作品世界にどっぷり浸かり、“ミュージカルの面白さ”を伝えたい──立石俊樹&小野田龍之介 ミュージカル「黒執事」~緑の魔女と人狼の森~インタビュー
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初演以来これまでに9作を上演、いずれも高い人気を誇ってきたミュージカル「黒執事」の最新作「緑の魔女と人狼の森」が動き出した! 現在アニメ放映中、作品ファンからも熱く支持されているエピソードの舞台化に期待が高まっている。そんな“緑の魔女編”に向け、「悪魔で執事」のセバスチャン・ミカエリスを演じる立石俊樹と、本作で重要な役割を果たすヴォルフラム・ゲルツァー役の小野田龍之介の対談が実現。「『黒執事』はミュージカルにピッタリ」というふたりの、作品への思いを聞いた。
──立石さんは今回が3回目のミュージカル「黒執事」になります。
立石 ミュージカル「黒執事」は憧れの作品だったので、2021年に「寄宿学校の秘密」でお声掛けいただいたときは、本当に嬉しかったです。ただ、当時は初めての座長でもありましたし、役へのアプローチの難しさもあって……最初はやはり大変でした。自分の中では相当なプレッシャーと戦いながらの挑戦でした。だからこそ思い入れもすごくあって、あれから3年半空いて去年の再演、そして今回はさらに新作に挑めるっていうのはまたまたすごく嬉しいです! さらに小野田さんをはじめ新たなキャストのみなさんも素晴らしい方々ばかりですし、演出の毛利(亘宏)さん、音楽の和田(俊輔)さんと、これまでのミュージカル「黒執事」を創ってきたクリエイターのおふたりも戻ってこられて。いろんな状況の中でまた気持ちを新たにしています。僕自身も本当に楽しみです。
──ではこの5年間、セバスチャンというキャラクターは……
立石 もちろん常にどこかにありますよね。前回も「終わっちゃうのが寂しいな」という気持ちになっていたし、他の作品をやっていてもふとセバスチャンが頭をよぎることがあって。それってやっぱり今でも全然掴みきれてはいないし、まだまだ内容的に深掘りしなきゃいけないところ、スキルとして伸ばしていかなきゃいけないところがたくさんある役だから。本当に時折頭によぎってはビシッとなるというか(笑)、難しさプラスやりがい、ずっと目標のひとつになっているキャラクターなんです。
──小野田さんは今作が「黒執事」初参加。
小野田 僕はかつての「黒執事」を拝見してるんです。松下優也さんがセバスチャンをやっていたときですね。当時自分は原作の知識がほとんどなかったけれど、全く見遅れすることもなかったですし、ちょっと大人な世界観の雰囲気も持ちつつすごく作家性も感じられて「エネルギーがある作品だな」「面白いな」って感じた記憶があります。そう思った作品にこうして時を経て自分が携わらせていただく。演出の毛利さんと音楽の和田さんがカムバックするタイミングの作品ということで、おそらくシリーズ的にもまたひとつ大きな節目になるところで呼んでいただいたのは嬉しいですし、非常に光栄です。準備稿を読んでもミュージカルとして、特に2.5次元というくくりだからこそできる表現みたいなものもたくさん組み込まれていそうで、これはもう大いに楽しんで、この世界に僕もどっぷり浸かっていきたいなと思っています。
──キャスト発表で小野田さんのお名前を見た時はちょっと意外でした。もちろん、嬉しい意味で。
立石 僕もびっくりしました! おそらく誰もがそう思ったんじゃないかなぁ。
小野田 「びっくりした」「予想外」っていう反応は嬉しいですねぇ。ま、大人世代の役ですし、あとここ、ほら、もみあげがありますから。大人の男性でもみあげといえば僕、という定評があるので。
立石 ……ジャベール??
小野田 (笑)。今回はもみあげキャスティングの“緑執事”です。
立石 いいですね、緑執事!
──ヴォルフラムは森深くに暮らす緑の魔女・サリヴァン(Claraさん)に仕える無骨な印象の執事です。キャラクターに対するイメージは?
