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保坂萌(演出)×松永玲子×佐藤真弓×有森也実インタビュー 永井愛の名作『片づけたい女たち』に挑む!

SPICE

(左から)有森也実、松永玲子、佐藤真弓、保坂萌

2024年10月18日(金)~24日(木)、新宿シアタートップスにて『片づけたい女たち』が上演される。

松金よね子、岡本麗、田岡美也子による演劇ユニット「グループる・ばる」によって2004年に初演された永井愛の代表作『片づけたい女たち』は、グループる・ばるで何度も再演されたほか、様々なカンパニーより上演されてきた。初演から20年経った本作を、演劇プロデュースユニット「ムシラセ」を主宰し、作・演出のほか舞台写真家としても活躍する若手クリエイターの保坂萌の演出、松永玲子、佐藤真弓、有森也実の出演で上演する。

人生の課題に直面した50歳過ぎの3人の女たちが戸惑う様をリアルに描いた本作にどのようなアプローチで挑むのか。演出の保坂、出演者の松永、佐藤、有森に聞いた。

「この先明るければいいよね」と思えるものにしたい

ーー保坂さんは今年40歳で、今回は50代の女性を描いた作品の演出、そしてまさに50代の俳優さんたちとのタッグになりますが、このお話しが来たときはどのようなお気持ちでしたか。

保坂:生意気な言い方になりますが、自分がやりたい世界観に合っていて、すごく自分に向いている本だな、と思いましたし、永井愛さんがグループる・ばるのお三方に書いた作品ですが、今回の3人のキャストの顔ぶれを見て「一緒に新しいものができるな」と思えました。と言ってしまうと、この後「できてないじゃないか」と言われたらどうしよう、と怖いんですけど(笑)。この作品は「明日やり直せ」というメッセージがあると思いますし、私は1世代下でまさに自分がこれから通る道だと思うので、「この先向かっていく方向が明るければいいよね」と思えるものにしたいな、という気持ちもあります。

保坂萌

ーーこの作品は以前からご存知でしたか。

保坂:タイトルは知っていました。今回のお話しをいただいてすぐ戯曲を読んで、こんなに面白いものがあるんだ、とびっくりしました。3人で120分ぐらいの作品ですが、「これすごいな、よくやってたな」と思いますし、それを自分たちがやるのか、という高揚感もあります。

ーーこの3人とご一緒することについてはいかがでしょう。

保坂:お名前を聞いて「ヒエッ!」となりました(笑)。ご本人たちを前にしてなんですが、皆さんのことは学生のときから拝見していたので、「この人たちとやるんだ!」という気持ちですね。あの頃の自分に「永井愛さんの本で一緒にできるんだよ」と教えてあげたいですが、きっと信じてもらえないと思います。

ーー出演者のお三方は、今回初めてご一緒する保坂さんについてどのような印象をお持ちですか。

松永:私は昨年、先輩俳優の有薗芳記さんから「本当に面白いから観た方がいい」と勧められてムシラセの舞台を初めて観ました。本当に面白すぎて、私もいろんな人たちに「面白いよ」と勧めまくりました(笑)。だから今回保坂さんと一緒にやれることになってすごく楽しみにしています。でも、こちらは楽しみですけど、保坂さんにとってはどうだろう、とか思ってしまって。なんか拷問みたいじゃない?

松永玲子

保坂:そんなことはないですよ(笑)!

松永:大丈夫? だって15歳くらい上の人たち、しかも全員同性となるとちょっと……一番面倒くさいかも、と思って(笑)。

一同:(爆笑)。

佐藤:確かになかなかのプレッシャーですよね。でも「面倒くさい」というところからスタートした方が、「あ、意外と面倒くさくなかった」と思ってもらえるかも(笑)。私は今回のお話しをいただいて、今年7月に上演されたムシラセの公演を見に行きました。先ほどお名前の出た有薗芳記さんがご出演されていたのですが、私的パンク俳優有薗さんが本当に楽しそうで、見ていて私も楽しくなりました。

佐藤真弓

有森:私も同じく7月に初めてムシラセの舞台を拝見しました。エンターテイメントでもありながら、作り手の苦悩がすごく描かれていて、結構笑えたし、ホロっと来たところもあったし、世代を超えた楽しめるツボみたいなものがある作品だな、と思いました。今回どんなふうに演出してくださるのかますます楽しみになりましたね。保坂さんは年齢が少し下ということで、当事者の目とまたちょっと違う目線がどう生かされるのか、そのあたりもお客様の視点として楽しんでいただけるんじゃないかな、と思っています。

