円安のご時勢は音楽でバーチャル海外旅行!古今東西タイトルに世界の地名を含んだ曲特集
連載【教養としてのポップミュージック】vol.13 / 円安のご時勢は音楽でバーチャル海外旅行!古今東西タイトルに世界の地名を含んだ曲特集
過去最速で1,000万人を突破した訪日外客数
このコラムが公開される頃には、日本ではゴールデンウイークが終わっているだろうが、3月末から5月初旬は世界的にも祝祭日の多い時期である。
例えば、2025年の場合だと、キリスト教徒の多い欧米各国やフィリピンでは “復活祭(イースター)” が行われた4月20日前後が休みだった。また、インドシナ半島では1年で最も暑さの厳しくなる4月中旬に正月を迎える。よく“水かけ祭” と呼ばれるタイの “ソンクラーン” やミャンマーの “ティンジャン” などがそれにあたる。
そして、休みが長ければ長いほど、遠くへ遊びに行きたくなるのが人の常。ここ東京でも、ひと昔前ではありえない数の旅行者がやって来ている。ちなみに、日本政府観光局が毎月発表している “訪日外客数” によると、2025年1〜3月に日本を訪れた外国人の累計は10,537,300人となり、過去最速で1,000万人を突破したそうだ。
外国人旅行者が増え続けているのは、ビザの発給条件緩和や消費税の免税制度拡充など様々な理由が考えられるが、何と言っても大きいのは “円安” である。考えてみて欲しい。1ドル=100円の時代に300ドル出さなければ手に入らなかったものが、1ドル=150円の世界では200ドルで買えるのである。その結果、以前は日本に来ることができなかった “経済的階級” の人々が、大挙して日本にやってくることになった。
では、その裏返しにあたる、海外に出国する日本人の数はどうだろうか。同じく日本政府観光局発表の “出国日本人数” を見ると、2024年は13,007,282人であった。この数値は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大以前の2019年に20,080,669人だったのと比べると、1/3以上も減った計算になる。その原因として、平成の “失われた30年” の間に、若年層を中心に海外への関心度が低下していることがよく指摘されている。実際、今では日本人のパスポート保有率は、たったの “6人に1人” なのだそうだ。
とはいえ、短期的にはやはり “円安” の影響が最も大きいだろう。単純計算で渡航費が1.5倍になるのだから、当然と言えば当然だ。そして、このように海外渡航を敬遠する傾向は、かつて海外への憧れがもの凄く強かった、いわゆるバブル世代やその前の世代にも表れている。長引くコロナ禍で海外旅行に行く機会や意欲を失ったり、高齢者においては “欧州旅行なんて体力が持たない” と断念する人が増加した。
バーチャルで海外の気分を
このように、海外旅行に行きにくいご時勢ではあるが、そんな時だからこそ皆さんにオススメしたいのが、バーチャルで海外の気分を味わってもらおう、というアイデアだ。幸いにもポップミュージックの作品の中には、古今東西、タイトルに世界各地の地名を含んだ楽曲が数多く存在しているので、それらの曲を聴いたり、ミュージックビデオを観たりして、少しでも雰囲気を感じて頂きたい。
今回は、ユネスコ世界遺産(UNESCO World Heritage)に登録されている7つの場所を選んでみたので、日本から地球を(北極から見て)時計回りに順番に訪れてもらおうと思う。正直なところ、でっち上げ感を否定できない楽曲も中にはあるが、その辺はおおらかに受け止めてもらえたらありがたいし、それが世界を楽しむコツでもあると僕は信じている… ということで、良い旅を!
