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【あんぱん】時代的には模範的なのぶ(今田美桜)が見逃したものと、遅すぎる嵩(北村匠海)

毎日が発見ネット

【あんぱん】時代的には模範的なのぶ(今田美桜)が見逃したものと、遅すぎる嵩(北村匠海)

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「嵩とのぶの対比」について。あなたはどのように観ましたか?



※本記事にはネタバレが含まれています。



国民的アニメ『アンパンマン』の原作者で漫画家・やなせたかしと妻・小松暢をモデルとし、中園ミホが脚本を、今田美桜が主演を務める朝ドラ『あんぱん』第9週「絶望の隣は希望」が放送された。


「遅すぎる・間に合わない嵩(北村匠海)」と「速すぎていろいろ見損なうのぶ(今田)」の対比が際立った今週。



史実では暢が最初の夫と死別後に出会ったやなせと再婚しているが、ドラマでは主人公・のぶと嵩を幼馴染設定にしたことで、再婚だった史実をどうするのかは気になる点だった。



のぶは史実通り結婚する。相手は一等機関士の次郎(中島歩)で、見合いしたのも父・結太郎(加瀬亮)との縁で、まだ結婚を考えていないのぶの心の荷を軽くしてくれる言葉をくれた。さらに、「終わらん戦争はありません。その時、世の中はすっかり変わってしまうかもしれん。それを見越して、今のうちから夢を持つがです」と言い、かつて結太郎がくれた言葉と同じ言葉を次郎が言ったことが決め手となる。これは反感を買いにくい巧みな落とし所だ。



「ゆっくり考えればえいです。のぶさんは足が速いき、すぐ追いつきます」



のぶの祝言が決まった頃、嵩は卒業制作を仕上げたらのぶに自分の気持ちを伝えようと、作業に没頭していた。そんな折、「チチキトク」の報せが届き、嵩は徹夜で絵を描き上げ、御免与町の寛(竹野内豊)のもとへと急ぐが、間に合わなかった。



たくさん泣きすぎて憔悴し、ヨレヨレになって、それを怒りのエネルギーに変えて立ちあがろうとする千代子を演じる戸田菜穂の芝居が絶品だ。また、その怒りに共感し、自身も早く亡くなった夫・結太郎に「ずーーーっと怒っちょるがです」と大きな声でキッパリ言い、千代子の背中を押す羽多子(江口のりこ)。そのシスターフッドも良いが、寄り添いをお涙頂戴にせず、そっと優しい笑いを添える江口の芝居がまた素晴らしい。



一方、嵩は「もっと早く帰ってればおじさんに会えたんだ」「変な意地を張って、おじさんのこと一度もお父さんて呼べなかった」と後悔を口にする。そんな崇に寄り添い、そっとあんぱんを差し出すのぶ。嵩はのぶに思いを伝えようとするが、やはり言葉を飲み込み、東京へ戻ることに。



しかも、帰り際、朝田家の前で次郎と会い、のぶが次郎と結婚することを知る。嵩はのぶに精一杯の笑顔を向けるが、意気消沈。そこで草吉(阿部サダヲ)は「また線路に行くか?」と、かつて嵩が母のことで落ち込んだ際に線路に寝たお騒がせぶりをネタにする。



「大丈夫ですよ。絶望の隣は希望」「おじさんの言葉を信じて生きていく」と嵩は言い、そこでさらに「ホントの絶望はこんなもんじゃないよ」「絶望の隣は絶望の2丁目かもな」と、さらに追い討ちをかける。一見ずいぶん無神経なイジリだが、これは繊細な嵩の性格を深く理解してのこと。腫れ物にしないほうが傷を1人抱え込まずに済むこともある。それがわかるのは、草吉自身にずっと抱えている痛みがあるからだ。



朝田パンに、軍に納める乾パンの注文が入り、釜次(吉田鋼太郎)達は沸き立つが、草吉は拒絶する。その頑なさが理解できない釜次とのぶ。蘭子(河合優実)だけはわかる気がすると言うが、のぶはそんな蘭子に、今はみんなが兵隊さん達のためにできることをすべきと説き、2人は衝突。



羽多子は草吉に無理強いはできないと言い、依頼を断ることにするが、朝田パンが陸軍に逆らったという噂が広がってしまう。



釜次は最初は暴力的に、そこから土下座の必死さで、草吉に乾パンを焼いてほしいと頼み込む。単なる使用人ではなく、店を支える職人の草吉に対し、やたらとあたりが強い朝田家だが、今回だけは釜次が草吉への敬意を示す。



乾パンだけは焼きたくないと草吉が固辞するのは、よほどの理由があるのだろう、それでも堪えて引き受けてほしい、と。それは名誉やカネのためでなく、小さな村で生きていく上で同調圧力によるものだ。



翌日、朝田家になぜか乾パンの材料が運ばれてきて、乾パンを作るよう命じられる。釜次たちは戸惑うが、そこに草吉が現れ、乾パンを無事焼き上げ、朝田家に笑顔が戻る。しかし、翌朝草吉は黙って立ち去る。



それに気づいたのぶは「止めんと!」と言うが、釜次にこれ以上苦しめてはいけないと制止され、「苦しめる? どういうこと?」。やっぱりのぶは察しが悪い。



そもそも寛の死に落ち込む嵩を案じて、あんぱんをのぶに持たせて嵩のもとに向かわせたのも草吉だし、はちきん・のぶは「足が速いき」周囲が見えずに、ただまっすぐ前を見て突き進み、見逃しているものが非常に多い気がする。だからこそ、実に危うい。



時代的には模範的な態度ののぶは、現代の視点で見るといろいろ間違っている。その一方、「嫌なことは嫌」を貫く、それを言葉にする草吉や蘭子、そして戦争を嫌う嵩は、時代の異端で、反逆者だろう。



「正義は簡単にひっくり返る」シーソーの大多数側、それも先導する立場に、のぶはいる。



誰もが同じ方向を見て、同じ方向に向かう社会は健全じゃない。そんな中、歩みが遅く、いつでも間に合わない嵩や、流れにのらず逆行しようとする草吉や蘭子と、多数派を行くのぶの道が交わるときはいつなのか。



のぶは本当は「足が速いき」ゆっくり考えてからでも追いつくというより、1週目を超高速で見誤り、2週目ようやく見逃してきたものを見つけるんじゃないか。それは2度と戦争という過ちを繰り返してはならないという思い、あくまで現代からの視点・価値観にすぎないが。



それが再婚であり、蘭子と心が通じ合うときなのではないかという気もしてきた。


文/田幸和歌子

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