大人の鑑賞に耐えうる面白い作品を作ることが自然と子どもたちにも響くと思っています――オリジナルTVアニメ『プリンセッション・オーケストラ』大沼 心監督インタビュー | 歌アフレコに合わせて口パクを一音ずつ合わせた“歌いながら戦う”ヒロインアニメの制作に迫る
テレ東系列6局ネットほかにて好評放送中の、キングレコード、アリア・エンターテインメント、タカラトミーによるオリジナルTVアニメ『プリンセッション・オーケストラ(以下、プリオケ)』。
『戦姫絶唱シンフォギア(以下、シンフォギア)』シリーズのスタッフをはじめとする豪華クリエイター陣による “歌いながら戦う”ヒロインアニメというコンセプトに、第1話放送時にはSNS上で「#プリオケ」が日本のトレンド入りするなど話題を集めています。
アニメイトタイムズでは、本作の監督を務める大沼 心さんにインタビューを実施。初挑戦となる朝の時間帯の作品との向き合い方やスタッフの個性を尊重する制作スタイル、楽曲と映像の合わせ方へのこだわりなど様々なお話を伺いました。
【写真】アニメ『プリンセッション・オーケストラ』大沼 心監督インタビュー
大人の鑑賞に耐えうる面白い作品を作ることが自然と子どもたちにも響くと思っています
──大沼監督が本作に参加された経緯を教えてください。
大沼 心監督(以下、大沼):金子彰史さんが監督案として自分の名前を出してくれていたらしく、それがきっかけでキングレコード諏訪さんからSILVER LINK.にオファーがありまして、「一年間の長期シリーズをやりませんか?」とお話をいただいたのが最初です。朝の時間帯の作品であるということも伺っていて、「是非やりましょう」と参加させていただいた次第です。
──以前には『プリンセスチュチュ』に原画で参加されていたこともありますが、子ども向けで、特に女の子がターゲットの作品というのは、大沼監督として初めてになりますよね?
大沼:初めてですね。女の子向けの作品であることは伺っていましたが、さらに原案として『シンフォギア』のチームが入るということも合わせて伺いました。最初にライトノベル一冊分くらいのボリュームがあるプロットをいただいて、それを読ませていただいた流れでしたね。
──そのプロットの時点で設定はどれくらい固まっていましたか?
大沼:コンセプト自体はほぼ全て固まっていました。金子さんと逢空先生(逢空万太)の方で「こういう作品をやりたい」と企画原案をまとめられていたので、かなり最後の方まで決まっているプロットでしたね。そこから色々と味付けはさせていただいているんですけれど、大筋はほとんどその時にいただいたままのものです。
──監督が味付けをされた部分というのは、具体的にどういった部分ですか?
大沼:一年間という長い作品ですので、多少は本筋と外れたお遊び的な要素があっても良いのではないかと思い、そういった部分を加えさせていただいています。どちらかというと、キャラクターをより魅力的に見せる部分でお手伝いをさせていただくことが多かったですね。
というのも、プロットを読んだ時に少しハードなお話だという印象を受けたんです。本筋の部分は私自身もしっくりくるので、もう少しライトな部分を付け加えても良いのかなと思ってご提案させていただきました。
ただ、実際に制作を進めて思ったのは、物語の根幹は確かにハードなんですけれど、それ以上に逢空先生が生み出したキャラクターが非常に強くて、ハードさを覆い隠して余りあるほどのキャラクター性が出ているんです。そんなキャラクターたちをキャストの皆さんに演じていただくことで、より一層マイルドに見えるのではないかなと思います。
──お遊び的な要素やキャラクター性でマイルドにしつつも、物語の奥底にはハードな部分があるんですね。
大沼:物語の根幹部分には意外と重いものも含まれているので、少し考えさせられる部分もあるかなと思っています。裏設定に近い部分も作り込まれていて、例えばバンドスナッチや敵方であっても理由も無く動いているわけではないので、そういった理由が見えてきた時にプリンセスたちがどう対応していくのかなどにも注目していただけると嬉しいです。
──初めての子ども向け作品を監督する上で、他の作品をご覧になって研究などはされましたか?
