弌誠 YouTube人気MVランキング1位獲得「モエチャッカファイア」に次ぐ新曲「あられやこんこん」リリース、独特な楽曲制作や音楽の原体験を語る
YouTubeチャンネルに投稿した楽曲「モエチャッカファイア」がYouTubeの人気MVランキングで1位を獲得、現在までに4,300万回再生を突破する反響を呼んでいるシンガーソングライター、弌誠。12月25日には新曲「あられやこんこん」のリリースを控える彼に、独特な楽曲制作の方法や現在の活動に影響を与えている音楽体験、そして来年8月に行う人生初ライブの構想を聞いた。
――弌誠さんはまだ、インタビューの経験はそれほど多くないと思います。こういった場で自分の音楽について根掘り葉掘り聞かれるというのはどんな気持ちですか。
これまで自分の音楽についてしっかり聞かれる機会がなかったので、思っていたよりも自分で自分のことをわかってなかったなというか、自分は感覚で生きているんだな、みたいなことは感じます。なので、自分のことを見つめ直す貴重な経験でありがたいです。
――ということは、曲をつくるときは最初からどこかに狙いを定めていくというよりも、割と感覚でつくっていくタイプなんでしょうか。
どちらかといえばそうだと思います。でも、数学的な計算はしないけど、“こうしたほうが人気出るかな?”みたいなことはざっくり考えます。今、僕の曲の中で一番聴かれている「モエチャッカファイア」は、時代の空気感みたいなものを自分なりに感じて、今の時代にはこれが足りないかな、誰もまだそこにいないな、みたいなポジションを狙ったところはあります。数年前まではそういうことが全然わからなかったんですけど、毎回自分なりに視野を広く持って、いろんなものを見たり聴いたりしていたら、最近ある程度わかるようになってきました。
――たしかに、弌誠さんが主戦場としているYouTubeだと、自分の動画が何分まで見られていたかというところまで如実にわかりますもんね。そういうデータも参考にしているんですか?
してますね。最初の頃の曲はイントロで離脱、みたいなことも多かったので、次の曲ではいきなり歌から始めてみたり。でもそうすると今度は曲の途中で離脱しちゃったりして。だから、データを見ながらグラフが綺麗になるように意識してます。
――視聴者の反応がすぐわかるというのは大きいですよね。弌誠さんが最初にYouTubeで発表した「ユートピア」なんて5分以上ある曲ですけど、あれはどういう感覚でつくったものなんですか。
あれも一応、“これ、バズっちゃうな。 1曲目で1億(回再生)いっちゃうな”と思ってた曲だったんですけど、コメントで“暗い”“長い”とか言われて。“腹から声出せ”とか。
――(笑)では、「モエチャッカファイア」はどのタイミングでいつもと反応が違うことに気づいたんですか。
既存のファンからの反応は最初からよくて、1~2週間ぐらい経ってからはいつも以上にアンチが増えたんですよ。それで、“これはキタかな?”って。いつもは肯定的な意見しかこないから、これはいろんな人に見られているってことなのかなって。
――ああ、アンチコメントが多いということはより広い層にまで広がってるということだから、そういうコメントがあるとちょっとうれしいんですね。
なんならそういうコメントを探してすらいました。
――“もっと俺を叩いてくれよ”みたいな。
それだとドMみたいになっちゃうけど(笑)。
――(笑)でも、今これだけ曲がバズっていて、逆にプレッシャーになることはないですか。
あるんですけど、ありがたいことにこの曲をきっかけにライブをすることが決まったり、いろんな方からタイアップのお話をいただいたりして、本来なら一つの仕事に対してものすごく緊張するべきなのに、それが分散しているんです。だから、逆によくわからないというか、放心状態みたいな。いちいち緊張しなくなりました。
――慣れというよりもバグってきてる。
バグってる感覚しかないですね。
――弌誠さんが最初に影響を受けた音楽はボカロだそうですけど、それは気づいたらそこにあったのか、それとも意識的に聴き始めたものなのか、どちらでしょう。
意識的にですね。でもそれは特別な出会いではなくて、周りの友達が聴いてたから自分も聴いてみたっていう感じで。
――そこから自分でも曲をつくりたいと思うようになった。
当時から物をつくることが好きで、ボカロのいい意味でプロっぽくない感じに刺激されたのかな。適当に浮かんだ間抜けなフレーズをいかにカッコよく聴かせるか、それは中学の頃から今に通じている部分かもしれないですね。
――弌誠さんはバンドもやっていたんですよね?
