スマホより先にタブレット!?わが家流、3歳から始めた自閉症きょうだいのデジタル生活
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
スマートフォンは早い!? 持たせるならタブレット
わが家には二人の子どもがいます。ASD(自閉スペクトラム症)の長男タケルは現在大学院生、ASD(自閉スペクトラム症)と睡眠障害がある妹のいっちゃんは通信制大学の1年生。どちらにもケータイやスマートフォンを持たせるより先にタブレットを与えました。
具体的には、タケルには11歳の時に夫のおさがりのタブレットを、いっちゃんには10歳の時に新しいタブレットを購入して与えました。
というのも、いっちゃんが使いたい画像編集ソフトが古い機種では動かなくなってしまったからです。かなりイタい出費でしたが、この分野のソフトは高解像度化が物凄い勢いで進むので、仕方のない投資だったと思っています。
最初はデスクトップパソコンで動画とゲーム
私も夫もスマートフォンとタブレットを使っていましたが、子どもたちはスマートフォンにはあまり興味を示しませんでした。私自身、電話での会話が苦手で、もともと電話はあまり使っていなかったため、それが影響したのかもしれません。
その代わり、私が仕事や連絡に使っていたのは、主にデスクトップパソコンとタブレット。仕事のやりとりは基本的にメールやSNSのテキストで行っていましたし、友人との交流もチャットやネットゲーム上が主な場所でした。
そのデスクトップパソコンを、子どもたちにも3歳から自由に使わせていました。3歳というところに特に理由はないのですが、なんとな~くあまり小さい頃からパソコンの画面を見ていると目に良くないんじゃないかな?と思ったので「幼稚園に行くようになったらいいよ」ということにしていました。
実際にはきっちり3歳で「解禁」したわけではなく、タケルは7月生まれ、いっちゃんは2月生まれなので、それぞれ3歳8か月、3歳2か月でデジタル機器を触り始めたことになります。
デスクトップパソコンのアカウントにはフィルタリングをかけ、子どもたちはそのデスクトップパソコンで動画を見たりゲームをしたりして遊びました。長時間使い続けることはなく、「もっとやりたい」とごねることもほとんどなかったのは「いつでもできる」と思っていたからかもしれません。
好きなことを深めるためのタブレット
タケルがタブレットに関心を持ったのは11歳の頃。「推し」の配信者さんができて、生配信のチャットに参加したくなったのがきっかけです。
ただし、家族共用のデスクトップパソコンでは、その時間に確実に使えるとは限りません。特に私が仕事で使っていたため、遠慮もあったようです。その頃タケルは水泳もしていて練習の都合で帰宅が遅くなってきていたため、「個人用端末を持たせるちょうどいい機会かな」と考えました。
ただ、スマートフォンには少し抵抗がありました。スマートフォンは通信に特化した端末で、当時は画面も小さく、創作や調べ物などには不向きに思えたのです。子どもたちには、誰かと連絡を取るだけでなく、インターネットの世界を広く楽しんでほしかった。そのためには、ある程度の画面サイズと処理能力のあるデバイスが必要だと考えました。
条件は「配信チャットを楽しめる大きさ」「ゲームが動く性能」「通信が安定していること」、そして「高すぎないこと」……家族で協議して、夫のタブレットを渡すことになりました。
タケルはそのタブレットで動画やゲームを存分に楽しみ、あるアクションゲームでは全国4位のタイトルを獲得するほどに。最盛期は1日2~3時間遊んでいましたが、中学進学後は時間が足りず自然とその習慣も落ち着いていきました。
「ガチ勢」となったいっちゃん
いっちゃんも10歳頃からパソコンでの創作に熱中しはじめました。内容は画像ソフトでのお絵かきと、DTM(デスクトップミュージック)です。
2007年生まれのいっちゃんはアナログとデジタルの両方で絵を描き、ピアノの生演奏とデジタル音源を並行して使うのも当たり前!みたいです。
最初はお遊び程度だったものの、高学年になるとファン同人誌の制作や、お兄ちゃんの動画共有サイトでの楽曲提供など、活動の幅が広がっていきました。
絵と音楽、両方をやっているので作業時間はとにかく足りず、次第に私のパソコンを使う仕事時間にも食い込んできたため、絵や音楽の「部品」を作ることはタブレットでやってもらうようにして住み分けを図ることにしました。
いっちゃんのデバイス利用はもう「ライフワーク」ですから、制限するとかそういうことは考えていません。睡眠時間と体調を考えながら、最大出力を出せるようにサポートしています。
友だちとのチャット・電話問題は?
実のところ、タケルに渡したタブレットにも、いっちゃんのタブレットにも通話機能がついていました。私たちとの連絡用にも使いたかったので使い方も教えました。友だちに番号を教えてもいいと言いました。でも二人ともほとんど使いませんでしたね。
なんででしょう?分かりません。親(わたし)が使ってなかったから習慣として根付かなかったのかもしれませんし、子どもたち自身も電話が苦手なのかもしれません。
どちらにせよ、ここ10年ほどで「電話でなければならない」こともほとんどなくなりました。私にかけてくるのも80歳の母親だけです。わが家の子どもたちは多分このまま「長時間電話に付き合わせる or 付き合わされる」という経験のない大人になるのでしょう。
特にいっちゃんのほうはSNSを駆使して、相手の時間を奪わないように、また自分の時間を奪われないようにうまくタイムラグのあるコミュニケーションを回しているように見えます。書き言葉の使い方も巧みで、これがデジタルネイティブか……と感心させられることもしばしばです。
スマートフォンとタブレットでは広がる方向性が違う
主に連絡手段として使われるスマートフォンの場合、広がる方向は「今までと違う人」となりがちですが、タブレットは「今までと違うホビー・技術」の方向に広がりやすく、これは決定的な違いだと思います。
通信機器との付き合い方は、それぞれの家庭やお子さんの特性によって違って当然です。ただ、「スマートフォンはこの子にはちょっと違うかも」と感じた時にタブレットという選択肢があることを知っておいていただけたらなと思います。
執筆/寺島ヒロ
(監修:鈴木先生より)
スマートフォンもタブレットも光を発する電子機器としては共通しています。私のクリニックでは特に睡眠障害のあるお子さんには光を発する電子機器は寝る前にやらないように注意しています。寝る前に光が目に入るとメラトニンが抑制されて脳が目覚めてしまい、眠りにくくなるからです。その代わりに漫画でもいいので読書することをお勧めしています。光だけでなく電子機器から発するブルーライトも頭痛などの原因となるのでブルーライト予防対策も同時にお伝えしています。日中にやる分には構いませんが、ゲームなども含めてあまりにも画面に集中しすぎるとドライアイになることもあるので時々休憩をいれながら画面を見ることが重要です。いまや学校でタブレットが支給される時代になりました。しかし、タブレットでも動画配信が家庭や授業中でも見られることもあり、一部では問題になっています。動画配信を遮断して学習だけで使えるよう大人が工夫してあげなければいけないと思います。ご家庭でもスマートフォンやタブレットを使うときはあらかじめ内容や時間など家庭内ルールの設定が不可欠かと考えています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。