前橋・高崎の気になるユニーク喫茶3店。古民家、蔵座敷、山小屋風……他では味わえぬ世界観に陶酔
前橋・高崎は特有の文化が根付く土地柄か、喫茶もユニーク。他では味わえぬ世界観のオンパレードで、あたたかな店主たちのもてなしもうれしい。日常が遠ざかり、気分はすっかり旅気分♪
日本茶喫茶・蔵のギャラリー 棗(にほんちゃきっさ くらのギャラリー なつめ)
妙に居心地のいい、めくるめくカオスな世界『柱時計』【前橋】
山小屋風の店に入ると声を失った。レトロ食器、抹茶茶碗、バンビや招き猫に古時計など、ありとあらゆる古道具がひしめき、天井を仰げば帯が錦糸の波のごとく泳いでいる。井上進児さんは空調設備の会社を営むかたわら、高齢で骨董屋を閉じる方から建物を引き継ぎ、念願の町の人たちが集まれる喫茶店を開業した。
「ここにあるものは、ご近所さんが持ってきたものばかり」。壊れているものも、手先が器用で機械いじりがお手のものの井上さんが丹念に修理し、息を吹き返す。ピンクの電話や黒電話も「使えますよ。鳴らしてみてください」と笑う。
メニューにも驚きが。かつて洋菓子店で修業し、腕によりをかけたケーキは本格派だし、牛肉とタマネギをたっぷり用いて煮込んだハヤシライスはまろやか。井上さんを交えた談笑が心楽しく、不思議な居心地のよさに包まれて、いつまでも居続けたくなる。
『柱時計』店舗詳細
柱時計
住所:群馬県前橋市滝窪町321-12/営業時間:12:00~21:00(夕方に早じまいあり)/定休日:月・火/アクセス:JR両毛線前橋駅から永井バス「荻窪公園」行き約25分の「小坂子」下車35分
西洋×和の織りなす古民家でひと休み『元総社 えんにち茶屋』【新前橋】
「総社神社のお参りの前後に3世代で立ち寄れる場所を作りたい」
取り壊し予定の大家さんを説き伏せたのは、近くで洋菓子店『ルイドール』を営む亭主の都丸渥司さんだ。かき氷が人気だが、洋菓子の技、和の素材を掛け合わせたモダンな季節の白あんみつは見逃せない。
手亡豆(てぼうまめ)の白餡(あん)に添えるのは、群馬県産の高橋牛乳を用いたミルク寒天や季節のフルーツなど。食前酒のように小さなグラスに入る特製の蜜は、夏のメロンなら種を、モモなら皮と種を煮出して香味を抽出。秋のイチヂクには、ベースの赤ワインに、柑橘の皮、シナモンを加え、かければ軽やかで華やいだ香りが際立つ。12月には県産イチゴのやよいひめも登場する。
神社の御神木から剥がれ落ちた木の皮で作った花生け、洋菓子店の常連からもらい受けたステンドグラスなど「いろんな人の縁で」形作られた設えにもほっこり。
『元総社 えんにち茶屋』店舗詳細
元総社 えんにち茶屋
住所:群馬県前橋市元総社町2375/営業時間:10:00~12:00LO・13:00~18:00/定休日:月/アクセス:JR上越線・両毛線新前橋駅から徒歩20分
堅牢なる蔵座敷でお茶の杯を重ねながら憩う『日本茶喫茶・蔵のギャラリー 棗(なつめ)』【高崎】
高崎・南銀座通りに構えるのは、明治20年(1887)築の蔵座敷。障子に記したメニューを目印に引き戸を開ければ、奥へ誘う通路がのび、靴を脱いでいざ蔵へ。中は畳敷きのまさに“座敷”だ。店主の平野昭子さんいわく「元は米屋」で、戦中以来使われなかったが、米を脱穀した水車の板を活用してカウンターを、2階に器や古い着物のリメイク作品を飾るギャラリーを設け、息を吹き返した。
いただけるのは、高崎『金子園』の掛川茶。煎茶、茎茶、芽茶、荒茶と部位で異なる風味を揃え、お茶請けと味わえば、お茶のまろみがふくらむ。高崎『九重ねぼけ堂』の上生菓子と味わうのもいい。ユニークなのが、日本茶も抹茶も、お代わりできるところ。茶釜から柄杓で湯を掬(すく)うセルフ式で、棗にお代わり分の抹茶が入り、自分のペースで茶が点(た)てられる。ゆったりのんびり茶を喫する恍惚(こうこつ)、たまらない。
『日本茶喫茶・蔵のギャラリー 棗』店舗詳細
日本茶喫茶・蔵のギャラリー 棗(にほんちゃきっさ くらのギャラリー なつめ)
住所:群馬県高崎市檜物町13/営業時間:11:00~18:00/定休日:月・火・水/アクセス:JR・私鉄高崎線高崎駅から徒歩12分
取材・文=林 さゆり 撮影=山出高士
『散歩の達人』2024年10月号より