で唯一主要な建築物が残っている幕末の宮家御殿なんです。障壁画は非常に綺麗な状態ですが、今回の修理では何も彩色を加えておりません。当時のオリジナルのまま保存されているんです」
ーこんな綺麗な状態がオリジナルなんですか!すごいですね。
来本「本丸御殿は二条城に移築されて頻繁に使われていなかったため、それだけ日に晒されることも少なかったんです。管理が京都市に移ってからも、春や秋だけという限定公開でしたので非常に状態が良いままで残すことができています。幕末に描かれた当時の姿そのままに近い状態で保っているのです。
障壁画の劣化度を知る目安は『青色』を見るとよくわかるということです。染料系の青と岩絵の具系の群青を混ぜた色がこれだけ鮮やかに残っているのは奇跡的なことなんです。どれだけ光を浴びてないかということがわかりますね。ですので状態の良い障壁画もぜひご覧いただきたいです。
観覧ルートというと光がさんさんと差しているイメージを持たれるかもしれませんが、雨戸を閉めて光ができるだけ入らないようにする公開する予定です。ここまで良い状態で伝わってきた障壁画を末永く後世に伝えていきたいと考えています」
ーそんな貴重なものが見れるなんて感動です。障壁画の「青」は是非じっくり見たいですね。
唐紙 画像提供:京都市元離宮二条城事務所様
日野「唐紙(からかみ)や照明器具も見どころです。唐紙というのは胡粉入りの絵具を塗った表面に、版木を使って模様を刷った紙のことで、桂離宮などでも用いられています。本丸御殿の随所で用いられ、部屋や廊下を彩っています。明治から大正時代にはじゅうたんやシャンデリアが取り付けられ、洋風のしつらえを取り入れた近代の宮廷文化を伝えています」
来本「本丸御殿の唐紙は明治期に移築されてからのものになるのですが、江戸時代から続く唐紙屋の『唐長(からちょう)』に伝わる版木を使用して当時と同じ手法で刷っていただいており、唐紙のデザインもそのままです」
ー当時の版木が残っていたんですか?
唐紙 白地大七宝
画像提供:京都市元離宮二条城事務所様
来本「そうですね。昭和60年前後の修理でも唐長さんの版木を使用していました。唐紙の版木というのは伝統的にその刷り元が所有していて、ダメになったらその版木を元に同じような版木を起こす、ということを繰り返しています。ですので、唐長さんのおかげで当時と同じデザインで作ることができています。例えばこの唐紙は銀色の模様が特徴的で『銀砂子(ぎんすなご)』といいます。銀の粉を使って模様を浮き立たせており、時間がたつと銀が黒っぽくなって新たな雰囲気を醸し出すんです」
ー銀焼けの味わいがあるということですね。まさに日本画の世界です。保存修理や見どころについて、とても興味が出るお話をしていただき有難うございました。
二条城の多言語対応と京都市民にむけての取組み
二条城が世界遺産になって約30年、世界から観光客が来るようになりました。二条城の案内スタッフは基本的に英語対応が可能で、パンフレットは日本語、英語、中国語(繁体字・簡体字)、韓国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語という8か国語で用意されています。言語がわからなくても伝わるように、城内の案内ではピクトグラムを多く使用。二の丸御殿では英語での公式ガイドツアーもあり、興味のある方は深く鑑賞することができます。
英語や外国語の表記では「幕府」「将軍」などの単語を知らない海外の方でもわかるような説明の工夫をされています。また、電子チケットを利用することで並ばなくても入城することができ、チケットや売店もキャッシュレス決済対応になっています。
また、二条城は京都市民限定の「京都市民年間パスポート」を販売しています。本丸御殿もこれまでと同じ金額で鑑賞可能です。「自分の身近にこんなに素晴らしい文化財があるんだ」ということを、市民の皆様にも体験してほしいとのことです。
▽世界遺産 元離宮二条城
https://nijo-jocastle.city.kyoto.lg.jp/
開城時間:午前8時45分~午後4時(閉城午後5時)※夜間イベント時には変更あり
二の丸御殿観覧受付時間:午前8時45分~午後4時10分
本丸御殿観覧受付時間:午前9時30分~午後4時
※本丸御殿は事前予約制です。詳細は公式サイトをご確認ください。
二条城の楽しみ方
■二条城公式ガイドツアー
二条城を詳しく知りたい場合、有料の「二条城公式ガイドツアー」がおすすめです。歴史や文化財・関連した人物について公式ガイドが分かりやすく解説します。通常の観覧では非公開のエリアも一部入ることができます。日本語・英語それぞれ開催されています。事前予約を受け付けていますが、空きがあれば当日参加も可能です。
公式ガイドツアーは、以下のページから詳細確認・ご予約をお願いいたします。
https://nijo-jocastle.city.kyoto.lg.jp/service/guide_tour/
■二条城売店
城内の売店では、様々な二条城オリジナルグッズが販売されています。美しい入城記念符は良い記念になりそうです。人気の「殿様珈琲」は配りやすくてお土産にもぴったりですね。
世界遺産登録三十周年記念御城印(上) 殿様珈琲(下)
ここでしか買えない「京都市観光協会×嵯峨美術大学コラボグッズ」も必見です。学生のみずみずしい感性でデザインされたグッズはどれも素敵です。コンペを勝ち抜いた珠玉の作品に触れることができます。
▽元離宮二条城 京都市観光協会二条城売店
https://ja.kyoto.travel/tourism/article/shop/
歴史や文化財、お土産など様々な楽しみ方ができる二条城。2024年9月からの公開では、貴重な本丸御殿を是非鑑賞してみてくださいね。
記事を書いた人:Kyoto Love.Kyoto
京都の街、そして京都にかかわる人たちの役に立ちたい。そんな想いを原点に、人と人、人と地域との交流のなかで見つけた物語をまちかどの語り部たちが発信しています。智恵の循環が紡ぎ出す、京都人でもよく知らない京都、そして深遠なる京都の魅力を伝えていきます。
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