棚田オーナー制度が育む新しい農のかたち
「備蓄米」をはじめ、最近何かと話題を集めているお米。実はこの米騒動をきっかけに、「棚田オーナー制度」や「田んぼオーナー制度」が注目を集めているんです。
棚田オーナー制度ってどんなもの?
自分でお米を作る、あるいは作る農家を支援するという新しいかたちの参加型農業。この制度に興味をもつ人が増えているんです。東京に一番近い棚田、千葉県の大山千枚田のオーナー制度について、特定非営利活動法人 大山千枚田保存会 理事長の石田三示さんに伺いました。
特定非営利活動法人 大山千枚田保存会 理事長 石田三示さん
基本的には100平米3万2千円出していただいて、その田んぼを耕作する権利を1年間有するというものです。農家の指導を受けながらお米を作って、秋の収穫が終わったらそれをお持ち帰りいただいて食べられるというものです。今、耕作放棄地、非常に中山間地域へ進んでまして、特に大山千枚田って非常に景観の良い所ですから、それを保存していくために都会の人の手を借りて保全を進めているということです。今回、米不足でオーナー希望者が増えましたね。国民一人一人の自給率みたいなのがね、しっかり確保されてるっていうのはすごく大事なことなので。オーナー制度みたいな感じで、みんなが土地に関わり、食べ物を確保する。そういったことがやっぱり必要なんじゃないですかね。
やっぱり食を確保している安心感って大きいですよね。100平米3万2千円でお世話をして、35キロ程度の玄米をゲットできるんだそうです。(その年の収穫具合によって変動あり)
大山千枚田実りの時期:大山千枚田保存会提供
2000年にオーナー制度を始めて25年、スタート時は、定年後、農的な暮らしをしていく一つの足掛かりとして入ってくる人が多かったそうですが、今はどちらかというと、若い夫婦が子供の体験のためにというのが多いそうで!また、大学のサークルや研究で参加する若者や企業で参加する方もいるようで、オーナーもいろんな方がいろんな目的で参加されているんですね。大山千枚田では今、166組のオーナーが参加しているそうです!
オーナー制度を導入した石田三示さん:大山千枚田保存会提供
また石田さんは「日本国民総百姓論、とよく冗談で言っているんだけど・・・」と、日本の食料自給率じゃなく個人の自給率を上げていくためには、みんなが何かしらの形で「農」に関わり自分の「食」を少しでも確保していくことが必要だと話していました。「農」に関わると、普段の食事への考え方もきっと変わりますよね。
自分のお米を育てる魅力
オーナー制度当初から参加しているという、大山千枚田オーナー親睦会 会長の髙山承之さんにその魅力を聞いてみました。
大山千枚田オーナー親睦会 会長 髙山承之さん
まず田んぼに足を入れるっていうのも初めてでしたし、ただ地域の方が丁寧に指導をしていただきますので、特に不安はありませんでした。オーナーになる動機っていうのは、やっぱり大山千枚田と何らかの格好でご縁ができて自分も守っていきたい、関わりたいという方が多いと思います。自然に触れて作業する、その辺の醍醐味と言いますか、どうしても都会では体験できないリフレッシュ、日常ではない部分をいつも感じています。スーパーとか(米不足で)棚がスカスカになってるじゃないですか。もちろんオーナーとして作ったお米で全部間に合うわけじゃないし、ただ自分の関わった棚田のお米が手元にあるっていうのは、ちょっと替えられない安心感と言いますか、それがあることは事実ですね。生産の現場を知ってる、関わってるってことは大事なことだと思います。
農作業でリフレッシュ!普段都会で自然に触れる機会が少ない方はなおのこと、心穏やかになる、ホッとする時間になっているようです。
夏の棚田:大山千枚田保存会提供
募集は毎年11月頃を予定していて、年間を通しての作業は、田植え、草刈り、稲刈り、脱穀、収穫祭など年7回程度の作業で、地元農家のみなさんのサポートもあるため、お米作りをしたい強い気持ちがあれば初心者でも大丈夫だそうですよ!その他、バーベキューやなんでも相談会など、オーナー同士が交流する機会も多いようでした。
田植えをするオーナーの皆さん:大山千枚田保存会提供
オーナーの皆さんは大山千枚田を守っていきたい思いから参加される方が多いそうですが、この米騒動をきっかけに農業に触れて、その魅力を知ってもらうのも、ひとつの入り口だと話していました。
大山千枚田保存会は棚田オーナー制度をはじめ、酒づくりオーナー、子供たちへの各種体験プログラムなど「農」に関わる機会の提供をしているので、まずは体験してみるのもいいかもしれませんね!
課題となる耕作放棄地
この大山千枚田、始まりは「耕作放棄地」を無くし、その景観を守っていくことだったんですが、オーナー制度の導入などもあり現在は耕作放棄地は無いそうです。農業において何かと課題になっているこの「耕作放棄地」について立命館大学文学部地域研究学域 寺床幸雄 准教授にお話伺いました。
立命館大学文学部地域研究学域 寺床幸雄 准教授
以前耕作をしていた土地で、過去1年以上作物を作付けしていなくて、かつ数年の間再び作付けする意思がない土地というふうに定義はされています。主に農業をしている方かがリタイアをするというのをきっかけに農地を縮小したりですとか、全てやめてしまうというケースもありますし、近年ですと、農業にかかるコストですね。あとは周囲に耕作放棄地ができてしまうと、山林などとの境界線が曖昧になるということで、イノシシやシカといったような動物が、人間が管理しているような領域の方にたくさん入ってくる被害が最近大変増えてきています。また雑草がたくさん繁茂することによって、景観が損なわれるというふうなこともありますし、直接的に言えば農業をするための空間が失われるということですから、今回の近年の米の価格高騰のこともそうですけれども、やはりその食料の安定供給という意味でも、耕作放棄地は可能な限り防ぐのが重要なのかなというふうには思っています。
農家をやめてしまう人数に対して、新規就農者がなかなか増えないことも背景にあるようです・・・一度耕作放棄地になると再生がなかなか難しいので、定期的な草刈りなどの管理、 オーナー制度の活用はもちろん、例えばライトアップなどして農業生産以外の価値をつけてみたり。
棚田のライトアップ:大山千枚田保存会提供
オーナー制度がきっかけで地域移住に至ったという方も中にはいるそうで!最近では2つの地域に住まいを持ち、両方の地域で生活する「二拠点居住」という言葉も注目されていますし、居住に至らなくても、地域や地域の人と継続的に関わる「関係人口」になることで、地域の農業を支えていくことができますよね。
オーナー制度はただの体験だけじゃなくて、耕作放棄地の再生、農業の未来にも繋がっていきそうです。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:糸山仁恵)