大沼:一応、研究として『シンフォギア』も見ようかどうしようか非常に迷いながら何本か拝見したんですけれど、影響を受けすぎるのもちょっと違うなと思って。私自身が結構影響を受けやすいタイプなので、もちろん要素とかは参考にさせていただいたんですが、影響を受けすぎないように自分の中で意識して踏みとどまっている部分はあります。
また、最初の企画会議で話したことなんですけど、ターゲッティングに関しても「子ども向け」という意識だけで作ってはダメなのではないかと考えていました。子どもって大人が欲しがるものを欲しがる傾向があると思うんです。
ちょうど企画会議をしていた頃、私にも小学校低学年の娘がいたのですが、大人がスマホを使っていればそれを欲しがるんですよ。大人がやっていることを真似したがるのが子どもなので。それであれば大人の鑑賞に耐えうる面白いと思える作品を作ることが自然と子どもにも響くと思っています。
大人の鑑賞を意識するということは、特に親視点で見た時に「これはきついな」「子どもに見せたくないな」と思われるような作品にはしたくはないということでもあります。ただし、そこに縛られ過ぎてしまうと表現できないことも増えてしまいますので、意識は常に向けつつも、きちんとアニメ作品としての質を保ったものを作っていこうというのが基本的な心構えです。
──親が子どもに安心して見せられる作品にするために、監督の中でこういった表現はしないというようなルールはありますか?
大沼:例えばですが、やられた方のダメージ表現一つにしても、あまり過激になりすぎないよう気を使っています。
あと、言葉遣いに関しても結構難しいなと思っていて。逢空先生の脚本が独特の言い回しをされることがあるので、どこまでは良いのか悩みながらアフレコ段階で調整をお願いすることはあります。ただし、基本的には言葉の表現についてはあまり刈り取りすぎないように気を遣って、本読み(脚本の読み合わせ)などを進めさせていただきました。
「女の子向けを意識しすぎない」キャラクターの衣装
──各キャラクターの衣装や学校の様子など、全体的にキラキラしていて可愛いという印象です。こういった「可愛い」部分の表現についてはどうアプローチされていますか?
大沼:服装なども含めて多くのアイデアを、キャラクター原案の島崎さん(島崎麻里)から本当にたくさんご提案いただいています。それに加えてタカラトミーさんからも「こういう服はどうでしょう?」とご提案いただいたりするので、それらを参考にさせていただいたところは結構あります。
アイデアをいただきながらデザインを組み立てていったので、皆さんのお力をお借りしている部分は大きいです。あと、原案チームのビジュアルイメージがかなり強いので、ちゃんとそれに寄り添うような形で色使いなどを映像に落とし込もうと考えました。
──かがりの私服が肩出しで色味もグレーというのが子ども向け作品として少し意外だと思ったのですが、ここらへんも島崎さんやタカラトミーさんの提案がベースですか?
大沼:かがりはメインキャラクターなので島崎さんですね。島崎さんには少し大人びているというか、そういった方向性でデザインを頂きました。キャラクターの衣装に関しては、プリンセスの状態もそうですが“憧れてもらう”という意識が強いです。
「女の子向けの作品だから、女の子っぽいものを着せます」ではなく、大人っぽいものであったとしても、それをキャラクターが魅力的に着こなしているかが重要だと思うので、特にかがりはその要素が強いですね。そういった意味で「女の子向けを意識しすぎない」部分が出ているのかなと思います。
歌と映像を合わせるこだわり
──プリンセス3人のキャスティングの決め手についても教えてください。
大沼:分の中で、みなもはフレッシュさみたいなもの、かがりは少し大人びた感じや大人っぽさ、ながせは元気でトリックスター的な面が強いのでちょっと特徴的な芝居ができる方を意識しましたね。
実は、ながせ役の橘さん(橘 杏咲)に関しては、元々みなも役のオーディションを受けに来ていただいたのを、こちら側が「ながせがハマるんじゃないかな?」と思ってスライドしていただいた経緯があって。そういった点では少し独特な経緯でのキャスティングかもしれませんが、現場で話し合いながら現在の3名に決まったという感じです。
あとは歌の要素があるので「歌える」という点も重要でした。オーディションが少し独特だなと思ったのが、仮の歌でしたけれど実際に歌っていただいて、歌唱力も含めて審査をしたんです。私にとってそういった形式のオーディションは初めての経験になりましたね。
──そんな経緯で決まったプリンセスたちですが、アフレコ現場の様子はいかがですか?