【イラク】
ボニーM 「バビロンの河」(Rivers Of Babylon)
バビロンはメソポタミア地方の古代都市で、そこに建設されたと言われる空中庭園は “古代世界の七不思議”(Seven Wonders Of The Ancient World)の1つに数えられている。2019年に文化遺産に登録。
ボニーMは西ドイツの音楽プロデューサー、フランク・ファリアンがディスコでのヒットを狙って結成したバンドで、日本でも “ミュンヘン・サウンド” と呼ばれ一世を風靡した。この曲はジャマイカのレゲエグループ、メロディアンズのカバーで、1978年にリリースしたアルバム『ヴィーナスの冒険』(Night Flight To Venus)に収録。でも、さすがにこの超ディスコ調アレンジだと、古代メソポタミアに思いを馳せるのはちょっと厳しいかも。
【ロシア】
マイケル・ジャクソン 「ストレンジャー・イン・モスクワ」
モスクワはロシアの首都であり、最大の都市であり、政治・産業・文化・科学・教育の中心地である。1990年に “モスクワのクレムリンと赤の広場” として、文化遺産に登録された。
この曲は1995年のアルバム『ヒストリー 〜 パスト、プレズント・アンド・フューチャー ブック1』からの第6弾シングルで、マイケル・ジャクソンが『デンジャラス・ワールド・ツアー』でモスクワに滞在した1993年に書かれた。“KGB” や “スターリン” といったパワーワードが登場する歌詞、それに白黒フィルムを使用したミュージックビデオから、この作品はソ連崩壊直後のモスクワの様子が描写されているように感じられるが、実際には映像はロサンゼルスで撮影されたのだそうだ。
【ハンガリー】
ジョージ・エズラ 「ブダペスト」
ブダペストはハンガリーの首都であり、最大の都市である。“ドナウの真珠” とも呼ばれる美しい街で、1987年には “ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り” として文化遺産に登録された(2002年に拡大登録)。
ジョージ・エズラは英国ハートフォードシャー出身のシンガーソングライターである。2013年にデビュー2作目のシングルとしてリリースされたこの曲は、全英シングルチャート3位、世界各国でTOP10入りを果たすなど彼の代表曲となった。ギターの弾き語りで古都ブダペストへ思い馳せているのかと思いきや、実際には現地に行ったことがないらしい。デビューアルバム『ウォンテッド・オン・ヴォヤージ』に収録。
【イタリア】
バスティル 「ポンペイ」
ポンペイはかつてナポリ近郊に存在した古代都市で、西暦79年のヴェスヴィオ山の噴火によって地中に埋もれたことで知られている。1997年に “ポンペイ、ヘルクラネウム及びトッレ・アンヌンツィアータの遺跡地域” として文化遺産に登録された。
バスティルは南ロンドン出身の4人組ロックバンドである。この曲は2013年にリリースした4枚目のシングルで、全英アルバムチャート初登場1位を獲得したデビューアルバム『バッド・ブラッド』に収録されている。とてもアンセム感のある曲で、米国の人気ミュージカルTVドラマ『glee / グリー』シーズン5でも取り上げられた。ところで、4人が初めてポンペイを訪れたのは、この曲が世界中で大ヒットしている真っ只中のことだったそうな。
【英国】
ウォーレン・ジヴォン 「ロンドンのオオカミ男」(Werewolves Of London)
改めて言うまでもないが、ロンドンは英国とイングランドの首都であり、国際金融センターであり、文化や流行の発信基地である。また、ロンドン塔やキュー王立植物園など、4つの文化遺産を抱える世界有数の観光都市でもある。
ウォーレン・ジヴォンは “ハードボイルド” とか “孤高” などと形容されることの多いシカゴ出身のシンガーソングライター。この曲は彼にとって全米TOP40に入った唯一の作品で、リロイ・マリネルとワディ・ワクテルの3人でふざけて作ったのをジャクソン・ブラウンのプロデュースで出すことになったらしい。1978年のサードアルバム『エキサイタブル・ボーイ』に収録。ワクテル(ギター)の他、フリートウッド・マックからミック・フリートウッド(ドラムス)とジョン・マクヴィー(ベース)が参加している。
【ブラジル】
デュラン・デュラン 「リオ」
リオデジャネイロ(略称リオ)はサンパウロに次ぐブラジル第2の都市で、毎年数百万人が訪れる世界最大級の祭典 “リオのカーニバル” が有名だ。2012年に “リオデジャネイロ:山と海との間のカリオカの景観群” として文化遺産に登録されている。
デュラン・デュランは英国バーミンガムで結成された4人組バンドで、この曲は7枚目のシングルとして1982年にリリースされた。米国での成功の手掛かりとなったセカンドアルバム『リオ』に収録。題名の “リオ” は実はリオデジャネイロのことではなく、女性の名前でもなく、米国を比喩的に表現しているらしい。実際、歌詞の中に米国とメキシコの国境を流れるリオグランデ川のことが出てくる。ちょうど彼らが本格的に米国進出を目論んでいた時期であり、そのことを掛けたのだろうか。
【キューバ】
カミラ・カベロ 「ハバナ feat. ヤング・サグ」
ハバナはキューバの首都で、文豪アーネスト・ヘミングウェイが愛した街としても知られる。1959年のキューバ革命で社会主義化したことから、今でも街を走る自動車の約9割が50年代の米国製クラシックカーだ。1982年に “ハバナ旧市街とその要塞群” として文化遺産に登録。
カミラ・カベロはハバナ出身の米国人シンガーソングライターで、故郷ハバナへの愛を歌ったこの曲は、4枚目のシングルとして2017年にリリースされた。世界各地のチャートで1位を記録する大ヒット曲となり、ヒスパニック系女性シンガーとして初めて、全米レコード協会(RIAA)から1,000万枚以上を売り上げたシングルやアルバムに与えられる “ダイヤモンド認定” を贈られた。いかにもな雰囲気たっぷりのミュージックビデオも必見だ。デビューアルバム『カミラ』に収録。