英国モーガンが生み出した、新型「スーパースポーツ」
1909年創業、英国のモーガンは、唯一無二のクラシック・スポーツカーを作るブランドだ。ラインナップの頂点に君臨する新型「スーパースポーツ」は、見事なデザインと優れたパフォーマンスを兼ね備えた一台である。
author charlie thomas
かつて英国には数多くのスポーツカーが存在していた。トライアンフ、MG、ロータスといったブランドが生んだ小型・軽量な2シーターのオープンカーは、イギリスの狭い田舎道を走るために設計され、無限の楽しさ(時々、故障付き)を提供していた。
その魅力的なレシピは世界中で称賛され、日本のマツダはロータス・エランを模してアイコニックな「MX-5(ロードスター)」を開発し、世界中で大ヒットとなった。
しかし市場は変化し、英国の自動車産業は苦境に立たされた。現在、英国製のスポーツカーはほとんど絶滅の危機にある。
それでも、いくつかのブランドはなお健在だ。
ロータスは「エミーラ」を製造している。トヨタ製スーパーチャージャー付きV6エンジン、またはメルセデス・ベンツ製4気筒エンジンを搭載する、小型で比較的軽量なスポーツカーだ。
ケータハムは伝統の「セブン」シリーズで今も孤軍奮闘している。条件の整った日にコンデイションのいい道を走るなら、四輪車でこれ以上楽しいものはないだろう。ただしセブンは非常にスパルタンなクルマで快適装備は一切なく、万人向けとは言い難い。
アストンマーティンの「ヴァンテージ」もかつては純粋なスポーツカーとされていたが、最新モデルでは656馬力という強大なパワーを誇り、そのキャラクターは田舎道をのんびり走るクルマというより、フェラーリを向こうに回してのサーキット走行を連想させるものになっている。
そして、モーガンがある。
創業から100年以上が経った今も、モーガンはイングランド西部マルヴァンにある赤レンガ造りの工場で、一台ずつ手作業で製造されている。モーガンは1910年に3輪車の製造からスタートし、レースにも多数参戦。その後、1930年代に伝統的な4輪車の開発へと進化を遂げた。1936年には、4輪+4気筒エンジンを意味する「4/4(フォー・フォー)」を発売した。戦後最初の新型車は1950年に登場した「プラス4」で、以来さまざまな進化を遂げながら、デザインと機構を少しずつ洗練させてきた。
だが、見た目の話をすれば、2025年型の新しいプラスフォーと1960年代のそれを並べても、その違いに気づくのは難しいだろう。どちらも手作業で叩き出されたフェンダー、長くルーバーの入ったボンネット、カーブを描くグリル、そして後ろに傾斜したリアエンドを備えている。さらに、車体のフレームには木材(タモ材)が使われており、同じ工場内で今もひとつひとつ手で削り出されている。
これこそがモーガンの魅力だ。モーガンは、スポーツカーの黄金時代と同じ方法でクルマを作り続けている。そのため今でも、往年と変わらぬ魅力と個性が息づいているのだ。
モーガンの新型モデル「スーパースポーツ」は、ブランドの在り方を一変させる存在だ。2019年からフラッグシップとして君臨してきた6気筒モデル「プラス・シックス」の後継として登場し、ラインナップの頂点に立つ新たな一台である。
まず注目すべきは、そのデザインだ。全面的な刷新が図られ、モーガンの伝統を巧みに取り入れつつも、現代的でまったく新しいスタイルが与えられている。細長いボンネットと絞り込まれたリアというシルエットは健在だが、曲線はシャープに磨き上げられ、全体的にクリーンかつミニマルな印象に仕上がっている。
特徴的だったボンネットのルーバーは廃され、ボディ表面はより滑らかで角度のある造形となった。新たにスクエア型のフロントバンパーが採用され、リア周りは極めてシンプルにまとめられている。そしてモーガンとしては10年ぶりに「トランク(ブート)」が復活した点も注目に値する。
ボディに刻まれたメタル製の「Morgan」ロゴは、美しく面取り加工されたエレガントな仕上がりで、細部まで洗練された意匠となっている。
車内に足を踏み入れると、随所に工夫を凝らしたインテリアに目を奪われる。センターコンソールやドアにあしらわれた木製インレイ、美しい金属製のハンドブレーキ、触感に優れた丸型ボタンやノブなど、使用されている素材はどれも上質だ。
メーター類は、英国のCaerbont(旧スミス製メーターの製造元)によるもので、クラシック・ムード満点である。シートには柔らかく上質なレザーが使われ、快適性とサポート性を兼ね備えている。
一方で、最新のテクノロジーもさりげなく取り入れられている。たとえばスマートフォンのワイヤレス充電パッド(ナビゲーション利用時に便利)や、センターコンソールに配されたマイク付きハンズフリー機能などがその例だ。
特筆すべきは、最近の新型車によく見られる大型タッチスクリーンがあえて搭載されていない点だ。それがモーガンらしい伝統的な雰囲気をしっかりと守っている。
ただし、トランスミッションはオートマチック仕様のみで、BMW製のギアセレクターやパドルシフトは、モーガン独自の内装の中でやや浮いて見え、質感においてもチープに感じられるのが残念な点だ。
このスーパースポーツに搭載されているのは、BMW製のツインターボ直列6気筒エンジン「B58」である。そのため、ギアシフターもBMWのもので、ZF製8速オートマチックトランスミッションと組み合わされている。このパワートレインは従来のプラス・シックスにも採用されており、最高出力は変わらず335bhp。車両重量はわずか1,170kgと軽量であるから、その結果、0-60mph加速は驚異の3.9秒を記録する。低回転域からのトルクの立ち上がりも鋭く、田舎道での追い越しも難なくこなせるパフォーマンスだ。
だが、この車の真価はコーナリングにある。スーパースポーツは、モーガンの次世代「CXV アルミボンデッド・シャシー」を採用しており、驚くほど軽量かつ高剛性だ。これがハンドリングの精度を大きく高めている。
サスペンションも新設計で、前後ダブルウィッシュボーンに加え、減衰力の調整が可能なニトロン製ダンパーを装備。サーキット走行向けに硬めにもできるし、快適性を重視してソフトにも設定できる。
試乗時はややソフトな設定だったが、それでも応答性は高く、タイトなコーナーでもスムーズなS字カーブでも実に気持ちよく曲がってくれた。ステアリングはクイックで、どんな道でも即座にフィードバックが返ってくる。走りの楽しさと安心感を兼ね備えた1台だ。
要するに、モーガン「スーパースポーツ」は「スポーツカーとはこうあるべき」という感覚をカタチにした一台だ。日常のドライビングを異次元へと導く加速性能を持ちつつ、自然で直感的なステアリングフィールを味わわせてくれる。しかも、意外なほど快適で、想像以上の収納スペースも備えているため、グランドツーリングカーとしての資質も十分に備えている。
クラシックなモーガンの美学に現代的なアップデートを加えつつ、その走行性能は最新スポーツカーと肩を並べるレベルに達している。そして何より重要なのは、その走りが心を躍らせ、操る人を思わず笑顔にしてくれることだ。そんなニューカーは、今やそう多くはない。