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「にわかファン」でいいんだよ。マウントしないでくれ

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「にわかファン」でいいんだよ。マウントしないでくれ

セ界が激震した。

全ベイが泣いた。


横浜DeNAベイスターズ、26年ぶりの悲願の日本一、ほんとうにほんとうにおめでとうございます。

強敵相手に圧勝の姿、しかと目に焼き付けました。


大衆居酒屋に着弾

日本シリーズ最初の2戦を逃しながらも、相手の本拠地で劇的な連勝を続けハマスタに戻ってきたベイ戦士たち。その相手も、ソフトバンクである。


CS以降の快進撃に、

まじか?こんなに強かったのかベイスターズ!?

誰もがそう思っただろう。


ハマスタで日本シリーズが終結する。こりゃ、チケットなんて取れないけど、横浜の地で日本一が決まるんなら、騒ぎたい。せっかくこの夏、わたしは神奈川県民になったんだ。

ベイスターズファンという共通項だけで盛り上がれる人とハイタッチしまくりたい。

とりあえず、あてもなくハマスタまで行くか?でも帰りの電車なんてとんでもないことになりそうだ。

どうしよう?


とかなり悩んだ結果、ベイスターズファンの友人と横浜市内でテレビ観戦できる居酒屋を予約し、テレビを見やすい席に無事着弾した。

「テレビを見やすい席をお願いします」

と予約時に付け加えておいたのだ。


もちろんユニフォーム、タオル、帽子の3点セットは欠かせない。

店内でユニフォームまで決め込んでいたのはわたしと友人の2人だけだったけれど。

そんなこと関係ない。気にしたら負けだ。


美女2人組との不思議な出会い

さて着席すると、左隣にいかにも野球好きなご夫婦が座っておられた。

お互いの格好を見て、即野球談義に入る。こういう居酒屋はいいね。大好きだ。


ご主人は長らくのベイスターズファン、奥様はタイガースファンとのこと。

今シーズンのご夫婦の様子が目に浮かんで楽しかった。喧嘩してそう。


そして私たちより遅れて、右隣に若い美女2人組が着席した。

わたしの隣に座った方の美女(名前をSちゃんと後に知った)がわたしたちのユニフォーム姿を見て声をかけてくれた。

「今日、ここで野球見られるんですか?」と。


「そのはずだよー」

「えー、よかったです!!実は私、帽子持ってきたんですけど・・・被っても大丈夫ですかね?」

「当たり前やーん、わたしたちなんかユニフォームやで!せっかくなら被って応援して楽しまな損やで!」


ということで、美女はカバンからベイスターズの帽子を取り出して無事装着した。

もうひとりの美女は、すでにタオルを首にかけて臨戦態勢である。


「いつトイレに行ったらいいんですか!?」

試合は、ベイスターズファンからすればドラマチックなものだった。

Sちゃんのテンションは試合開始直後から全開である。


ソフトバンク攻撃のイニングになると、ベイスターズがワンアウト取るごとに嬉しさで目を潤ませる勢いだ。

相手の打球が外野に飛ぶだけでも「はっ!」と声を上げてしまう。

初回からそれだと、9回まで持たないよ・・・と心配になるくらいだ。


野球を長く見ている人だと「あ、これファウルやな」とか、「フライでよく打ち取った、先発は調子よさそうやな」とか思うようになる。

それに、トイレはイニング間に「今のうちに行っとこ」とか思うし、わたしなんかは実際そうするのだけど、Sちゃんは

「どうしよう、トイレ行きたいけど今行って大丈夫かなあ」

と言い続け、実際タイミングを合わせられずにトイレに行っている間にベイスターズが得点してしまう、というシーンもあった。


ベイスターズ打線に火がつき、ソフトバンクとの点差がどんどん広がっていく。

しかし5点の差がついても、

「まだ分からないからトイレ行けません!」

という緊張ぶりだ。


もうひとりの美女は慣れている。わたしと一緒に

「トイレ行くなら今だよ!」

とSちゃんにアドバイスし続けた。Sちゃんも、試合の中盤以降は要領がわかってきたようだ。


そして最終的には11-2という、2桁得点でのベイスターズの圧勝。

試合が終わって緊張が一気に解けたSちゃんは、涙を流していた。


かわいいなあ。わたしはそう思いながらSちゃんの顔を見ていた。

なんだか、いいなあ。自分はだいぶスレちゃったもんだ。


きっかけなんて、何でもいい

わたしがSちゃんの姿にしみじみしたのにはさらに理由がある。

聞けばSちゃんは、プロ野球を見るようになったのは最近のことだというのだ。


日本シリーズのスタメンでも、全員の選手の名前を知っているわけではなく

「あ、この人なんていう名前ですか?さっきから気になってるんです!」

「桑原だよ。CS以降めちゃくちゃ調子上げて活躍してる。守備もすごいんだよね」

「そうなんですね!私きょう、桑原選手のこと好きになりました!」

といった感じだ。


「野球のルールもまだ分からないこともあるし、ニワカなんですけどね・・・」

とSちゃんは言うが、

んなこたあ関係ないんだよ。これから知っていけばいいんだよ。

ところで、ベイスターズファンになったきっかけは?

