『狛犬だけじゃない』狛猫・狛カエル・狛ウサギ〜ユニークな狛〇〇に出会える神社
神社や寺院の狛犬(こまいぬ)は、聖域を守護する役割を持ちつつ、それぞれの寺社の個性を表す存在だ。
狛犬は犬という名がついているものの、その正体はライオンをモデルにした獅子という幻獣だ。
その起源はエジプトやインドにあり、シルクロードを経て中国から高麗(こま)を経由して、はるばる日本までやってきたといわれている。
日本に無数にある神社の中には、狛犬以外の動物を象った神使が鎮座する寺社も多い。
稲荷神社のキツネ、三峰神社のオオカミ、日枝神社の神猿などがその代表的な例だろう。
このように、神使として八百万の神や仏に仕える動物の種類は、実に多種多様だ。
今回は、全国的に見ても珍しい狛カエル、狛ウサギ、狛猫らが守護する神社について触れていこう。
水宮神社の【狛カエル】
古くから「無事かえる(帰る)」などの語呂合わせで縁起の良い動物として親しまれ、現代でもたびたび巷でブームを巻き起こすカエルだが、一部の神社では狛カエルとして祀られている。
カエル好きなら一度は参拝しておきたい神社、それが埼玉県富士見市にある「水宮神社」だ。
水宮神社の神使がカエルになったいわれとして、こんな話がある。
室町時代に里修験として始まった水宮神社が、神仏習合の社として神様と仏様の両方を祀っていた頃、この地に棲むカエルが「人間のように、2本の足で立って歩いてみたい」と神様に願ったという。
神様はその願いを叶えてくれたが、カエルが2足歩行すると目玉が後ろを向いてしまうため、前に進めなくなってしまった。
カエルは「やっぱり元の姿に戻してほしい」と願ったが神様は聞き入れてくれず、困り果てて泣きべそをかいていたところを、大日如来が見かねて元のカエルの姿に戻してくれたのだという。
それ以来、水宮神社の神使の役目を担うようになったカエルは、人々から水田の守り神としても崇められ愛されるようになった。
水宮神社には社殿前の阿吽の狛カエルを始めとして、本物のカエルを象ったリアルなカエル像から、現代アニメ風にデフォルメされたカエル像まで、多様なデザインのカエルの石像が奉納されているので一見の価値ありだ。
他に狛カエルがいる寺社としては、埼玉県大里郡寄居町の「姥宮神社」や、京都の稲荷山内にある「末廣神社」などがある。
調神社の【狛ウサギ】
その姿や仕草が愛くるしく、ペットとしても人気があるウサギも、一部の神社では神使として聖域を守護する役目を担っている。
その中でも現存する最古のものとされているのが、埼玉県さいたま市浦和区に鎮座する「調神社(つきじんじゃ)」の狛ウサギだ。
調神社の歴史は古く、社伝では第9代開化天皇年間に奉幣の社として創建され、次代の崇神天皇年間には伊勢神宮への献上物の集積所として定められたと伝わっている。
もしくは、御倉としての役目を終えたと考えられる771年頃を、神社としての創建年とする説もある。
一説には、いわゆる租庸調の「調」を集める倉を置いた場所だったことが社名の由来であり、荷物を搬入や搬出する際の妨げになったという事情から、調神社には鳥居や神門が設置されていないという。
神使がウサギになった理由は、調神社七不思議の1つとされている。
一説には中世頃から「つき」という呼称と月待信仰が結びつき、月の動物といわれたウサギが神使とされたと考えられている。
調神社に奉納されている中で最も古い狛ウサギは、1861年に彫られたものだ。
他にも手水舎や神池など、そこかしこでウサギを見つけられるので、ウサギ好きの方はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
他に狛ウサギを祀る寺社としては、京都市左京区の「岡崎神社」や鳥取県鳥取市の「白兎神社」が知られている。
金刀比羅神社の【狛猫】
狛犬ならぬ狛猫を祀る神社として有名なのは、京都府京丹後市の「金刀比羅神社」だ。
丹後ちりめんの発祥地である金刀比羅神社の鎮座地・峰山町では、ちりめんの原料となる絹を生産する養蚕業が盛んに行われていた。
古来より日本の養蚕が盛んな土地では、蚕や繭をかじってしまうネズミを追い払ってくれる猫が、蚕を守ってくれる存在として大切にされてきたという。
「金刀比羅神社」の境内社である「木島神社・猿田彦神社」には、社殿前に1対の狛猫が鎮座している。
「金刀比羅神社石造狛猫」と呼ばれるこの狛猫は、2020年9月1日に京丹後市の指定文化財となった由緒正しき狛猫だ。
木島神社は養蚕の守護神を祀る社であり、1830年に京都・太秦から峰山に勧請された神を守る存在として、1832年に阿形の猫とその子の像が、さらに1846年には対となる吽形の猫の像が奉納されたと伝えられている。
峰山町では、町おこしの中心として金刀比羅神社の狛猫を据え、毎年9月頃に「こまねこまつり」が開催されている。
この祭りは、町の有志による「ねこプロジェクト」の発展として始まったもので、2025年は9月21日に開催予定となっている。
「こまねこまつり」は、時代の流れにより養蚕や機織業が廃れ、活気を失った町を盛り上げるために始まった町歩きイベントだ。
素焼きの狛猫の絵付け体験ができたり、町内の飲食店で狛猫や猫をモチーフにしたグルメが提供されたりなど、様々な催しが楽しめる。
かつては町の経済を支えていた産業を守る存在であり、今は地域再興を支える存在になったありがたい狛猫に、ぜひ会いに行ってみてはいかがだろうか。
他にも狛猫を祀る寺社には、新潟県長岡市の「南部神社」や熊本県球磨郡水上村の「生善院」などがある。
日本全国の多彩な「狛〇〇」に会いに行こう
今回は狛カエル、狛ウサギ、狛猫について触れてみたが、これら以外にも狛イノシシ、狛タヌキ、狛カメ、狛トラ、狛ヘビ、狛ネズミ、狛ハト、狛フクロウ、狛ライオン、狛コイなど、哺乳類だけでなく鳥類、魚類まで、多彩な動物たちが聖域を守る役目を担っている。
八百万の神や仏をゆるく信仰する日本では、神仏の眷属とされる動物にも縛りはなく多種多様だ。
寺社に参拝する際は、愛らしくありがたい狛犬や神使にも注目してみてはいかがだろうか。
参考 :
茂木 貞純 (監修)『神社のどうぶつ図鑑』
水宮神社公式HP
文 / 北森詩乃 校正 / 草の実堂編集部