大沼:やはり“歌いながら戦う”作品なので、映像に合わせながら演じるのは大変そうですね。皆さん実際に体を動かしながら演じられていて、それも三者三様なのが面白くて。シャドーボクシングのように動いたりする人もいれば、やられている前提でダメージを受けているかのような演技だったり(笑)。
本編を録った後に歌アフレコをしているので、声を維持するのも大変だと思いますし、本当に感心しながら見させていただいています。
──先日のインタビューでも、3人とも試行錯誤しながら「難しいけれど楽しい」とおっしゃっていました。
大沼:今後の展開では3人の合唱曲も出てきますが、それこそ本当に“歌いながら戦う”ことが肝になるので、3人での歌唱後は皆さんやりきった表情で収録を終えられていますね。
実は、アニメの制作現場も歌アフレコに合わせて映像調整をしているんです。歌いながら口パクや動作に全てを合わせるのは難しいと思うので、動作の起点や肝になる部分は押さえていただいて、口パクについては一旦こちらで預かって改めて編集する形をとっています。
通常は音響さんに映像と合わせてもらったら終わりということが多いですが、この『プリオケ』は現場のやり取りの回数がとても多いのも特徴です。
──アフレコ後に映像を再調整されているんですね。
大沼:再調整、再々調整といった時もあります。さらに、作曲チームにも寄り添っていただいているので、アフレコ後に編曲を行うこともあります。
映像を合わせて譜割りを変えてダビングして、そのダビングが終わったものを改めて一音ずつ口パクに合わせて調整するといったこともありますね。最初は「これを1年間やるの⁉」と少し思ったりもしましたが、今も頑張って製作している最中です。
──そんな楽曲が本作では相当数あると伺っていますが、各楽曲に大沼監督からオーダーを出されたのでしょうか?
大沼:私の方から「この場面で使うので、こうしてください」と指示するよりも、むしろ音楽チームが意図をもって制作した楽曲なので、こちらも「映像としてこのように合わせていこう」と考えながら進めることが多いですね。
──かなりの楽曲数なのでどちらのチームも大変ですね。
大沼:そうですね。確認してみたら凄い数の曲数になっていたので、それらは全て劇中で使っていこうと思っています。先行してお披露目している楽曲もありますが、次々と新曲が登場するので、そのあたりも本作の見どころ・聴きどころの一つとして楽しんでいただけると幸いです。
まずは作品を周知していただくために、序盤は各キャラクターのテーマに合わせた楽曲を覚えていただきながら、後半にかけては一話につき一曲ずつ入るような大変なことになると思いますよ(笑)。
「変身ディレクター」と「必殺技ディレクター」を立てた理由とは?