小野田 結構自分に合ってるんじゃないのかなって思ってるんですよね。僕、自分でも他人に対してドライなほうだと思っているんですが、その奥には当然、本当の小野田が持っている情的なもの、優しさがありまして……ヴォルフラムもそうでしょう? 一見無骨、本当の心の芯にある優しさのようなところは奥深くに隠して執事という立場で自分を律して生きている。もう、そんなところも全く一緒(笑)。まるで小野田を表現しているような役だなと思ってシンパシーを感じてます。だからびっくりしただけじゃなく、「予想外だったけどすごく合ってるね」とも言われと、それもまたすごく嬉しい。特に原作を知っている方からそう言ってもらえるのは嬉しいです。
──サリヴァンとのバランスもイメージ通りのビジュアルでした。
小野田 サリヴァン役のClaraちゃんはまだそんなに舞台経験がないと伺っているので、多分稽古中もいろんな課題が出てくるんだとは思います。そういうとき、共演者としてはもちろん、一番身近で接していくのは僕なんだと思うので、支えてあげられることもあるでしょうし、もしかしたら自然に僕をヴォルフラムにしてくれるのはClaraちゃんかもしれないなって。あと“ミュージカル大好きおじさん”としては、やっぱり彼女が今回この作品に携わったことでミュージカルがもっと好きになったなとか、もっといろんな演目に出会いたいなって思ってもらえるような…そんな、ね、相手役ではないけれど、良きチームメイトでいたいと思っています。
──立石さんは今回のエピソードでのセバスチャン、どんなイメージを抱いていますか?
立石 今回、より悪魔感が出てくるシーンがたくさんあるんですよね。それこそセバスチャンとシエルの一番最初の契約のシーンとか、ふたりの関係の原点も思い出されますし、そういう中でセバスチャンとシエル、サリヴァンとヴォルフラムという2組の主従関係っていうのも対照的で比較しやすくて面白いなと思っています。すごく情に厚いヴォルフラムと、本当に冷徹というか悪魔そのものという印象のセバスチャン。自分もそこで今までになかったものも出せるというか、今まで以上に「悪魔である」というところを意識していこうと考えています。
──本当にふたりは正反対の執事ですよね。
小野田 そう。不器用なヴォルフラムにはなんでもスマートにこなしちゃうセバスは……
立石 ちょっとジェラシーですか?
小野田 そう、きっとそう。小野田も本当に稽古中に立石くんのこと嫌いにならないようにしないと(笑)。
立石 ハハハッ(笑)。むしろセバスチャンとしては嫌われるように頑張りたいです。
小野田 うんうん。やっぱり僕らからしたらセバスチャンやシエルたちはずーっと引っかかる存在なわけですから、こちらもそこに対する意識というのは切らさないでいたいなとは思いますね。
立石 あと、僕としてはセバスチャンの身なりや佇まい、立ち姿の所作っていうのもすごく意識しているんですが、いつかそれを無意識に……頭で考えることをとっぱらって、気づけばそう動いていた、伝えたいものを反射的に伝えられるようになっていた、というところまで辿り着きたいです。
──“緑の魔女編”はミステリーでありファンタジーでありオカルト要素もあるダークなストーリー展開が非常に巧みで、『黒執事』の面白さがギュッと詰まっているエピソードです。おふたりはどんなところにこの物語の面白さを感じているのでしょうか。
立石 題名からぐっと引き込まれてワクワクしたんですが……魔法のお話かと思いきや、結局は人の思いだったり、とてもわがままで身勝手だったりという人間のエゴが発端となる物語なんですよね。なんかすごくくだらないことで大げさに生きてしまっている人間たちの姿、彼らの汚い部分を悪魔の目線から拾い上げていってる。やっぱりそこが『黒執事』の魅力だなぁと感じています。人間だけじゃわからない、悪魔がいる、セバスチャンがいるからこそ炙り出されるものがあるというか…だから僕も時々自分に返ってくるような気にもなるし、「気をつけよう」って思いますよ(笑)。セバスチャンはそれを全部楽しんでますけどね、この状況、このシエルとの関係を。ただ、サリヴァンに対しての感情はちょっと謎かも。彼女を救いたいのか利用したいのか。どちらにしてもセバスチャンと言えどそこは無感情ではないはず。うん、やっぱり掘っていくとどんどんいろんなものが出てくるのがセバスチャンだなと思い知らされますね。
小野田 僕も“緑の魔女編”はミステリアスでちょっとマジカルな内容を想像していましたが、これはちょっとそれだけじゃなかったぞ、という面白さがありました。物語のスピード感と相まって、見ている側の心をどんどん掴んで離さない感じもいい。話が進むごとに魔女とか悪魔じゃなく「人間の心の話」になっていくところが非常に魅力的ですし、そこが『黒執事』という作品の魅力だとも思うんだけど、この“緑の魔女編”はその要素がふんだんに詰まっているんですよ! ヴァルフラムも最後の最後まで全てを隠して職務を全うしようとするんだけど、物語が動き、多分本当に心がそう思ってしまった……心が動いたから、最後はああいう行動に出たわけで。
