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「強制的な宿題はなし」でも自ら学ぶクラスへ〔子どもの主体性を信じた公立小学校教員の驚きの実践〕

コクリコ

子どもの主体的な学びを進める上で、「宿題」は必要なのでしょうか。自己決定・自己選択の機会を増やし、主体性を大切にする授業を行う現役の公立小学校教員・大窪昌哉先生に、宿題に対する考え方、大切にしていることなどをうかがいます。

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子どもの主体性を尊重したい。でも、自分からは全然やらない・動かない……。保護者として、そのジレンマに一番苦しめられるのが、「宿題」ではないでしょうか。神奈川県内の公立小学校で、子どもの主体性を大切にした授業を行っている教員・大窪昌哉先生は、強制的な宿題を課すことはせず、「自主学習」を推奨しています。

個人差はありますが、子どもたちは自分の好きなことを学習し、まったく取り組まない子はいないのだといいます。大窪先生が一律の宿題を出さない理由、保護者の反応や学習への考え方などをうかがいました。

【大窪昌哉(おおくぼまさや) プロフィール】
大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して、逗子市内の小学校にて教員人生をスタート。2024年度から葉山町立上山口小学校に勤務。

強制ではない宿題 「自主学習」とは?

──子どもの学習面の主体性でよく取り上げられるトピックに、「宿題」があります。大窪先生は、いわゆる「宿題」を出していないと聞きました。

大窪先生:計算や漢字の練習などの「全員一律の宿題」は、もうずいぶん出していません。その代わりに、子どもたちには「自主学習をしておいで」と伝えています。自分にとって今、必要なことを考えて取り組んでね、と話しているんです。

──子どもたちの取り組み状況は、どの程度なのでしょうか?

大窪先生:やるやらない、提出頻度も含めて任意なので、毎日取り組んで提出する子、週に数回の子、もっと少ない子など幅があります。ただ、まったく出さない子はいないですね。

内容も子どもによってまちまちです。算数や漢字などの教科学習をする子もいれば、自分の好きなことを調べてまとめてくる子もいます。

教室には自主学習を提出するかごが用意されている。  写真:川崎ちづる

──実は、授業の取材のときに自分の自主学習ノートを持ってきて、誇らしげに見せてくれる子がいたんです。ほかの子からも、「自分で内容を決められるからいい!」「好きなことを調べられてすごく楽しい」などの声を聞きました。一方で、「決まっていることをやったほうがラク」と話す子もいました。

大窪先生:当然、そういう子もいますよね。実際、自分で考えるのは楽しいばかりじゃなくて、しんどい面もあります。簡単ではないけれど、なにが自分の成長につながるのかを知る機会にしてほしいと思っています。

「自主学習はとても楽しい」と話す子のノート。  写真:川崎ちづる

──「自主学習」も子どもが「自分で決める」機会の一つなのですね。ただ、計算や漢字練習などの宿題がないと、子どもに基礎的な学力が身につくのか不安に思う保護者もいると思います。

大窪先生:漢字は毎週金曜日に小テストをしているので、それに合わせて自分で覚えておいてね、というスタンスです。書いて覚える子もいれば、見て覚える子もいます。何回繰り返せばいいかも、子どもによって違います。「自分がどのくらい見たら(書いたら)覚えられるかを学ぶこともすごく大事だから」と伝えて、各自で判断してもらっています。

算数の場合は、「今日は新しい単元に入ったから、できたら1回は問題を解いてみて」などの声かけはしています。

一律の宿題を出しても自分に合った方法はわかりませんから、自主学習で自分なりの学習方法を見つけてほしいと思っているんです。

強制的な宿題のデメリット

──「宿題」を出さないのは「自分で学ぶ力」を身につけるため、という意識からなのですね。

大窪先生:それに加えてもう一点、「強制的な宿題の負の側面を実感したから」という部分もありますね。これは、自分の子どもを見ていて痛烈に感じたことです。

僕の息子(小学校6年生)は、「やらされる勉強」が大嫌いです。宿題も嫌々やっているので、1枚のプリントを終わらせるだけでものすごく時間がかかります。

そんな彼の様子から、宿題の強制が「勉強・学習=嫌なもの」というネガティブな感情を植えつけていることに、改めて気がつきました。身につくものよりも、学習自体を嫌悪してしまう逆効果のほうが断然、大きいです。これは保護者、そして教員としての経験から、僕の中では確信に近いです。

