キャスト陣それぞれの個性と関係性が目を引く ミュージカル『フラガリアメモリーズ』~純真の結い目~オフィシャル稽古レポートが公開
2025年5月23日(金)シアターHにて、ミュージカル『フラガリアメモリーズ』~純真の結い目~の東京公演が開幕する、。この度、熱量が高まる稽古場の模様が届いた。
「フラガリアメモリーズ」とは主(ロード)を守る騎士たちの物語を紡ぐ、サンリオが贈る本格ファンタジープロジェクト。2023年よりボイスドラマとオリジナル楽曲MVを中心に複数メディアを横断して展開中。オリジナル楽曲MVは総再生回数600万回を超え、3DCGライブも注目を集めている。
物語の舞台は、妖精たちが暮らす世界“フラガリアワールド”。かつて「純真の大陸」「愛の大陸」「友情の大陸」と呼ばれた赤・青・黒の3つの大陸で、“ハローキティ”や“シナモロール”“バッドばつ丸”をはじめとした主(ロード)に仕える騎士たちが、それぞれの主を守り、謎の存在“シーズ”に立ち向かっていく騎士道ファンタジーだ。
オフィシャル稽古レポート
※稽古レポートにはネタバレ要素が含まれます。
サンリオが贈る本格ファンタジープロジェクト『フラガリアメモリーズ』、初の舞台化となるミュージカル『フラガリアメモリーズ』~純真の結い目~が、5月23日(金)より東京・兵庫にて上演される。
今作では、新米“フラガリア”騎士ハルリットが謎の存在“シーズ”に立ち向かうべく、赤の大陸のフラガリアたちを集めて伝説の“レッドブーケ”を結成しようと奮闘する成長物語が描かれる。
この日の稽古は、ハルリットが理想と現実のギャップに打ちのめされながらも、仲間たちに励まされて再び前に進む決意をかためるシーンから。物語の折り返し地点にあたり、クライマックスへの布石となる要所だ。
まず触れておきたいのが、今作のために書き下ろされた多彩な楽曲の数々について。すでに舞台公式YouTubeにて公開されているメインテーマ『あなたのために』をはじめ、いずれもピアノやストリングスから金管楽器まで多彩な音色が響く、華やかなオーケストレーションで構成されている。ファンタジックな世界観に深みとリアリティを与えながら、キャラクターたちの心情を自然に支えていて、音楽・和田俊輔の手腕が光る。脚本・亀田真二郎の台詞や構成と浅井さやかによる歌詞も巧みで、日常的な語り口にさりげなくキャラクターらしい色が重ねられ、芝居と音楽が地続きで溶け込んでいた。
だからこそ、演出の伊藤マサミは歌唱に対しても「この言葉に込められた本当の想いは?」「どう歌えば伝わるか?」と細やかなディレクションを重ねる。
特にハルリット役の酒寄楓太は、内面の葛藤を歌に乗せるシーンで、台詞と歌詞のあいだの“間”に意味を持たせるべく繰り返しトライ。まずは歌詞を台詞として読み解くことで意味を掘り下げ、次にメロディに乗せつつ、時には台詞のように語ることで芝居との連続性を追求していた。
「Memori-es(メモリアズ)」(シーズや従者、町の人々などを幅広く演じるアンサンブルキャスト)もまた、世界観を豊かに彩る存在として多くのパフォーマンスを担う。彼らにはかわいらしい声の跳ね方やトーンといった“音”の演出も求められるが、表面的な“かわいさ”ではなく、物語を支える表現としての精度が重視されていた。
舞台セットや動線も、感情の表現と密接に関わる。舞台上に設置された大きなワゴンの階段を上るか下るか、どこで立ち止まるか。感情の動きと物理的な移動をリンクさせることで、キャラクターたちの心情をより立体的に伝える仕掛けが張り巡らされていた。
なかでも印象的だったのは、ハルリットが気持ちを持ち直し、「自分を信じて立ち上がれば、見える景色も変わっていく」と歌う場面。上手のワゴンに立つ彼の傍らで下手に、旅の途中から一行に加わったロマリシュとメロルドが登場する。歌詞と舞台上の情景が重なり、過去と現在が交差するような美しい瞬間に胸が震えた。
そして何より目を引いたのは、赤の大陸のフラガリアたちを演じるキャスト陣6人、それぞれの個性と関係性だ。
リミチャ役の大見拓土は厚底の靴を履いて稽古に臨み、元気いっぱいに場を駆け回る。喜怒哀楽の振れ幅が大きいぶん、引き算で芝居を組み立てていくアプローチが興味深かった。
プルース役の井澤勇貴は、年長者らしい落ち着きと視野の広さで、暗幕をさりげなく閉めておく、転換とキャストの動線が重なることを指摘するなど、スタッフへのさりげないフォローも欠かさない。
山野 光はおだやかな笑みとどこかのんびりしたリアクションが、イメージのなかのサナーそのもの。仲間たちの一挙手一投足をさりげなく受け止め、そこにいるだけで空気を柔らかくしてくれるバランサー的な存在だった。
この日、一緒に行動するシーンの多かった3人は、ダンスの“映え”はもちろん、台詞のない“余白”にいかにストーリーを持たせるか、何気ないシーンをいかにコミカルにかわいらしく仕上げるか、談笑しながら積極的にアイデアを出し合っていた。
一方、“静”の存在として際立つのがロマリシュ役の樫澤優太。唯一メロルドの“事情”を知っているキャラクターとして、繊細な視線や立ち位置が心の動きを物語る。スタンバイ中でありながら、ワゴンの裏側からハルリットたちをそっと見つめる眼差しにも、優しさがあふれていた。
メロルドを演じる安藤夢叶は、感情をあえて表に出さず、台詞の裏に想いを漂わせる芝居で観る者の想像を掻き立てる。誰を見て、誰から目をそらすのか——その一瞬の仕草が物語に奥行きを与えていた。
酒寄にはハルリットにも通じる誠実さ、真っすぐさが見えた。時に感情が先走ることもあり、走り去ろうとするメロルドの腕を掴んで引き留める場面では、伊藤が「ちょっと力が入りすぎ」とおだやかに指摘。酒寄とは旧知の仲の安藤も「お花だと思って(優しく)接してね」とお茶目に伝える。飄々としたメロルドがめずらしく感情を露わにし、ハルリットの成長も見える重要なシーンだけに、本番でどのような掛け合いを見せてくれるのか楽しみだ。
その場面でもう一つ印象的だったのは、伊藤が安藤に「もしハルリットを押しのけて部屋を出て行きたかったら、その衝動に嘘はつかなくていい」と伝えていたこと。役者の内側から生まれる感情を尊重しながら、「この人物はここで何を思っているのか」をともに考え、最適な表現を模索する。だからこそ、本番では“生きたキャラクター”たちが舞台上で躍動するはずだ。
物語はここからクライマックスへと展開していく。彼らの旅の行方と成長の物語の結末を、ぜひ劇場で見届けてほしい。公演は5月23日(金)~6月1日(日)まで東京・シアターH にて、6月6日(金)~8日(日)まで兵庫・AiiA 2.5 Theater Kobe にて。
撮影=山下侑毅(timeties)、文=榊 恵美