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セオリーから外れたアニメ 鷹の爪団が世界を征服する日

Dig-it[ディグ・イット]

Flashアニメとして世界初のテレビシリーズとなった『秘密結社 鷹の爪』。広告に、コラボに、現在も現実社会を侵略し続ける本作。原作・脚本・監督を務めるFROGMANが語る、次なる野望とは…。

「お願いだ、これで世界が変わるから!」

FROGMAN/ふろっぐまん|昭和46年、東京都生まれ 。高校卒業後、実写ドラマ・映画のスタッフとして約10年働いた後、31歳で島根へ移住。2004年にWebで発表したFlashアニメ『菅井君と家族石』が話題となる。本文で紹介した作品の他、『土管くん』シリーズ(07年〜)、OVA『ピューと吹く!ジャガー』(07年〜/総監督)をはじめ、多数の作品を手がける

「僕はアニメに思い入れがないんです。それにアニメのセオリーも知りませんでしたから、業界からすると本当に反則技みたいな作り方だと思います」

そう行って笑うのはFlashアニメシリーズ『秘密結社 鷹の爪』(以下、『鷹の爪』)シリーズなどで知られるFROGMANだ。

そんな掟破りの男、FROGMANは、映画監督志望だった。ニュース映画の会社を皮切りに、十数年映像業界にいたが、映画監督にはなれなかった。FROGMANは、結婚を機に業界を辞め、以前ロケで訪れた島根に夫婦で引っ越した。

「ちょうどインターネット回線が発達し、動画の配信もできるかもしれない、という時期です。まわりくどいことをしなくても、自分の映像が流せる世界がやってくるだろう、と」

頼りは低スペックのノートパソコン一台だった。

「映像の仕事はありませんでしたが、HTMLを書けたので、近所のお店のホームページを作ったりしていました。でも、ギャランティが現物支給なんてこともしばしばでしたね(笑)」

ジャスコの特売PCと『スタジオ・ボイス』

島根に移住してから映像の仕事はなく、妻の収入を頼りに、家で一人パソコンをいじる毎日。

「ある日Webを見ていたら”アトムショックウェーブ”というサイトを見つけたんです」

”アトムショックウェーブ”はマイクロメディア社(後にAdobeが買収)のFlashやShockwaveというマルチメディアソフトで作られた作品を中心としたエンタテインメントサイトだった。

「そこで青池良輔さんが作った『CATMAN』という作品を見て、こんなことができるんだ、とショックを受けました」

ネコを主人公にしたハードボイルド風のアクションコメディアニメ『CATMAN』は、02年にアトムショックウェーブで公開されると、3ヶ月で80万回も再生された。この作品は青池が一人ノートパソコンで制作したFlashアニメだった。そうか、Flashアニメなら一人で作れる。ファイルの容量も軽く、ホームページにもお金はかからない…。

「とはいえ、今持っているパソコンで作るにはスペックが足りないなぁと思っていたときに、妻から買い物を頼まれてジャスコへ行ったんです。レジ脇に現品限りの特売PCが8万円で売っていましてね。お金がないからとって返して、妻に『お願いだ、これで世界が変わるから!』と買ってもらって(笑)」

PCを手に入れ、さっそく作品作りに取りかかった。

「実は少し前からアニメつくりの練習はしていたんです。人に見せる作品を作るには、まずキャラクターを起こさなきゃいけない、と」

そのとき、たまたま雑誌『スタジオ・ボイス』を読んでいた。ブラックミュージック特集で、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ジョン・コルトレーン、レイ・チャールズなどのミュージシャンが載っていた。

「練習がてら描いていったら、家族っぽいなと。それでスライ&ザ・ファイmリー・ストーンから『菅井君と家族石』と名付けたわけです。この作品のキャラはバストアップしか映りません。なぜなら『スタジオ・ボイス』にバストアップの写真しかなかったからですね(笑)」

絵には自信がない代わり、何度もシノブシスとシナリオを書いて構成を組み立てた。

「物語や世界観を作ることが好きだったので、とにかく構成はこだわりました。それと、Flashアニメでボイスオーバー、声でセリフを入れている人なんていなかったので、すべて自分で声を入れました。外の音が入らないよう、布団を被って(笑)」

