「動産」の相続、遺品整理の方法と注意点を解説
相続では、現預金や不動産のほか、貴金属、自動車といった「動産」が遺産に含まれている場合があります。一方、財産的な価値がない動産については、処分するなり、誰かが引き取るなりの作業(遺品整理)が必要になるでしょう。相続の際、動産をどう評価し、扱うべきなのか、注意点を含めて解説します。
そもそも「動産」とは
「動産」とは、ひとことでいえば、「不動産以外の“物”」のことです。不動産は、土地やそれに定着する建物、樹木などを指します。一般家庭で動産に該当するのは、例えばテレビや冷蔵庫、パソコンなどの家電、自動車、本棚や机などの家具、貴金属や美術品などです。
こうした動産には、財産的な価値を有するものと、有しないものが存在します。同じ自動車でも、新車に近い高級車もあれば、廃車寸前のケースもあるでしょう。被相続人(亡くなった人)が残した「思い出のアルバム」は、遺族にとってかけがえのないものですが、通常、財産的な価値はありません。
一般的に、価値のある動産は「誰がもらうのか」が、価値のない物については「コスト負担をどうするか」などが問題になりがちです。前者からみていきましょう。
動産相続のポイントと注意点
遺産分割の対象になる
被相続人の遺言書がない場合、これらの動産は他の財産同様、相続人全員が共有する状態に置かれます。誰がもらうのかは、相続人による遺産分割協議で決定します。一部の相続人が勝手に「形見分け」のような形で受け継いだりすることはできませんから、注意が必要です。
相続税の課税対象になる
財産的な価値のある動産を含めた遺産の総額が、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続税が課税されます。申告で問題が起こらないよう、遺産に値が張りそうな動産があるときには、その分野の専門家の査定を仰ぐなどして、正確な評価額を算出する必要があります。これは、後々遺産分割をめぐるトラブルを発生させないためにも重要です。
動産の相続税評価額
相続税の計算の際、動産は原則として1個または1組(例えばカップとソーサー)ごとに、「売買実例価額」や「精通者意見価格」などで評価します。ただし、1個または1組の価額が5万円以下のものについては、一括して1世帯ごとに評価することができます。
売買実例価額⇒市場で実際に取引されている価額
精通者意見価格⇒専門家による鑑定結果により算定される価額
売買実例価額や精通者意見価格が明らかでない動産については、その動産と同種・同規格の新品の相続発生時における小売価額から、その動産の製造時から相続発生時までの期間に応ずる償却費の額の合計額または減価の額を控除した金額によって評価する、とされています。
わかりにくい文言ですが、要するに減価償却(固定資産の購入費用を、耐用年数にわたって分割して費用計上する会計処理)の考え方を適用して評価額を決める、ということです。減価償却には、定額法(毎年同額ずつ償却)と定率法(毎年同率ずつ償却)がありますが、動産の相続では定率法を使って計算します。
計算例を挙げましょう。
・小売価額:100万円
・耐用年数5年(定率法の償却率:0.400)
・相続発生時に購入から1年未満
の動産の評価額は、次のようになります。
・償却費の額の合計額:100万円×0.400=40万円
・評価額:100万円-40万円=60万円
動産の分け方
財産的価値のある動産を相続人で分けるには、次のような方法があります。
(1)財産的価値に関わりなく分ける
遺産分割協議では、法定相続分などに関わりなく、自由に遺産分割の中身を決めることができます。動産についても、例えば配偶者が「思い出の品」としてすべて相続し、結果的に受け取る遺産の金額(評価額)に差がついた、といったことがありえるでしょう。他の相続人の合意があれば、それでも問題はありません。
(2)代償分割する
分割が難しい不動産の相続では、それを取得した相続人が、他の相続人にお金を支払ってバランスを取る「代償分割」という方法で、協議をまとめることがあります。高価な動産を特定の相続人が相続するケースでも、このやり方で調整を図ることが可能です。
ただし、動産を取得した人に代償金を支払えるだけの資力のあることが前提になります。
(3)換価分割する
金銭的に最も平等で、あとでトラブルになりにくいのは、動産を売却して現金に換え、それを分ける方法です。被相続人が残した品々に特に思い入れがない場合などには、最善の分け方といえるでしょう。
できるだけ専門家の評価を求める
特に貴金属や美術品、書画骨董などは、素人が金銭的な価値を判断するのは困難です。無価値だと思われていた物が、分割後に貴重品だと判明したりすれば、思わぬトラブルになる可能性があります。
繰り返しになりますが、評価のわからない動産は、それぞれに詳しい専門家に鑑定を依頼して、価値を明確にする必要があるでしょう。できれば、複数の査定を取得しておくことをお勧めします。
財産的価値のない動産の処分
一方、被相続人が残した動産には、値段の付かないものも多くあるのが普通です。それらは、責任をもって処分しなくてはなりません。
遺品整理は相続人の仕事
こうした遺品整理は、本来、法定相続人全員で行うべきものです。被相続人が残した動産は、無価値のものを含めて、相続人の所有物となるからです。また、一部の相続人が独断で作業を進めれば、「どうして勝手に処分したんだ」というかたちでトラブルが発生する可能性があります。
実際の作業を専門業者に依頼する場合にも、相続人合意の下で進めなくてはなりません。
相続放棄を考える場合には要注意
1点注意したいのは、相続放棄を考えている場合です。被相続人がプラスの財産よりも借金などのマイナスの財産を多く残していた場合、相続放棄しないとその返済義務を負うことになります。
ただし、相続財産の処分(売却など)を行うと、その申し立ての資格を失ってしまいます。遺品整理に手を付けたことで、即“相続放棄ノー”とはならないようですが、財産の処分に当たるかどうかは微妙なところがあります。このような場合には、整理を始める前に弁護士などの専門家の判断を仰ぐようにしてください。
専門業者に依頼するメリット・デメリット
大型の家電や家具をはじめ、被相続人が多量の遺品を残している場合には、専門の処理業者に依頼すれば、時間や労力をかけることなく、スムーズに遺品を処分することができるでしょう。
業者に頼めば、当然コストが発生します。速やかに作業を進めたいからと、よく調べずに依頼したりすれば、不当に高額の費用を請求されるリスクもあります。業者を選ぶ際には、「一般廃棄物収集運搬許可」などを取得しているかどうかを確認し、必ず複数社に見積もりを依頼するようにしましょう。
実際にかかる費用は、間取りや遺品の種類、量などによって異なり、5万円程度~数十万円まで大きな幅があります。事前に相見積もりを取り、内容と金額をよく確認することが大切です。
遺品整理の費用負担は事前に話し合っておく
説明したように、遺品の整理には、場合によっては数十万円の費用が発生することがあります。これを誰がどのように負担するのかは、作業開始前に話し合い、例えば「相続人が平等に負担する」などの合意を作っておくのがいいでしょう。
遺品整理のコストは相続財産から差し引ける?
ところで、被相続人の葬儀費用や本人の残した債務などは、相続財産から控除して(差し引いて)、相続税を軽減させることができます。では、遺品整理にかかった費用は、同じように控除することができるのでしょうか?
答えは「ノー」です。被相続人が生前に購入したお墓の未払代金や、相続税申告にかかった税理士への報酬などと同様、相続財産から差し引くことはできないのです。
まとめ
被相続人の残した動産の相続、資産的価値のない遺品の整理について説明しました。相続人同士のトラブルや、相続税申告のミスを防ぐために、必要に応じて相続に詳しい弁護士や税理士などの専門家のサポートを考えるようにしましょう。