──エンドテロップでは「変身ディレクター」と「必殺技ディレクター」として、それぞれ別の方が立たれているのが印象的でした。
大沼:一年間のシリーズだと伺った時に、これはマラソンだと思ったんです。マラソンのような長期戦において監督が自身の色を出しすぎると、現場はどうしても停滞してしまうことがあるんです。
私自身はこのマラソンを走り切るための、いわば補給所のような役割としてサポートに徹して、全体がスムーズに回るように努めようと当初から決めていました。とは言え、オープニングアニメーションは多少自分の色を出させていただきましたが(笑)。
本編はスタッフ個人の持つ力や表現力に頼っていきたいと考えていたので、例えば変身シーンであれば原画も含めて担当ディレクターに全てまとめていただいています。こういった変身シーンがある作品で複数人スタッフがいる場合だと、通常はフォーマットを決め込んで統一した変身シーンにすることが多いのですが、今回は各ディレクターの個性を尊重しています。
もちろん「ジュエルベルを振る」といった基本的な段取りや決めごとはあるにしても、その間の演出や見せ方については担当ディレクターの個性として表現してもらいたいなと。そうすることで作品としての個性にも繋がっていのかなと思って、そのようにお願いしていますね。
変身シーンは小林君(リップル変身ディレクター・小林宏平)、渡辺さん(ジール変身ディレクター・渡部高志)、伊藤さん(ミーティア変身ディレクター・伊藤浩二)に担当してもらっています。必殺技に関しては今後も色々と出てきますが、伊藤さんにお願いして非常に力の入ったものを作っていただいています。
面白いなと思ったのは、例えば「可愛くしてください」といった細かいオーダーは特に出していないんですけれど、皆さんから「女の子向けの作品なら、やっぱり可愛くでしょ」と打ち合わせで言われたんです。もちろん格好良さという要素も並列してあるので、そのバランス感覚も基本的にお任せする形で進めています。
その辺りは担当していただいた方の個性が非常によく表れていると思いますし、それをちゃんと皆さんにもお伝えしたいという想いがあってエンドテロップにお名前を出させていただいています。
──リップルの変身シーンで水の傘が登場する演出が印象に残っていて、あれは格好良くて、かつ可愛い演出だなと思って見ていました。
大沼:あの演出は担当の小林君から「傘を使って良いですか?」と提案もらったんです。リップル以外にも三者三様の変身シーンがありますし、必殺技の方も今後も様々な演出が登場しますので、そのあたりも見どころの一つとして考えてもらえたら嬉しいです。
スタッフがそれぞれの持ち場でミューチカラを発揮している『プリオケ』という作品
──本作に関わっていて監督が「ミューチカラが高まる瞬間」はどんな時ですか?
大沼:やはりアフレコでキャストの方々が歌うのを生で聴いている時でしょうか。あれは本当にすごくて非常にテンションが上がるというか、ミューチカラが高まりますね。でも、これだと自分からミューチカラを出していないな……。
私自身の作業で言うと、他の作品と比べて編集作業がすごく多くて、微調整を全部しなければいけないので大変なんですけど、細かく調整を重ねてカチッとハマった瞬間が、非常に気持ちが良いんです。
編集の木村さん(木村勝宏)と助監督の関根君(関根侑佑)と、ああでもないこうでもないと編集室に延々とこもっている時は男3人でミューチカラが高まっていますね(笑)。
本当に編集には助けられていて、関根君には口パクを全部直してもらっているので、彼は正に「口パク大臣」として頑張ってもらっています。そんなスタッフがそれぞれの持ち場でミューチカラを発揮していますね(笑)。
──それでは最後に『プリオケ』のファンにメッセージをお願いします。
大沼:本作では“歌いながら戦う”というハイカロリーなことにスタッフ一同頑張っています。また、アリスピアやバンドスナッチなどは、まだ明かされていない深い部分もあったりします。
皆さんが予想していることがひっくり返る部分があったり、アリスピアという世界の謎に迫っていくような展開も用意しています。ただ、一番大事なのは主人公であるみなもたちを好きになってもらうことだと思っているので、特に序盤は彼女たちに寄り添ってもらえるように頑張って制作を進めています。
これはテーマというわけではないのですが、作品を作る上での心構えとして「一緒に成長できる作品になると良いな」と考えていたので、この作品を通じて一緒に成長していければと思っています。
一年間どうぞ最後までお付き合いいただけますと幸いです。
取材・記事:岩崎航太、編集:太田友基