「もらわずに我慢」するとどうなる? 「年金の壁」について解説
ニュースキャスターの長野智子がパーソナリティを務める「長野智子アップデート」(文化放送・月曜日~金曜日15時30分~17時)、11月28日の放送に経済評論家の佐藤治彦が出演。「年金の壁」とは何か、どういった問題があるのかを解説した。
鈴木敏夫(文化放送解説委員)「厚生労働省は今月25日、働く高齢者で一定の収入がある方の厚生年金支給額を減額する、という在職老齢年金をめぐって、年金が減り始める基準の引き上げ案を審議会に提示しました。現在は賃金と厚生年金の合計が月額50万円を超えると厚生年金の支給が減額されるという仕組みです。この上限を引き上げよう、という案です。何を意味しているのでしょうか?」
佐藤治彦「まずこの話の前提にあるのが2019年、麻生太郎さんが財務大臣だったころの老後2000万円問題です。年収1000万円以上でも貯蓄0という方が1割ぐらいあるんですよ。老後に2000万円ないと大変だよ、と言われて皆、大慌てになった。解決策のひとつとしていまの年金で足りないなら、もらう年金を増やす方法があるよね、というのがこの5年10年で広まってきた。それは何かというと、年金の繰り下げ制度というものです」
長野智子「はい」
佐藤「年金の繰り下げというのは65歳でもらわないで66、67歳など1年以上繰り下げれば1ヶ月単位で、自分の好きなときからもらい始める、ということができる。この繰り下げをすると0.7%、もらう年金が増えて、一生続くんです。0.7%って年利じゃないんです。1ヶ月遅らせるだけで0.7%増える」
長野「ほう」
佐藤「たとえば65歳で100万円年金がもらえる人が66歳からもらうと0.7×12で8.4%増えるんです。100万円じゃなくて108万4000円が最期まで続くんです」
長野「大きいですね」
佐藤「ちなみに70歳まで延ばすと0.7×60だから42%増えるんですよ。100万円だったものが142万円に増えてずっと続く。65歳まで働いていた人が65歳でもらわないで、がんばって70歳まで働いて。その間は給料で暮らして。それから40何%増えた年金で過ごしていこう、と。65歳から70歳まで厚生年金が出る会社で働くと、働いた分も上乗せされるわけです。それでやっていこう、と思っていた。そこにあったのが大きな落とし穴」
長野「ほう」
佐藤「落とし穴というよりは『年金の壁』だったんですね。それが在職老齢年金制度なんです。一般の人も『年金がもらえます、働きます、合わせて50万円以上だと年金が減ってしまう』というところまでは知っている」
長野「はい」
佐藤「たとえば毎月フルタイムで働いて70歳まで年収をもらおう、と。70歳になってみたら42%増えているかというと、65歳から70歳まで年金をもらわなくても、在職老齢年金制度の減額制度って適用されるんです」
鈴木「我慢したのに」
佐藤「わかりやすく言うと、65から70歳までものすごく所得があって。年金を全然もらわなかったのに70歳になってみたら、報酬比例分、いわゆる年金の2階部分、厚生年金部分は1円も増えていなかった、という人が出てきてしまって『ちょっと待ってくれ』と。『100万円のものが142万円になると思っていたのに、100万円ぐらいのままなの?』ということで大問題になっているんです」