はい、高校の軽音楽部でやってました。あんまりうまくいかなかったですけどね。
――そのバンドでやっていたのはカバーですか。それともオリジナルですか。
オリジナルがほとんどです。オリジナル曲をつくらないといけない部だったんですよ。運動部ばりにストイックで。そのときの経験が今でも活きていると思います。かなり頑張ってたんですよ。受験ほったらかし、みたいな感じで。
――それは特殊ですね。音楽専門の高校とかではないですよね?
専門ではないんですけど、面白い学校で。大学みたいに授業のコマをいじくれるんです。授業を減らした分、部活の時間を増やしたり、そういうギリギリ許される不正行為をして音楽を頑張ってました(笑)。
――ボカロから影響を受けたことを踏まえて弌誠さんの音楽を聴くと、確かにそういう要素はあるけど、完全にボカロの影響下にあるようには聴こえなくて。それはバンドをやっていたことも影響しているのかなと。
していると思いますね。むしろ、高校時代はボカロには全く触れていなくて、バンドの曲ばっかやってました。僕はけっこう周りに流されるタイプなんです。みんなが聴いてるから僕もボカロを聴くし、みんながバンドをやってるから僕もバンドをやるし、みたいな。
――中学で聴いたボカロが音楽の入り口になっているのに、高校でバンドをはじめる人って珍しいんじゃないですか。
確かに。バンドをやってる方がボカロをやるっていうパターンはすごく見ますけど、その逆はあんまりないかもしれない。少なくとも僕は見たことないですね。
――だから弌誠さんの音楽は特殊に聴こえるのかなと思いました。
あと、僕が聴いていたボカロ……ハチさんとかwowakaさんって、生ドラムや生ギターにボカロが乗っているほぼバンドセットの曲ばかりで、僕はそういうボカロばかり聴いていたから、ボカロとは言ってもバンド寄りなんですよね。僕らの世代にはそういう人が多いかもしれない。
――ボカロP以外で影響を受けたアーティストはいますか。
楽器を頑張ろうと思ったきっかけはKing Gnuさんです。それまではそんなに練習をしていなくて。でも、King Gnuさんを聴くようになってから、いろんな楽器を極めたいなって思うようになりました。
――「モエチャッカファイア」の間奏でメタリックなフレーズが聴こえてくるんですけど、もしかしてメタルも聴いているのかなと気になりました。
メタルも通ってると言えるかもしれない。というのも、高校のときの軽音楽部にはメタル好きの先輩しかいなくて、2年ぐらいの間、メタル軽音部みたいな感じになってたんですよ。
――どの辺のメタルを聴いていたんですか……いや、聴かされてた、というほうが正しいのかもしれないですけど。
義務です、義務(笑)。スリップノットとかはめっちゃ弾きましたね。今でも好きですけど。
――じゃあ、人気のメタルはまんべんなく触れてきたと。
そうですね。多分、当時軽音にいた人たちはみんな聴いていたと思います。
――弌誠さんはたくさんの楽器を弾けるマルチプレイヤーですけど、それも高校時代に頑張って学んだものなんですか。
そうですね。頑張って練習しました。
――ギター、ベース、ピアノ、バイオリンが弾けると伺っていますけど、他にもありますか?
最近、アンデスという楽器を買って。笛が内蔵されてる鍵盤ハーモニカみたいな楽器で、音は笛なんですけど……「ピタゴラスイッチ」の曲、わかります?
