尾上松也、瀧内公美、段田安則らが織田作之助の『夫婦善哉』をモチーフにした予測不能な新作戯曲に会した見逃せない芝居 『 夫婦パラダイス~街の灯はそこに~ 』
日本文学のレジェンドたちやその名作へのリスペクトを込め、オリジナル戯曲を創作する北村想作、寺十吾演出による「日本文学シアター」シリーズ。これまで、2013年の太宰治『グッドバイ』(北村想は鶴屋南北戯曲賞受賞)を皮切りに、15年の夏目漱石『草枕』(小泉今日子に初の演劇賞となる紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞をもたらした)、16年の大衆演劇の巨星長谷川伸『沓掛時次郎』、17年の安達ケ原の鬼婆伝説をベースにした能『黒塚』、18年の江戸川乱歩『お蘭、登場』、19年の坂口安吾『風博士』と、日本文学の世界をモチーフに、斬新な発想を加えた新作として上演し、人気を集めてきた。和歌の技法に、有名な古歌の1句もしくは2句を取り入れて作歌をおこなう「本歌取り」があるが、まさに現代戯曲における「本歌取り」とも言えるアプローチで北村想独自の世界観を創り上げている。そして、北村想の世界観を熟知した寺十吾が全作の演出を手がけてきた。
シリーズ第7弾となる今回、オマージュを捧げるレジェンドは〝織田作(おださく)〟の愛称で親しまれた、戦後、太宰治、坂口安吾、石川淳らと共に無頼派、新戯作派と呼ばれる作家「織田作之助」。出身地である大阪に思い入れがあり、その作品には大阪の庶民の暮らしが活写されている。
出世作となった『夫婦善哉』をはじめ、『わが町』(『佐渡島他吉の生涯』として舞台化もされている)、『蛍』(『蛍火』のタイトルで映像化、舞台化)など短編小説が映像化、舞台化されている。特に、1955年に豊田四郎監督、森繁久彌と淡島千景の名コンビで映画化された『夫婦善哉』は、大店のドラ息子・柳吉と、しっかり者の芸者・蝶子の愛情を〝なにわ〟情緒豊かに、かつユーモラスに描き、ブルーリボン賞で監督賞、主演男優賞、主演女優賞に輝き、小説を読んでいない人たちにも〝織田作〟の名は一躍知られるところとなった。
今作は、その『夫婦善哉』をモチーフに、関西弁特有のテンポで、大阪ならではの世界を生き生きと描き出す。まずは『夫婦善哉』の主人公と思しき駆け落ちカップルの柳吉と蝶子の登場からはじまる。柳吉には歌舞伎をはじめストレートプレイからミュージカルまで幅広いジャンルの舞台に立ち、映画、テレビドラマの映像作品でも変幻自在に役柄を演じ分けて見せる尾上松也が、蝶子を、現在放送中の大河ドラマ「光る君へ」や、キネマ旬報ベスト・テンで主演女優賞を受賞した『火口のふたり』をはじめ『彼女の人生は間違いじゃない』『由宇子の天秤』などの映画といった映像作品でも観る者に確かな印象を植えつけ、『イントゥ・ザ・ウッズ』『夜叉ケ池』など舞台にも積極的に出演している瀧内公美という顔合わせが実現。さらに、鈴木浩介、福地桃子、高田聖子、そして「日本文学シアター」シリーズでは、『グッドバイ』、『草枕』、『沓掛時次郎』、『風博士』に出演し、今の演劇界において、この人の芝居ならなんでも観てみたいと思わせてくれている段田安則と、芝居のかけあいが楽しみなメンバーがそろった。
かつて『オダサク、わが友』という戯曲を発表し、「オダサク」と彼を取り巻く人々の姿を、虚実からめた物語展開で描き出し、織田作之助への並々ならぬ思いをみせてくれた北村想。今回の「日本文学シアター」で、「オダサク」へのいかなるアプローチをはかったのか、ぜひとも目撃者になりたいものだ。
シス・カンパニー公演
日本文学シアターVol.7【織田作之助】
夫婦パラダイス~街の灯はそこに~
作:北村想(きたむら そう)
演出:寺十吾(じつなし さとる)
出演:尾上松也 瀧内公美 鈴木浩介 福地桃子 高田聖子 段田安則
<東京公演>
〔公演日程〕9月6日(金)~9月19日(木)
〔会場〕紀伊國屋ホール
<愛知公演>
〔公演日程〕9月22日(日・祝)~9月23日(月・祝)
〔会場〕穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
<大阪公演>
〔公演日程〕9月26日(木)~9月27日(金)
〔会場〕森ノ宮ピロティホール
〔問〕シス・カンパニー03-5423-5906(平日11:00~19:00 土日祝休業)