朝は不調で午後は元気な小4息子。「起立性調節障害」診断後の学校の連携、家庭での対策は
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
冬休みだから~と思っていたけど……
小4の長男ハジュは、ASD(自閉スペクトラム症)・ADHD(注意欠如多動症)です。お正月明けのある日、ハジュが朝なかなか起きられなくなりました。起きてきてもぼんやりしていて食欲もない。朝ごはんも食べずに午前中はゴロゴロしている感じでした。午後になるとケロッと元気になって「おなかすいたー!」と言っていつものハジュに戻るのです。
そんな様子を見て、私は、まぁ冬休みだし、朝寝坊もアリかと思っていました。でも今思えば、あれが前兆だったのかもしれません。
朝になると体調が悪い……一体なに?
新学期が始まっても、朝の気持ち悪さが続きました。立ちくらみに吐き気、ついには嘔吐まで……。熱もなく、便も普通だったので、「軽い胃腸炎かな?午後になると元気になるし……」と思っていました。病院に行くほどではないかと様子を見ていました。今の時期はインフルエンザなども流行っていて、なるべく病院は避けたくて……。でも、ハジュの体調は良くなったり悪くなったりを繰り返して、1月末になるとさらに食欲が落ち、体重も減り始めました。そして、学校も休みがちに。
「さすがにおかしいぞ……?」そう思った時、以前、友人の子どもが起立性調節障害と診断されたという話を、ふと思い出したのです。「あれ?もしかしてハジュも……?」直感的にそう思い、すぐに起立性調節障害について改めて調べ始めたのです。
診断確定、そして学校との連携!
すぐにかかりつけの小児科に連絡し、予め「起立性調節障害の検査をお願いします」と伝えたうえで受診しました。血液検査や尿検査、血圧・脈拍の測定を行い、やはり血圧に異常が見られたため、軽度の起立性調節障害と診断されました。ハジュは服薬中の薬があるので、その影響の可能性を考えて、後日児童精神科も受診。そこで普段飲んでいる薬の影響ではないという事が分かったので、血圧をコントロールするための治療を始めることになりました。
学校と相談し、午前中は無理せず午後から通学。給食も食べられるものをその都度相談して食べるようにしました。午後から元気になるハジュのために、家では軽食を準備、多めにおやつを食べています(ハジュはちょっと嬉しそうです)。先生方にも協力していただき、できるだけ時間割を調整してくれたり、家庭学習のプリントを用意してくれました。
朝の光ピカピカ作戦とリラックス
さて、お薬の力を借りつつ、治療に良いとして試したのが、まず「朝の光作戦」。
カーテン全開、部屋の電気も枕元の電気もON!めいっぱい光を浴びてもらいます。さらに、水分と塩分が大事ということで、朝にお味噌汁の具なし(味濃いめ)を作ることにしました。幸い、お味噌汁はハジュの大好物なので、匂いにつられて起きる日も(笑)。食い意地パワーは偉大です。
でもやっぱり、調子がいい日もあれば、起きれてもすぐにふらふらと横になってしまうことも。
起立性調節障害にはストレスの影響も大きいと言われています。そこで、ハジュがリラックスできる環境を整えることにも注力しました。ハジュの好きなマッサージをしたり、気軽に話せる時間をつくったり。学校に行けなかった日も「まあ今日は充電日ってことで」と声をかけ、プレッシャーをかけすぎないようにしました。
でも、良くなったと思ったらまたぶり返すこともあり、「あれ、昨日は元気だったのに?」と波があるのが、起立性調節障害のしんどい所……。そんな時は焦らず、できることをコツコツ続けるしかありません。
まだ治療の途中で、減った体重も戻っていませんが、少しずつ改善の兆しも感じています。大切なのは、ハジュがSOSを出せる環境を整えること。無理させすぎず、でも決して怠けているのではないということを理解しながら、乗り越えていこうと思います。日々試行錯誤ですが、ハジュが少しでも快適に毎日を過ごせるように、これからもサポートを続けていきます。
執筆/スパ山
(監修:鈴木先生より)
起立性調節障害はOD(Orthostatic Dysregulation)とも言われます。私の外来では「心臓のポンプが弱いお子さん」と説明しています。症状としては、車酔い、朝起き不良、立ち眩み、朝礼で倒れる、頭痛、顔色不良などがあり、不登校になりがちな傾向があります。遺伝性もあり、親のどちらかが似た症状を持っているケースもみられます。診断は15分立たせて脈・血圧・心電図を測定する起立テストが主に行われています。治療はミドドリンという起立性低血圧に効果のある薬剤を飲ませることで多少の改善が見られます。
起きてもゴロゴロしていたり寝ながら電子メディアを見ていたりする傾向があり、午前中はボーっとしていることが多いが午後から夜にかけては元気になるという特徴があります。そのため、午前中さぼっているのではと勘違いされやすく、親に叱られて自尊心が低下しているお子さんもいます。近年では神経発達症に併存されやすく、私の外来では不登校が見られた場合はまず念頭に置かなければいけない疾患の一つでもあります。最近ではADHD(注意欠如多動症)治療薬のインチュニブの副作用で血圧が下がるため、その内服をきっかけに見つかるケースもあります。適度な運動が推奨されています。私は、ゲームが好きなお子さんには、位置情報ゲームアプリの活用をおすすめしています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。