――ああ、はいはい。
あの曲みたいにちょっと間抜けな音が出る楽器で、最近はそれをよく弾いてます。
――バンドをやっていたんだから、ギターならギター一本に集中するのが自然な気もするんですけど、それがなぜ縦ではなく横に広がっていくことになったんでしょう。
バンドがうまくいかなかったトラウマが大きいのかもしれないですね。高校時代は本当にうまくいかなくて。なんかもう、バンドなんて信用できない、みたいな。だから、人に頼むよりも全部自分でやろうって。バンドをやっていたときも、他のバンドはみんなで部室に集まって、“なんか、めっちゃカッコいいじゃん!”ってワイワイ言いながら曲をつくっていたんですけど、僕のバンドだけ僕がガレージバンドで打ち込んだデモを持ってきて、“はい、じゃあ、みんなこれよろしく”みたいな感じでした。
――バンド時代から特殊な制作をしていたんですね。
振り返ってみるとかなり特殊だったかもしれないです。
――やっぱり、ボカロから入っているということが大きいんですかね。
そうだと思います。1人で全楽器やるのが当たり前というか。自分の中ではそれがシンガーソングライターと同じぐらい普通なことだったので、弾き語りをするようにバンドのアレンジを1人でしていました。
――弌誠さんの曲は一つの手法に偏っていなくて、自分の中にあるあらゆるアイデアをとにかく形にしてやろうという気概を感じます。
やっぱり、聴いてくれる人にはいろんなジャンルで毎回違う体験をしてほしいなと思ってますね。
――いつもどういうところから曲作りを始めるんですか。
最初に考えるのは音楽というよりも、ビジュアルイメージなのかな。この人にMVをつくってほしい、とか。 実際、これまで頼んできたMVの監督は全員自分の好きな人なんです。このイラストレーターの方が描くキャラクターが何かを食べてるシーンが見たいな、じゃあ、「しあわせレストラン」って曲を作ろう。「モエチャッカファイア」だったら、この人が描く萌え萌えしてる絵が見たいな、じゃあ、「モエチャッカファイア」を作ろう、とか。
――脳内に浮かんだ映像やビジュアルからまずはコンセプトを固めて、曲が仕上がったらその元になった絵師や映像作家にMVをお願いするという流れなんですね。では、そうやって曲をつくる上で譲れないことはありますか。
今までもこれからも、その曲のどの瞬間を聴いても“いい曲だな”と思えるものを目指しています。ライブで聴いてもカッコいい曲、 サブスクで聴いてもカッコいい曲、キッチンで流れていてもカッコいい曲。聴く場所を問わない曲というのは目標ですね。たとえ文明がなくなって、アコースティックギター以外の楽器がなくなった世界線で聴いてもいいなって思ってもらいたい。
――では、改めて「モエチャッカファイア」について聞かせてください。この曲は冒頭の超低音ボーカルが話題になっていますよね。これも聴いた人の耳に引っ掛かるんじゃないかという狙いがあったんですか。
それはありましたけど、そういう狙いは毎回あったし、“これ、バズっちゃうな……”とはいつも思っているので、この曲が特別というわけではないんですよね。
――そうか、狙い通りといえば狙い通りだけど、これまでも全部狙ってたという(笑)。
そうです(笑)。でも、この曲に関しては“この曲に似てる”みたいなコメントがほかの楽曲より多かったんですよね。それまでは、懐かしいメロディ+新しいサウンド、みたいなオリジナリティを意識していたんですけど、何かに似ているように感じさせる曲のほうが受け入れられやすいんだなとこのときに気付いて。だから、これからも自分なりに新しいものをつくるより、過去に自分が好きだったアーティストをリスペクトして自分の中に取り入れた上で曲をつくっていきたいと思っています。そういう意味では、この曲で方向性が定まった気がします。
――新曲「あられやこんこん」はどうでしょうか。これは前回が低音ボイスだったから今度は高音にしてみよう、ということですか?
あくまでも潜在的に前と違うことをしたいという意識があったのかもしれないです。それで勝手に(メロディが)高くなっていっちゃった、みたいな。
――あえて狙ったわけではないけども、前回の反動があった。
反動はすごくあります。
――この曲に関しては最初にどんな絵が浮かびましたか。
この曲も「モエチャッカファイア」のときと同じゲーム『ゼンレスゾーンゼロ』に出てくる星見雅というキャラクターのイメージソングで、キャラの特徴を捉えたいというところから始まりました。具体的には、「モエチャッカファイア」の歌詞に出てくる《お冷めな娘》というフレーズは“サメ”とツンデレという意味での“冷めてる”をかけているんですけど、それと同じように今回もダブルミーニングを取り入れたいなと。なので、今回はキツネのキャラクターなので《コンコン》というワードを入れて、彼女は氷属性でもあるので、霰が降るという意味とキツネの鳴き声をかけました。衣装も和装で侍を意識しているキャラなので、タイトルの時点でひと味もふた味も違うものにしたいなと。
――ということは、この曲もタイトルからイメージを広げていったと。
そうですね。タイトルのイメージから歌詞を和な雰囲気にしました。
――弌誠さんの曲のタイトルはいつも独特ですよね。
そういうタイトルのほうが想像力が湧くということもあって、自然とキャッチーにしているのかもしれないですね。
――ああ、タイトルのキャッチーさが歌詞やメロディのトリガーとして有効に働くんですね。すごく興味深いです。ちなみに、歌詞はどんなところから影響を受けているんですか。
僕は小説よりも詩みたいな短い文章が好きで、そういったものから影響を受けていると思います。
――具体的な名前は挙げられますか?
