代官山のまるごとサステナブル拠点。おしゃれなだけじゃない「店産店消」の本気度
あちこちに緑が生い茂り、森林浴の気分が味わえるこの施設がある場所は、東京・代官山。木の香りがするカフェの屋上には畑があり、ハーブが生い茂っています。2023年10月に始動した、カフェを拠点とした代官山サーキュラーコミュニティ「CIRTY(サーティー)」。地元の人も買い物に訪れる人も、さまざまな人たちが自然体でサステナビリティに関われるようにする仕掛けがいくつもありました。
東急東横線の代官山駅の改札を出ると目の前にある「CIRTY CAFE(サーティー カフェ)」。吹き抜けで開放的な店内には植物が配置され、大きな窓から日差しが降り注ぎます。
2023年10月、東急不動産が開業したForestgate Daikanyama(フォレストゲート代官山)の一角にある木造2階建ての建物「TENOHA代官山」に、カフェとイベントスペースの機能をもつ代官山サーキュラーコミュニティ「CIRTY」が誕生しました。
訪れる人も住む人も巻き込む
CIRTYとは、CIRCULAR(サーキュラー / 循環)や「CITY(都市)」「COMMUNITY(コミュニティ)」「2030年」などを組み合わせた造語。これらのキーワードが示すのはいずれもサステナブルな活動です。プラントベースのジェラートや屋上で採れたハーブを使ったドリンクをカフェで提供するほか、リアルイベントや情報発信の拠点にもなっています。
プロデュースを担当したRGB株式会社の代表取締役である八島智史さんは、こう話します。
「代官山は、渋谷などの大都市に比べて小規模でありながら、消費の感度が高い人たちが集まる街。フォレストゲート代官山にはレジデンスエリアもあるため、商業と生活が交じり合った環境でサーキュラーエコノミーを実践できると考えました」
企業の壁を超えて集まる
さらに、CIRTYでイベントや朝のワークショップを開くうちに八島さんは、サステナブルな活動をするために情報を求めているのは「若者」「感度の高い人」だけではないことに気づいたといいます。
「若い世代にとってはサステナビリティは日常に落とし込まれたものであり、当たり前のこととして淡々とやっていたり、より深く学ぶ機会を求めていたりします」
「一方、上の世代にとってはサステナビリティは新たに登場した概念なので、まず受け止めるところからスタートということも。企業でサステナビリティに関する取り組みが増えているのはとても良い傾向だと感じますが、担当者が気軽に相談できる先がまだ限られている印象があります」
サステナブルな活動は企業の中ではビジネス部門と切り分けて進められることが少なくなく、多くの担当者は社内で試行錯誤しながら進めているのが現状です。次世代に向けた新たな施策を進めるためにどうやって社内で合意をとっていくのかといった悩みは、企業の壁を超えて共通していました。
「サステナブルな活動をする人や、企業で取り組んでいる人が情報交換できる場所が東京で見当たりませんでした。そういう人が集まれる場所をつくりたいという思いも、ここに込めました」
人も知見も"循環"する
サーキュラーエコノミーを実践している企業の事例を知るCIRTYのイベントに2024年2月に参加した野呂采美さんは、その後RGBチームの一員になり、CIRTYのイベントの企画や運営を担当する側になりました。
「前の仕事の都合で青森に住んでいたときにサステナブルに関心を持ち、本を読んだりしていましたが、人とコミュニケーションをとる場所がほしくてイベントに参加してみました。社会のために自分にできることを考えている人が周りにいることがわかってとても刺激になり、こういう場所づくりをしたいと考えて応募しました」
イベントの参加者同士がつながったり、野呂さんのように運営側に回ったりと、人や知見が"循環"することもCIRTYの特徴だと、八島さんは言います。
「僕たちが『正しいサステナビリティ』を提供するのではなく、お店側もお客さんも分け隔てなく、お互いに等身大の取り組みを共有することを目指しています」
誰でも参加できる
代官山駅前というその立地から、サステナビリティに関心がなくてもCIRTY CAFEを訪れる人も多くいます。店内には、知識を得るきっかけをつくる仕掛けが散りばめられています。
例えば、カフェ2階に設置されたボックス「PASSTO(パスト)」。一見、ファストフード店の食器返却ボックスのようですが、来店客は「RECYCLE STAND」という文字を見て、その役割に気づきます。不要になった洋服やおもちゃ、牛乳パックを入れると、株式会社ECOMMITによって選別され、国内外でリユース品として再流通されるか、再資源化されるというもの。誰でも気軽に不用品を持ち込める仕組みです。
座席の周りにはサーキュラーエコノミーに関する本や掲示があり、気が向けば手に取ったり眺めたりできる程度のさりげなさを保っています。
「なるべく素の状態で、無理せずにやってみたいと思ってもらえるくらいのちょうどいい温度感を意識しています」と八島さんは話します。
廃棄物から生まれた電気を使用
CIRTYでは、外から見えにくい部分でも、サーキュラーエコノミーを徹底して実践しています。カフェで出た食品廃棄物は工場に運ばれてバイオマス発電に再利用され、フォレストゲート代官山で使用する電気に生まれ変わっています。そのメタン発酵の過程で出る残渣も堆肥として、カフェの屋上菜園や提携農家で使い、そこで栽培した野菜やハーブをカフェで提供しています。
「東京は街それぞれにカラーがあります。オフィス街といえば丸の内、スタートアップが集まる街といえば渋谷、といったイメージがありますが、サステナビリティを実践している街といえば代官山、と言われるようにしていきたい」
おしゃれにラッピングされたサステナビリティを超えて、生活と密着した街ぐるみの循環型社会に。CIRTYに集まる人たちの熱量も日々、高まっています。