「Y字路」の左右に広がる別世界。重永瞬さんに伺う、街なかの分かれ道の魅力
Yの形に分岐する道・Y字路。左右に分かれる道は人生の選択を想起させ、音楽やアニメ、映画など数多くの作品でメタファーとして用いられてきた。また芸術家の横尾忠則が度々作品のテーマにしたことでも知られる。京都大学の博士課程で地理学を研究する重永瞬さんは、各地のY字路を訪ね歩き、その特徴や発生要因などをまとめた書籍『Y字路はなぜ生まれるのか?』(晶文社)を出版した。
重永 瞬
京都大学にて地理学を学ぶ大学院生。父親の本棚にあった赤瀬川原平ほか著『京都おもしろウォッチング』をきっかけに路上観察にハマる。Y字路や参道など規格化されない道が好き。著作に『Y字路はなぜ生まれるのか?』(晶文社)、『統計から読み解く色分け日本地図』(彩図社)など。
この迷路のような道はなんだ?
「私は京都出身で、高校までずっと碁盤の目の街が当たり前でした。
一方、京都大学のある京都市左京区の吉田は街路網が細かく複雑で、Y字路もたくさんあったんです。進学した当初は迷路のような道に驚きました。ある時、まち歩き団体『まいまい京都』で吉田の街を案内するツアーガイドを務めることになり、『Y字路』という切り口で吉田を歩いてみたら面白そうだと思ったのが、Y字路に初めて興味を持ったきっかけです。
その後、東京でもY字路のツアーを開催することになったことで、全国各地を訪れてY字路を見つけたら積極的に写真を撮るようになりました」
Y字路から見えてくる都市計画の変遷や街の余白
これまで撮影したY字路は約700カ所。重永さんの書籍では、その中から約100カ所のY字路が写真とともに紹介されている。
「Y字路は基本的に、地形や昔の道など過去のものに何かを重ねることで生まれる鋭角。
地形的要因や街道などから自然発生的に形成されたものと、鉄道や都市計画道路などの開発によって形成されたものに大きく分けられます。書籍ではさらに12種類に分類しています」
書籍では、二方向に分岐した自転車の轍(わだち)や雪上の足跡など、人の足取りの軌跡からY字路が発生する原点を考察したコラムも。
Y字路を読み解くと、人間の行動や自然由来の地形といった要素と、都市計画との間を調整しようとする試行錯誤が見えてくる。
「左右の道が見通せて、正面には角地。Y字路の魅力の一つは、こうしたビジュアルのインパクトです。
加えて地図上で形成過程を追っていくと、都市計画の変遷や余白が見えてくる。地図で見た時の楽しさも魅力です。
新しい道の開通などによってできる開発系Y字路では、手前に立つと古い道と新しい道とで全く違う景観を一望できます。地図の目線を体感できて面白いですね」
角地はY字路の「顔」。三角地ならではの活用方法
Y字路の顔である角地を見てみると、三角地という特徴を駆使した多種多様な活用方法が、路上観察的にも味わい深い。
「Y字路の角地は、建物として使われるケースと、空き地として使われるケースとに大きく分かれます。前者の場合、角地が目立つことを生かして、商業施設、交番、教会・神社・お寺などの宗教施設といった、ランドマークとなる建物が作られることが多いですね。
後者の場合はポストや自動販売機、室外機など、他の場所に置きづらいものが置かれがち。道案内のための石碑など、分かれ道ならではの使い方も見られます。
個人的には、SHIBUYA109のような“分かりやすい”Y字路よりは、名所まではいかないけれど近所の方の手がある程度入ったものや、Y字路と呼べるかすら分からないような謎めいた使い方をされているものに、より引かれてしまいますね」
これからY字路観察を楽しんでみたいという方に向けて、ポイントを伺ってみた。
「Y字路は全国どこにでも存在します。Y字路を探そうとしすぎない方が、気楽に楽しめると思います。例えば暗渠や昔の街並みが残るエリアなど、他の対象物を楽しみながら街を歩けば、味わい深いY字路にも自ずと出合えるのではないでしょうか。
Y字路を見つけたら、地図から形成過程を探ってみたり、角地がいかに合理的に活用されているかを観察したりすると、さらに楽しめます」
取材・構成=村田あやこ
『散歩の達人』2025年2月号より
※記事内の写真はすべて重永瞬さん提供
村田 あやこ
路上園芸鑑賞家/ライター
福岡生まれ。街角の園芸活動や植物に魅了され、「路上園芸学会」を名乗り撮影・記録。書籍やウェブマガジンへのコラム寄稿やイベントなどを通し、魅力の発信を続ける。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)。寄稿書籍に『街角図鑑』『街角図鑑 街と境界編』(ともに三土たつお編著/実業之日本社)。