かくして、初めて作った『菅井君と家族石』は、島根に黒人ソウルミュージシャン一家が移住して、仕事がないと嘆く、自身の境遇ともかぶる物語だ。

作者名も、敬愛する「スネークマンショー」から「FROGMAN」とし、2004年の2月から自分のサイトにアップを開始した。当初は、300程度だったビュー数が、半年後、数日間で突然16万回を突破する。

「カウンターが壊れたのかと思いました(笑)。どうやら誰かが2ちゃんねる(当時)で”変なアニメがある”と紹介したのがきっかけだったようです」

誰もやったことのないテレビシリーズ

妻との約束どおり、世界は変わった。人気者となったFROGMANはクリエイターの有志団体「move on web.」が開いたWebアニメーターの祭典「JAWACON2005」に招聘される。

「Webアニメはまだ趣味の範囲を抜けていない。せっかく優秀な人たちもいる文化なのに、ビジネスにできていない、ということで立ち上がった祭典だったんです」

00年代の前半は前出の青池良輔や、真島理一郎の『スキージャンプ・ペア』(02年〜)など、魅力的な個人作品があった。また、劇場公開作だが、新海 誠が一人で作った『ほしのこえ』(02年)がWebのクチコミでヒット作となった。

「そんな時に今の会社DLEの椎木(隆太/現・COO)がいて、真っ先に僕のところへやってきて『一緒にやりましょう』といってくれたんです」

FROGMANは『古墳ギャルのコフィー』をWeb公開しようとしていたところだった。

「椎木が『海外へ作品を出したいから、ヒーローと悪役が戦う勧善懲悪ものをやりませんか』と言うので、毎週Webミーティングをしてあれやこれやと話をしていた内容が『鷹の爪』の原型になっていったんです」

総統、吉田くん、レオナルド博士にフィリップなどによる、鷹の爪団。平和のために世界征服をたくらむものの、理想が崇高すぎてうまくいかず、俗物正義のデラックスファイターに野望を阻まれる日々…。これぞFROGMAN流の〝勧善懲悪〞である。

そんなパイロット版を作って売り込むうちに、テレビ朝日が手を挙げた。これが05年の9月頃のこと。約半年後にはテレビシリーズ『THE FROGMAN SHOW』が始まる。

「それまで4〜5分の作品しか作ったことがないのに、『鷹の爪』と『コフィー』で30分番組を作らなくてはいけない。さらに、Flashで帯のテレビシリーズの過去例がないから、仕事の割り振りから納品までのフローも自分で作らなくてはいけない。ここからが地獄でしたね。 上京して、300日間会社で寝泊まりするという記録を打ち立てました(笑)」

過去に例がないから、納品までのフローもすべて作った

『THE FROGMAN SHOW』の成功によって、FROGMANの知名度は上がり、取材の数も増えていった。
「いわゆるアニメ誌からはほとんどきませんでした。いちばん多かったのは新聞でしたね。”速く、安くで量産できる、Flashアニメという新しい時代のデジタルアニメーションだ”ということで注目されたんだと思います」
テレビ取材も『筑紫哲也 NEWS23』(TBS系)などの報道番組が中心だった。

「どうやら番組の放送後に報道部で『THE FROGMAN SHOW』が流れていたらしいんですよ。これはおもしろいと いうので、06年の5月に取材されたんです。そこで『時事風刺アニメをやりましょうよ』とセールスしたら、筑紫さんが喜んでくれたみたいで…」

そのアニメは、セールストークからわずか1ヶ月後の、なんと6月16日から(9月まで)放送された。毎週火曜日に打ち合わせをして、金曜日に放送。常識的にあり得ないスケジュールだった。何もかもの常識を破るFROGMAN作品ならではのエピソードだ。

製作費がないなら作中で作る

『鷹の爪』は07年、全編Flashでの制作作品としては初めての劇場版が作られた。

「06年にTOHOシネマズで『鷹の爪』の放送開始イベントをやった時に、映画館にかけるマナームービーを作ったんですよ。それが劇場の方に好評で『ぜひ、何かやりましょう』というノリになって…」

