元タウン記者・杉村さんが語る 能登半島のその時と今
元・戸塚区編集室所属のタウン記者で、現在は地元の石川県金沢市で家族と暮らす杉村一馬さん(36)。現地の被害状況や人々の生活、そして震災を経て今、伝えたいこととは――。
一瞬で変わった町の姿
昨年、実家のある石川県かほく市に帰省していた杉村さん。「午後1時頃に近所の神社に初詣に行き、妻と娘とショッピングモールでお笑い芸人のショーを見ていました」。すると突然、激しく長い揺れに襲われた。
「幸い実家は無事でした。テレビやラジオでは何度も『逃げてください』と半ば絶叫していて怖かったです」。恐怖心をあおられたという。
余震が落ち着いた午後8時頃、父と町の様子を見るため外へ。地割れや液状化が見られ、左右で明らかに高さが違う場所もあった。初詣に訪れた神社は、垣根が倒壊し「ショックでした。数時間前に来た場所がこんなことに……」と精神的なダメージも大きかった。
コミュニティの喪失
昨年2月には、ボランティア活動のため県北西部の志賀町へ。動かせなくなった家具の間で寝起きする人もおり、倒れたり壊れたりした家具を外へ運ぶ作業に尽力した。「被害状況は北に進むほど倒壊した家屋が増えていき、道も悪くなっていった」と振り返る。
さらに「地域のコミュニティがなくなることも大きな被害」という。初詣に訪れた神社は、祭りも中止を余儀なくされた。コロナ禍を経て一昨年、ようやく再開したばかりだった。「祭りがなくなれば、地元の人が集まって伝統を楽しむ一体感も失われる」。災害によって失われてしまった住民同士のつながりは、一朝一夕には戻らない。目には見えない被害も多くあるのが実情だ。
1年経った今も、建設や整備業者が立ち代わり作業にあたる。「被害が大きかった奥能登は県の中心から距離が遠く、集落同士も離れている。これが復興の遅れに影響しているのでは」と話す。
「”里山里海”の魅力も知って」
「『能登はまだ行っちゃいけない』というイメージがあると思う。でも、安心して観光に来てほしい」と杉村さん。発災当時はボランティアの受け入れにも制限があったが、現在は観光地の情報公開もされており、安全に楽しめるという。
杉村さんは能登の魅力について「世界農業遺産認定の『里山里海』。美しい自然と人々の暮らしが融合した、素晴らしい景色や伝統がたくさんある」と目を輝かせる。
復興が思うように進みづらい現状はあるものの、杉村さんは「被災地は被災地のままになってしまいがち。けれどやはり、現地のことは行かないとわからない。ぜひ一度、足を運んで能登の魅力を知ってください」と語った。