立石 僕、めっちゃ好きです、ヴォルフラムの生き様。
小野田 ホントのホントは情が熱い男。物語を知った上で最初から見ていると、やっぱりどんなやり取りでもちょっとぐっときちゃう。サリヴァンと接するヴォルフラムの一言一言にキュッて胸を掴まれるような思いになります。なんか……本当に品があるし、ミステリアスだし、わくわくさせるし、『黒執事』ってミュージカルにしがいのある要素しか詰まってないですよね。それぞれのキャラクターが生き様として主張したいこととかがすごく劇的に表現されていて。「もしかしたらこのミュージカルが漫画になったんじゃないか」って思えるくらい、生身の人間が演じても非常に面白い世界。
立石 そう、ドラマチックですよね。僕は舞台の良さってその日その日の生の感情を伝えられるところだと思ってるんですけど、原作がこうやって人間の感情をしっかりと描いているので、それを伝えるにはやはり舞台という表現、ミュージカルという手法はすごく向いていると思う。この世界観がもうどこを切り取っても映ってるもの全てにセンスがあって、おしゃれで、日本にはないものばかりというのもまたすごく非現実を味わえるし。
小野田 非現実的だけど、同時にこちらに通ずるものを強く感じることもできて、すんなり物語に入っていける面白さが強烈。一般のミュージカルと2.5次元ミュージカル、自分としては表現についてそこまでギアを変えるという意識はないんですけど、原作のある作品はやっぱり原作ファンの方々が観たときに「ミュージカルって面白いんだな」「演劇って面白い」って思ってもらえるよう、ちゃんと質の高いものを作りたいっていう気合はね、ちょっと多めに入るかもしれないです。あとやっぱり漫画原作の作品ならではの面白さってあって、普通に表現したらちょっとこっ恥ずかしいかもしれない表現でも、キャラクターがいて、2.5次元っていう括りがあるからこそこちらも堂々とできちゃうし、実はそこにみんな心を持ってかれる、みたいな面白さが。漫画だけじゃ感じられなかったそのキャラクターや漫画自体の魅力みたいなものも、演劇というフィルターを通して改めてみなさまに感じていただけたらいいのかな、とは思います。だから嘘をつくときは大胆に嘘をつく……“お芝居の嘘”をね。その大胆さっていうものが「真実」を生み出し、「人間が演じてよかったな」って思えるものになると思うので。
──“ミュージカルの楽しさ”を広げてくれるのもミュージカル「黒執事」の魅力。森の奥で繰り広げられる想像を超えた“魔女の物語”。その世界が目の前に立ち上がる瞬間、楽しみです!
小野田 僕らの“緑の魔女編”、ぜひひとつの演劇、ひとつのミュージカルとして楽しんでもらえたら嬉しいですし、これまで「黒執事」を愛してご覧くださっている方にも、今回の「黒執事」はまた一味も二味も違うなと思っていただけるようにね、みんなで作っていきたいと思いますので、ぜひ劇場に足をお運びください。
立石 ミュージカル「黒執事」、本当にいいので……まだ稽古もしてないんですけど(笑)、新しい演出、音楽、そして新キャストのもとの新作公演、絶対に最高です。原作の世界を僕らの歌や身体表現で広げて膨らませて…すごくいい時間を体験できると思いますし、劇中の人々の想いや感情に共感したり、重ね合わせたりできる瞬間もたくさんあると思います。もちろん、予習なしのノー知識で観てもらっても絶対楽しめますからね。
小野田 (頷く)
立石 僕は、自分がミュージカルに出演して初めて「こんな世界があったんだ!」と舞台の魅力を知った人間なので、先ほど小野田さんが言ってくださったこともすごくよくわかるし、本当に、グランドミュージカルも2.5次元作品も分け隔てなく「こういう世界もあるんだよ」って、まだ知らない人にももっともっと知って欲しいなと思っているんです。自分自身、そうやって自分の世界が豊かになってきたという経験をみなさんにも体験していただけたらいいですね。
小野田 うんうん。ミュージカル大好きおじさんとしては、そのあたりも常に広く啓蒙していきたいと思っております(笑)。
立石 はい! よろしくお願いいたします。
取材・文=横澤由香 撮影=大塚浩史(DOUBLE SQUEEZE Inc.)
【立石俊樹】
ヘアメイク:中元美佳
スタイリスト:MASAYA(PLY)
【小野田龍之介】
ヘアメイク:池田ユリ(eclat)
スタイリスト:津野真吾(impiger)
衣装協力:HARE