映画監督の道は、ノリで開けてしまった。

「TOHOシネマズの自主興行なので、宣伝などもDLEで請け負いました。もちろん、社内に誰もそんなことやったことある人はいないんです(笑)」

初の映画は、すべてが手探りで始まった。1作目『総統は二度死ぬ』は『スター・ウォーズ』のような大仕掛けのアクションムービーとなった。なんと、この作品でニューヨーク国際インディペンデント映画祭に入賞、世界でも評価されたのである。

ちなみに、この劇場版で特筆すべきは、画面右側に出てくる”バジェットゲージ”だ。要は、かかった金のグラフである。大がかりなシーンが続くと、このゲージはガクンと減り、FROGMAN自身が登場して「お金なくなっちゃった」と言う。すると、劇中広告(プロダクトプレイスメント)が流れ、一気にゲージは元に戻る…。

なんという掟破り。まるでイギリスが誇るコメディ『モンテ ィ・パイソン』のような、メタでブラックなジョークである。

「確かに、イギリスのコメディっぽいかもしれませんね。僕は『宇宙船レッド・ドワーフ号』が好きなんですよ」

『宇宙船レッド・ドワーフ号』は、事故に遭った宇宙船で、懲罰のため冷凍保存されていた男が一人生き残り、猫人類とホログラムなどと共に生活する、まさに『鷹の爪』のような破天荒SFコメディである。

「一人ひとりは優秀なんだけど、集団になるとポンコツになってしまうというのが、なんともおかしくて(笑)」

『鷹の爪』は、現在に至るまでテレビシリーズ、劇場版9作品をはじめ、去年の4月まで放送されたJRAとのコラボ作品『秘密厩舎 馬の蹄(つめ)』や数々の広告…。たった一人で作ったFlashアニメから20年近く経ち、生み出したキャラクターたちは、日本中で親しまれ、ビジネスとしても大成功を収めている。

あれからテクノロジーも進化した。今、FROGMANは新たな世界に挑戦している。

「メタバースを作っているんです。キャラクターと当たり前のように一緒に暮らせる世界って楽しいじゃないですか!」

FROGMANはどこまでも、掟破りである。

平和のための世界征服!『秘密結社 鷹の爪』

世界征服という名の世界平和をたくらむ鷹の爪団vs.「オレには善も悪も関係ねぇ、カネだ!」とのたまうヒーロー・デラックスファイター。なんとも歪んだ勧善懲悪ものとして、『THE FROGMAN SHOW』(2006年/テレビ朝日系)の一篇として放送開始(シーズン1=上の写真)。

回を追うごとに人気となり、劇場版(テレビシリーズはNHKに移籍!)、コラボ作品(最新作JRAとのコラボ『秘密厩舎 馬の蹄(つめ)』など、メディアを横断して現在も続く一大シリーズとなっている。

メタを超えた笑い、掟破りのアイデア集

劇場版『秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE ~総統は二度死ぬ~』から右横にバジェットゲージなるものが用いられている。要は製作費がなくなると、ゲージが下がって効果音なども使えなくなるという、禁じ手に近い笑いをぶち込んできた。ここで劇中広告が登場するのだが、その商品もストーリーに大きく左右するというサービスっぷり。

また、『鷹の爪GO ~美しきエリエール消臭プラス~』など“ネーミングライツ”も行ったことも掟破りである。

何よりも大事なシノプシス制作

真面目に不真面目なアニメ『鷹の爪』シリーズの肝となるのは、シノプシスとシナリオだとFROGMANは語る。シナリオに入る前に写真のような構成案を練る。

それが決まったら、上の写真のようなキャラクター別の行動表を作り、下の写真のようにシナリオに起こす。「手書きの方がアイデアを書きつけやすくて、シナリオもだいぶ後年になるまで手書きで描いていました」(FROGMAN)

長く島根とのコラボが行われており、吉田君はしまねSuper大使となっている。

さまざまなグッズ展開も行われている。

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