それを聞くと意外な答えが返ってきた。


「わたし、そろそろ何か趣味を持ちたいなと思ってたんです。

でも何をやっていいかわからなくて」。


そして隣の美女を指し、

「この友達がベイスターズファンっていうのと、横浜に住んでるし、

それで見てみようかなと思って。」


なんて素敵なことなんだろう。

彼女は自分の生活を客観視し、自分に足りていないものを自ら見つけ、日々を楽しめるよう自分で自分の生活をデザインしているのである。


そしてベイスターズを応援するという趣味が、きちんと彼女の中に根付いたのである。勝利に涙を流すくらいに。

何かに熱中することの動機なんて何でもいいし、誰だって最初はニワカだ。


人の趣味を聞いて、自分もやってみたいとか口先だけで言いながら、でも結局やらない理由を探して行動に移さない人はごまんといる。

そんな人生より、はるかにいいじゃないか。

わたしとしても、ベイスターズを応援する仲間が増えてありがたい限りである。


そして最初にわたしたちの左側に座っていたご夫婦も一旦帰宅したはずが、ゲーム終盤になって店に戻ってきていた。

ご主人は前回の日本一を知っている世代だ。


そんなご主人とSちゃんがずっと話し込んでいる姿もまたほっこりするものだった。

共通の趣味は世代を超える。それが「趣味」のいいところだ。


ジジイのマウントが仲間を減らす馬鹿馬鹿しさ

でも残念なことに、まだ世の中には「ニワカ潰し」がいっぱいいる。

音楽の領域にも存在する。


特にジャズの世界である。

もちろん、ほぼあらゆるジャンルの音楽に理論というのはあるのだが、ジャズ理論は特に小難しいと感じている楽器好きは多い。


わたしなんか音楽理論そのものを大して知らないまま楽器をやっているひとりなのだが、ジャズというものが嫌いなわけではない。

実際よく聴いているし、好きなジャズミュージシャンも何人もいる。


しかし困るのは、アマチュアのジャズ界隈にいる特定の人たちの存在である。

ジャズセッションというのはあちこちで開かれていて、ジャズ好きがおのおのの楽器を持ち寄って、知らない仲間どうしがその場限りのバンドみたいになって自由に楽しむ場所だ。


しかし、時々やっかいな老害がいたりする。

初心者に対してダメ出しをする輩がいるのだ。


「めんどくさいジャズジジイ」と呼ばれる人たちである。

そもそもセッションというのは、初心者から上級者まで広く集まって、特に初心者にとっては人前で演奏をしてみたいという気持ちを、勇気を持って発揮しにいく場所である。

でも、知らない者どうし「音で会話する」っていう世界を楽しもうね、っていうのが基本的なコンセプトだ。


本来なら「他人と一緒に演奏することの楽しさ」を得る場所のはずなのだが、「めんどくさいジャズジジイ」は、

「今のソロフレーズは、コード理論的にこの音を使った方がいい」だとか「君それはジャズではないよ」だとか初心者にイチャモンをつけてくるのだ。


ジャズが好きという若い初心者が勇気を持って呼び込んだ場所でめちゃくちゃ緊張しながら自分なりに精一杯やって、そんなダメ出しを喰らったらどうなるか?

多くの初心者にとってはトラウマしか残らないだろう。


少なくとも、そんなジジイどもとは二度と演奏したくない。

レッスンを受けに行っているのではないのだから。

もちろん、プロ志向があればそれをきっかけに勉強するかもしれない。


しかしそれだったら、ちゃんとした師匠を探しにいく。そこで悔しさを乗り越え鍛えようと決心することだろう。

しかし、趣味として始めてみてステップアップのために来た初心者にとっちゃ、ジャズを「面倒臭いもの」と感じて嫌う要素にしかならない。


そもそもあなたたちはジャズのファンなんでしょ?

だったら同じことを好きになってくれる仲間を増やしたくはないのか?


わたしからすれば、そこがさっぱりわからないのである。

だいたい、ジジイのマウント取りなんて、仲間になってくれそうな人を自分で減らしてるだけなんだよ、いい加減気づけ。

***


【プロフィール】

著者:清水 沙矢香

北九州市出身。京都大学理学部卒業後、TBSでおもに報道記者として社会部・経済部で勤務、その後フリー。
かたわらでサックスプレイヤー。バンドや自ら率いるユニット、ソロなどで活動。ほかには酒と横浜DeNAベイスターズが好き。

Twitter:@M6Sayaka

Facebook:https://www.facebook.com/shimizu.sayaka/

Photo:shi.k

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