けっこうバラバラなんですけど、谷川俊太郎さんとか。教科書に載るぐらい言葉遣いはわかりやすいけど、いかようにも解釈できるところがすごく好きで。題名はキャッチーだけど内容はめっちゃ深い、みたいな。なので、自分が書く歌詞もそうでありたいと思っています。
――それにしても、弌誠さんのボーカルは音域がめちゃめちゃ広くないですか。ライブでやることを想定してつくってます?
つくってないですね。だから、これからどうなるか楽しみです。
――怖いじゃなくて、楽しみと言えるのは頼もしい。
やっぱり、成功することしか考えてないんで。
――おお、それはカッコいい。これまで発表してきた楽曲を初めて人前で披露する機会が、来年8月12日に恵比寿LIQUIDROOMで開催される初ライブ『弌誠1st ONE MAN LIVE「チャイルドレストラン」』になります。開催はまだまだ先ですが、どんなライブになるんでしょうか。
実は、もうセトリも決めていて。
――えっ!? なんでそんな早くに?
高校生の頃から、もし自分がライブをやるなら……みたいな妄想をしていて。たとえば、最初は盛り上げて、だんだん落ち着いてダークになっていって、最後に切なくなる、みたいな。
――その妄想に今の自分の曲を当てはめていくならこういう流れになるんじゃないか、と。
もちろん、高校時代の妄想をそのまま再現しようとは思ってないですけど、会場内を見たときに、“めっちゃ合うかもな”って。
――会場もセットリストに影響を与えるんですか。
それはめっちゃあります。僕は視覚からすごく情報を得るタイプなので。
――ライブに関してもそうなんですね。
ハコのイメージによって割とセトリは変わるかもしれないです。
――じゃあ、演出もすでに思い浮かんでいたりするんですか。
一応、妄想はしてますね。
――それは楽しみにしておきます。さて、今後はどんな活動をしていきたいですか。ライブも積極的にやっていきたい?
ライブも作品づくりと同じぐらいの割合でやっていきつつ、理想としてはネットとライブシーンの境界線をなくしたい。僕はライブシーンもネットの閉鎖的なカルチャーもどっちも好きなので。元々そこで活動してらっしゃる方々に敬意を払いながら、そこにちょっとお邪魔する感じでやっていけたらなって。
――もしかしたら、それも高校生の頃から考えていたことですか。
それはたしかにあります。
――弌誠さんの今の活動って、高校生の頃に思い描いていた妄想を現実化する作業だったりもするんですかね。
高校でうまくいかなかった反動っていうのはあると思いますね。もちろん、今は今で新しくやりたいと思っていることもあるので、全部が全部高校時代の欲望にみなさんを付き合わせているわけではないですけど、アイデアの引き出しになっているのは自分でもすごく感じます。
――ここまでくると弌誠さんの高校時代のエピソードにスポットを当てたインタビューがしたくなります(笑)。高校時代に一体何があったんだ、っていう。
めっちゃ話したいですね。
――せっかくなので、印象に残っている当時のエピソードを一つ聞かせてもらえないですか?
印象に残ってるのはやっぱり、軽音楽部に入部したときですね。新入生のキラキラした気持ちで、当時軽音楽部の活動場所だった視聴覚ホールに“おはようございます!”って入っていったら、先輩方がズラッとそこに並んでて。
――すごいな(笑)。
そしたら、先輩の一人から“今、なんで目を合わせて挨拶しなかった?”って言われて、音楽やめよっかな……って(笑)。バンドの原体験がそういう感じだったこともあって今、自分で書いてる曲もメロディがダークなのかもしれない。
――へぇ~! アニメの第一話みたいなエピソードですね。
いや、本当にアニメ化してほしいですね。『ぼっち・ざ・ろっく!』みたいな(笑)。僕は中3のときに遊びでアコギを触りはじめたんですけど、『ぼっち・ざ・ろっく!』みたいに、バンドで合わせると一気に下手になるんですよ。やっぱり、同じ音楽とはいえ、そこにはいろんなアプローチがあると思うので、ゆくゆくはいろんな音楽の活動形態でプロフェッショナルになりたいですね。
取材・文=阿刀“DA”大志