有森也実


年代を問わず「自分ごとだ」と思わせる作品

ーーこの作品の魅力はどんなところにあると思いますか。

保坂:戯曲本のあらすじに「傍観者の罪とは」とあるんですが、最初読んだときに、私はそんなに「傍観者の罪」というテーマを受け取らなかったんです。でも何回か読むにつれ、それって「これまでの人生で見逃してきた罪」みたいなものなんだろうな、と思い始めています。それを社会的に見せようと思ったら、もっと重く暗いトーンで描くこともできると思うんですけど、永井愛さんはそうはしていなくて。めちゃくちゃ面白いし、1回笑わせて窓を開いてからこのテーマを扱っているという戯曲はやっぱり構成としても魅力的ですし、それは20年間ずっと誰かがやりたいと言う本だなと思いました。

松永:年代を問わず、登場する3人のキャラクターのどこかに「自分ごとだ」と思うところが良くも悪くもあるんだと思います。この戯曲の時代設定は2004年当時だから、2024年の今から見ると20年前のことであって、今のことではないんですよね。それでも今この作品をやりたいと思えるのは、時代を超えて自分ごとだと思わせる力のある、強い戯曲だからだと思います。

松永玲子

佐藤:実は私、まだ戯曲を読んでいないんです。どうしてもグループる・ばるのお三方のイメージが強いので、今回一緒にやる有森さんと松永さんのイメージで戯曲を読みたいな、と思って、お2人とちゃんとお会いしてから読もうと思っていました。なので内容の話ではないのですが、このタイトルがすごくいいな、と思いました。「片づけられない」じゃなくて「片づけたい」なのが、片づけたいんだよ、でも片づけられないんだよ、というちょっと前向きな感じも含んでいますよね。

有森:読みながら、今まで会った人たちが頭の中にたくさん出てきて、ざわざわし始める感覚がありました。なんだか、そういう人たちに応援されているような気持ちになりましたし、片付けたいものがたくさんあるということは豊かなんじゃないかな、とすごく思いました。みんなで一緒に片づけたいものがいっぱいあって賑やかで、それっていいんじゃない、って。

有森也実

ーー確かに、部屋が片づいてたらこのドラマは起きないんですよね。ところで、皆さんは「片づけられる女」ですか。

保坂:全く片づかないです(笑)。特に公演中はもう……という感じで、7月の公演では私の妹が照明家として参加していて現場が一緒だったのですが、公演が終わった後に私の家に来て、片づけて帰っていきました。

一同:おぉー!

佐藤:素晴らしい妹さんですね。何かお礼はしたんですか?

保坂:焼肉をおごりました……ってこの話、書かれても困るかも……(笑)。え、皆さんはどうですか?

松永:私も全然片づけられないです。この戯曲を読んだときに、これは私に当て書きしてます? と思いました(笑)。よく俳優さんにありがちなのが、地方公演が終わって楽屋から自宅宛てに送ったダンボールがいつ片付くのか、という問題で。

一同:(爆笑)。

松永:届いてすぐに全部を開けて片づけてしまえば本当はいいんですけど、ダンボールに入っている状態だとなんとなくそこにまとまってくれているんですよね。だから必要なものをダンボールの中から出して、どこかに置くかまたダンボールの中に戻すかして。

佐藤:なんかもうダンボールが棚みたいな扱いにね。

佐藤真弓

松永:そう、なってる(笑)。

佐藤:私も片づかない女です。もう何年も使っていないし、絶対にいらないとわかっているものがあって、抱き締めてみても、多分ときめきもないはずなんですよ。でもなんだか知らないけど愛着だけがあって、捨てられないものが年齢分どんどんたまっていってしまう、というそんな状態です(笑)。

有森:私は片づけは好きなタイプなので、部屋の中は割と綺麗です。地方公演のダンボールはとりあえず全部開けて片づけますが、次に必要になったときにどこに片づけたのかわからなくなったりするんですよね(笑)。

ーー逆に片づけたからこそどこに行ったかわからなくなる、ということはありますよね。

有森:そうなんですよ! なんですかねあれは。ちゃんと本棚に立てかけてあったはずの本が見つからなかったりするのが、本当に不思議で(笑)。

保坂:片づけられる人の中に「物には住所がある」とか言う人がいるじゃないですか。「何を言ってるんだ」と私は思ってしまうんですけど(笑)。その人いわく、物には“どこにある”という住所が全部決まっているらしいですね。

保坂萌

佐藤:ドラえもんでそういうひみつ道具ありましたよね! 物の場所を決めておけば、全部自分で元の場所に戻ってくれるという。

松永:でもそれって、物の位置をひとつひとつ決める手間がかかるわけですよね。

佐藤:それが大変だ!

松永:それができるのか、っていう……そう思っている時点で、やっぱり「片づかない女たち」ですね、私たちは(笑)。

佐藤:片づけたいんですよ、本当は! という私たちの思いも全部含んでくれるタイトルですよね、『片づけたい女たち』って。

保坂:希望があるタイトルですよね、片づけられないんだけど、片づけたいんだよ! という(笑)。

(左から)有森也実、松永玲子、佐藤真弓、保坂萌

取材・文:久田絢子       写真・田中亜紀

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