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15年ぶりの国内個展、島袋道浩「音楽が聞こえてきた」が9月23日まで開催中

タイムアウト東京

15年ぶりの国内個展、島袋道浩「音楽が聞こえてきた」が9月23日まで開催中

作品の舞台となる場所や事柄に、ユーモアを持って関わっていくアーティスト・島袋道浩(しまぶく・みちひろ)。何の変哲もなさそうな風景から、生き生きとしたストーリーが見えてくる。そんな島袋の作品を紹介する展覧会「音楽が聞こえてきた」が横浜・新高島駅直結の「BankART Station」で開催されている。ひとたび作品を体験してしまったなら、帰り道までもがきっと楽しくなるはずだ。

島袋はベルリンで長く活動していたため、国内での個展は15年ぶりとなる。島袋作品と筆者の出会いもちょうどそのころだ。段ボール箱が自分の「人生」ならぬ「箱生」を関西弁で語る『箱に生まれて』(2001年)を見て、現代アートにこんな楽しい作品があるのかと、美大生ながら衝撃を受けた記憶がある。

Photo: Keika『音楽家の小杉武久さんと能登へ行く(見附島)』(2013年)

本展に出品されているのは、展覧会タイトルの通り、音楽にあふれた作品たちだ。これまで島袋は、野村誠や小杉武久、アート・リンゼイ(Arto Lindsay)など、多くの音楽家とコラボレーションを行ってきた。本展では、通路やカフェなども使い、音と映像を中心とした作品13点を展示している。ここでは特に、『ヘペンチスタのペネイラ・エ・ソンニャドールにタコの作品のリミックスをお願いした』(2006年)を紹介したい。

「ヘペンチスタ」というのは、即興で詩を歌うブラジルの吟遊詩人のことだそうだ。吟遊詩人というと、しっとりとロマンチックに歌い上げるイメージがあるが、このヘペンチスタは違う。体が思わず動いてしまうようなリズムで、ノリノリで歌ってくれるのである。本作は、タイトルの通り、そのヘペンチスタに島袋自身による「タコの作品」についてリミックスを依頼したものだ。

「タコの作品」とは、『そしてタコに東京観光を贈ることにした』(2000年)と『自分で作ったタコ壷でタコを捕る』(2003年)の2作品のことで、こちらもタイトルそのままの行動が映像に収められている。そう聞くと「それが何になるんだよ」と思うかもしれない。その通り、何にもならずに、最初のタコはすぐに死んでしまうし、捕まえたタコもそこにいた人々に紹介(?)したら海に返すだけだ。

それでも、映像の中の島袋は、タコとの出会いを喜び、別れを惜しんでいるようにさえ見える。つまり、とても楽しそうなのだ。「ああ、タコか」と何の感慨も持たず流すのか、「おお!タコだ!」と素直な感動を受け入れるのか。「おお!タコだ!」と思うことの楽しさを教えてくれる作品たちだ。

Photo: Keika『ヘペンチスタのペネイラ・エ・ソンニャドールにタコの作品のリミックスをお願いした』(2006年)

ヘペンチスタの作品に戻ると、肝心のリミックスではディスコミュニケーションがあちこちで発生している。「SHIMABUKUはすごい漁師だ」とか。タコを捕っているとなれば漁師に見えるのも仕方ないが。でも、それでもいいのだきっと。一般的に、コミュニケーションに必要とされるような相互理解ということは、ここでは求められていない。何かポジティブな感情を交換するとか、差し出すとか、勝手に受け取るとか、そういうことが大事なのだろう。

島袋が本展の作品で取り組んでいる「音楽」というものも、そういうものなのかもしれない。たとえば、雨音とのセッション。たまたまそこにあるリズムと演奏を合わせてみる。たまたま出会った遠い異国のリズムに踊り出したくなる――。

Photo: Keika『キューバのサンバ』(2015年)

目の前にあるのに見えていないものに、改めて目を向けてみること。そこにあるということに感じ入ることができるようになれば、その感覚は、大げさに言って私たちが生きていくのを助けてくれる。そう、「おお!タコだ!」と感じることができれば。SNSでバズらなくても、他人から「いいね!」を一つももらえなくても、全私が喝采を送る風景が、私専用として目の前に立ち現れるわけのだから。それはきっと、最高なことだと思う。

楽しくなった筆者は展覧会場を2周したため、2時間半ほど滞在した。単純に全ての映像を見るだけでも70分弱かかるので、時間に余裕を持った来場をおすすめする。「島袋道浩 : 音楽が聞こえてきた」は2024年9月23日(月・祝)まで。タイトルの通り、音楽にあふれた暑い季節にぴったりな展覧会をぜひ訪れてみてほしい。

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