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圧巻のブルース・スプリングスティーン「Road Diary」最新ワールドツアーの舞台裏に密着!

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2024年10月25日 ブルース・スプリングスティーンのドキュメンタリー映像作品「Road Diary」配信日

観るたびに新しい発見がある「Road Diary」


Disney+(ディズニープラス)で配信されているブルース・スプリングスティーン & Eストリート・バンドのロードムービー『Road Diary』には、何度観ても毎回新しい発見があります。

この映像はコロナで延期になった2023年のツアーを収録したドキュメンタリー。6年ぶりのツアーのためEストリート・バンドのメンバーが久しぶりに集合、新しいメンバーたちとも顔を合わせ、地元でのリハーサルシーンから映像は始まります。ヨーロッパから本国アメリカに至るライブステージもたっぷりと収録されており、その合間にはブレイク前の懐かしいツアー映像やメンバーのインタビューなどが挟み込まれ、ファンならずともたまらなく嬉しい内容に仕上がっています。

スプリングスティーンが何者であるか、やっと分かってもらえた初来日公演


さて、マイケル・ジャクソンの『スリラー』ともども、1980年代を代表するアルバムになっているブルース・スプリングスティーンの『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』がリリースされた1984年、私はレコード会社(CBS・ソニー)の制作担当者でした。翌1985年の初来日公演ではツアーにアテンドすることもできましたが、この “衝撃的ライブ” で初めて、“彼が何者であるか” ということが分かってもらえたのです。

なぜなら、このアルバム発売以前(1970年代末から1980年代初頭)は、“動いているスプリングスティーンの姿” は16ミリフィルムに撮られた「ロザリータ」しかありませんでした。後に『NO NUKES』のライブから「ザ・リバー」も切り出されましたが、“彼が何者であるか” ということが伝わるのは圧倒的に「ロザリータ」の強烈な映像でした。1984年に「ダンシン・イン・ザ・ダーク」のミュージックビデオが登場するまでは、いつでも「ロザリータ」の映像を見せることから宣伝活動は始まっていました。

そんな映像に飢えていた時代はあったものの、その後、彼のライブ映像はいくつもの商品として販売され、ネットには直近のツアーまで山ほどアップされています。残念ながら、オンステージのライブ映像に関しては以前ほど “貴重な宝物” ではなくなっていますが、今回配信されている『Road Diary』はオフステージ、つまりライブを作り上げていくプロセスが主役となっています。

74歳を迎えたスプリングスティーンが直接語るツアーの位置づけ


貴重なリハーサルやゲネプロの様子や素で語り合うメンバーの会話など、オフステージの動きにはファンならば誰しも興味があると思います。そんな、観たかったものを観せてくれたという素直な喜びと同時に、この『Road Diary』は、私を感慨深い気持ちにさせてくれたのです。

というのも、スプリングスティーンと私は同世代です。彼の若い姿を若い自分がプロモーションしていたということもあり、年齢と共に変化しつつある人生観は十分に分かるし、特に、『Road Diary』ツアー時に74歳を迎えたスプリングスティーンが直接語る、ツアーの位置づけや動機などは、本当によく理解できました。それだけに観終わった後、胸に迫る思いが芽生えたのだと思います。

トークの内容まできっちりと演出されたステージング


ライブの命とも言えるものが、セットリストですが、今回のツアーのセットリストを作り上げるシーンは、『Road Diary』の重要なテーマになっています。そもそも、彼のステージは “ファンのために沢山の曲を聴かせたい” と、ステージごとに結構な数の曲を入れ替えたり、やると決めた曲ですら会場の反応で替わったりと、絶対に同じものが並ばない日替わりメニューが人気でした。多くのファンも今日は何を演るのかと楽しみしているし、バンドメンバーですら何を演らなきゃいけないのかと、ドキドキ感満載の進行になっているのが大きな特徴になっているのです。

しかし、この『Road Diary』のセットリストは、今までと全く違う考え方で作られていたのです。ファンを喜ばせたいというそれまでの考え方より、今の自分がファンに伝えたいことを優先しているのです。これはスプリングスティーンにとっても初めてのことかも知れません。具体的には、1曲目の「ノー・サレンダー」から最後の「アイル・シー・ユー・イン・マイ・ドリーム」まで、ひとつのメッセージに沿った流れで固定し、トークの内容まできっちりと演出されたステージングを行っているのです!

