「赤月に浮かぶ黒い影の正体とは?」 夜の磯釣りで体験したちょっと怖い話
福井の海へ向かう毎年恒例の5月のエギング。と同時に思い出す遠いあの日……その夜はいつもと違っていた。生ぬるい湿気を帯びた、背筋を這うような風、そして赤く染まった満月。あの黒い影を目にするまでは、ただの不気味な夜だと思っていた……。
真っ暗な磯でエギング釣行
その日は雲に覆われ、街明かりもない、いつもなら居るはずの遠方のイカ釣り漁船も何故か少ない真っ暗な磯。足元は40cm四方の限られたスペース。見えない海の音だけがやけに近く聞こえ、不安と緊張がじわじわと肌に染み込んでくるようなそんな夜でした。
赤い満月
本来なら薄手のダウン等を着ている季節ですが、その夜は湿った生ぬるい空気がまとわりつき、不気味な熱気と共に「振り返りたくない」という謎の恐怖が背後にまとわりついていました。
時刻は午前3時ごろ。急にひやりとした風が吹き始め、雲の切れ間から赤い満月が姿を見せ始めました。赤い月明かりは海面を照らし不気味さは更に増す。ただ月明かりのおかげで足元が見えるようになり、わずかな安堵を得たのも束の間でした。
見てはいけない何か
視界の左端——ふと、海面10mほど先に、妙な違和感を覚えたんです。何かが、そこに「在る」気がした。音も動きもないのに、肌の内側を這うような気配だけが……。意識はそこに向かって引っ張られている。理屈では説明できない、あの奇妙な感覚。
脳が「見てはいけない」と警鐘を鳴らすのに、釣れていない焦りと、自分に言い聞かせた“気のせい”が、それをかき消していく。気づけば、私はじわじわと視界に入るよう首を向けていました。そして月明かりで照らされたアレを見たんです。
海に浮かぶ黒く丸いモノ
海面から、黒く、丸い何かが、静かに——波間からまるで呼吸をしているかのように——半分だけ姿をのぞかせている。それは何の音も立てず、まったく揺れもせず、ただそこに「浮かんでいる」。
あまりの不気味さに、無意識に目を逸らしました。鼓動は耳の奥で鈍く響き、手のひらは湿ってきます。「あれは人?それとも……?」と頭の中がぐるぐる。でも潮が引くまでは帰れない。
ただのブイに安心
帰りたいけど帰れない、恐怖でガクガクしながらも もう一度確認する決心をし、今度はライトで照らし見てみると——それは、ただの黒いブイでした。(笑)
腰が抜けそうになりましたが、崩れ落ちたら海。必死で踏ん張りながら、「んだぁ!……」と虚勢を張りつつ胸をなで下ろしました。気づけば空は少しずつ明るくなり、夜明けは近づいていました。釣果はゼロ。でも、違う意味で忘れられない一夜となりました(笑)。
<刀根秀行/TSURINEWSライター>