──宿題について、保護者から「もっと出してほしい」といった要望はないのでしょうか。

大窪先生:前任校でも、僕のところに直接そうした意見が届いたことはありません。

自主学習については普段から、「こんな考え方でやっています」と学級だよりなどでも伝えていますから、応援や後押しをしてもらうことのほうが多いと感じます。

子どもが自主学習で取り組んだ作品。水に浮かべてろうそくに火をつけると鉄の棒に熱が伝わり、そのエネルギーで船のように進む仕組み。  写真提供:大窪昌哉氏

「学習する意味」を子どもが理解できることが大切

──「宿題がないと勉強しなくなって困る」「自分でやる子はいいけど、うちはそれじゃダメ」といった声も多いですから、もっと保護者からの要望があるのかと思いました。

大窪先生:僕に直接、意見をしないだけで、「うちの子はある程度、強制しないとやらない」と思っている保護者の方はいるかもしれません。

宿題の有無ではありませんが、数年前にドリルの解答を配布することについて、意見をいただいたことはありました。

僕は基本的に、ドリルやプリントは子どもたちに解答を配って、自分で答え合わせをするようにしています。自ら間違いに気づいて修正することは、すごく大事だと思っているからです。学年問わず、1年生でも渡しています。

保護者の方からは、「うちの子は答えをもらったら絶対、丸写しをするから、渡さないほうがいい」と言われました。その際に、僕はこう話したんです。

「確かに最初はそうかもしれないですが、繰り返し伝えれば、子どももわかると思うんです。ただ早く終わらせるために答えを書き写すなら、そもそもやる必要なんてないよ、と話して、子どもが学ぶ意味を理解できるようにしましょうよ」と。

その保護者の方が納得してくれたかはわかりませんが、その後はそうしたことは言われなくなりました。

──そこまできちんと説明してくれれば、納得できる保護者も多いのかもしれません。

大窪先生:同じようなことを、子どもたちには授業をとおして常に話しています。

「漢字を学習するのは使えるようになるためだから、カンニングしてテストだけ良い点を取っても何も残らない。だけど、一生懸命覚えてその結果が50点だったとしても、間違えた部分を復習さえすれば100点と同じだよ」と伝えています。

算数の授業で学び合う様子。無理強いしなくても、楽しければ子どもたちは自ら積極的に学習します。  写真:川崎ちづる

小学生のうちは、宿題などで子どもに強制的に学習させることができるかもしれません。でも、この先ずっと「○○をやりなさい」と保護者が指示していくわけにはいきません。

子どもはどこかで自立しなくてはならない。だから、少しずつでもその力をつけていくことが、すごく大事だと感じます。

料理が好きな子は、自分の作ったメニューを記録して自主学習に。みんなが見られるよう教室に掲示しています。年度末には本にする予定。  写真:川崎ちづる

保護者の方には、「まずは子どもを信頼しましょう」と伝えています。子どもを信じていたら、悪い方向ばかりにいくことはないんです。もちろん、小さな裏切りはあるかもしれないですが、ちゃんと方向修正できる。実は僕自身も、そういつも言い聞かせていますね。

保護者も間違いを認め、反省する

──ここまでお話をお聞きして、保護者もまずは子どもを信頼すること、強制ではなく学習の意味を伝えることが大切なんだと、改めて感じました。

大窪先生:偉そうにお伝えしましたが、僕も親としての立場だと、宿題をしない子どもにヤキモキする気持ちは痛いほどわかります。

「これは大事だから絶対やったほうがいいと思うよ。でも○○(子どもの名前)の問題なんだから、自分で判断しなよ!」という言い方をしてしまうこともあります(笑)

──宿題や勉強を強制する言葉を口に出す前に、立ち止まる方法は何かあるんでしょうか。

大窪先生:それはかなり難しいですね。僕自身も、これをやれば絶対大丈夫、というようなノウハウがあるわけではありません。

親も完璧ではないですし、間違ったり失敗したりすることはあります。だから、まずは言ってしまったあとに振り返って、「あれはよくなかったな」「またやっちゃったな」と反省する。それを習慣にすることですかね。

これは第2回でもお伝えしましたが、口に出した内容が「子どものため」という仮面を被った「自分の願い・欲望」なのではないか、と気づくことが第一歩になると思います。それを繰り返していくうちに、口にする前に立ち止まれることが増えてきます。

そうやって、保護者も子どもと一緒に、ちょっとずつ成長していくのではないでしょうか。

第4回は、子どもが主体性を発揮するために重要となる「先生と保護者の連携」について、大窪先生と前任校の保護者3名に、座談会方式でお話をうかがいます。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

写真:竹花康

【大窪昌哉(おおくぼまさや) プロフィール】
大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して、逗子市内の小学校にて教員人生をスタート。2024年度から葉山町立上山口小学校に勤務。子どもたちと学びを楽しみ、みんながいきいきとした素敵な時間や場を共創するために、さまざまな学びの場へ参加している。

取材・文 川崎ちづる

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