この心境の変化は、『Road Diary』ツアーに遡ること6〜7年間の動きを辿ってみると理解できそうです。なにより一番の出来事は、2016年、67歳の時に書き下ろした自叙伝の出版でした。このこと自体が人生の復習と次に向けての再起動の出発点だったのでしょう。翌2017年10月から2018年12月にかけて、ブロードウェイでの236回に及ぶ単独弾き語りライブ&トークショーを敢行。この時のスプリングスティーンは69歳。これは、自叙伝のライブ版といえる内容で、人生の振り返りです。きっちりと演出されたステージは強い説得力がありました。映像の中でメンバーも語っていましたが、ブロードウェイでの経験が今回のセットリストのヒントになっているのです。

スプリングスティーンのルーツを浮かび上がらせた「ウエスタン・スターズ」


そして70歳になった2019年に、アルバム『ウエスタン・スターズ』を発表。ジャケットからして私の世代には懐かしの西部劇的なものでしたし、彼自身のルーツであるフォークやカントリーを生んだ西部の情景を浮かび上がらせる映画音楽的な作りには驚きました。彼のヒーローの1人、亡くなったグレン・キャンベルのヒット曲をカバーしていることも、変化の表れでしょう。『ウエスタン・スターズ』リリース時にツアーは行っていませんが、レコーディング風景を軸にしたドキュメンタリーを撮っています。まさに映像を使ったファンとのコミュニケーションが深まったものだと思います。

その後の活動も活発でした。2020年にはEストリート・バンドをバックに、アルバム『レター・トゥ・ユー』を発表。実は、キャリア初期に地元で人気を博していたバンド時代の仲間1人が亡くなり、彼はショックを受けたようです。自分がこのバンドの最後のメンバーになってしまったということは、この作品作りの動機にもなっているし、収録曲「ラスト・マン・スタンディング」はこの『Road Diary』ツアーのセットリストでもハイライトな位置に置いています。そしてなにより、この数年の間にEストリーバンドの仲間も2人も失っているのです。

彼の創作意欲は収まらず、2022年には『オンリー・ザ・ストロング・サバイブ』というR&Bヒット曲のカバー集を発表しています。考えすぎかもしれませんが、前作の「ラストマン・スタンディング」と対比させて、「オンリー・ザ・ストロング・サバイブ」、つまり “強いものだけが生き残る” というカバー曲をアルバムタイトルに持ってきていますが、これとて自分自身への励ましにしているのではないでしょうか。

新たなブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドの姿


このように、自叙伝を上梓した2016年以降、精力的な活動を続けて2023年の『Road Diary』ツアーとなっています。人生を振り返りつつ、今の自分の年齢をふまえ、過去から現在までの夢、出会い、成功、そして喪失感と、人生の体験とその流れが、このセットリストの軸となっているのです。

ロックアーティストとして、作品を発表したらバンドと一緒にツアーに出る。ステージ上で自分のエネルギーを全開放することによって、ファンと繋がる。これまではそれで十分でした。しかしいま、ブラッド・ブラザーズでもあるEストリート・バンドを軸としたサポートメンバーたちの熱い支えに、ブロードウェイで学んだ演出力を加え、自分ひとりだけでなくメンバーの個性も生かして、1つのショーを作り上げる。そんな新たなブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドの姿を見せているのです。ーー映像冒頭の本人の言葉が印象的でした。

“ライブをやることは自分の身体の一部だ。
地球に存在する理由を正当化する手段だ”

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