「お友だちと話してた」学校からうれしい報告…でも次女の本心は?通級指導教室利用での成長
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
5年生の3学期、通級の先生からの電話
5年生も終わりに近づいてきた頃、通級(通級指導教室)で次女を担当してくれていた先生から電話がありました。
少し不安な気持ちで電話に出ると、先生のほうから
「次女さんなんですが、今日、とてもうれしいことがあったので共有しようと思いまして……!」
とお話がありました。
それは、その頃次女が通級で取り組んでいた個別の活動についてでした。
次女の好きなことで、活動の場を広げる
次女はもともと絵を描くのが好きで、家でタブレットを使って好きなゲームのイラストをコツコツ描いていました。通級の先生がそれに注目してくれて、そのイラストを家で印刷し、通級の時間に次女がまとめて本の形に仕上げる、という活動をしてくれていました。
ただ、思ったより制作に時間がかかり、3学期中に仕上げるのが難しくなってしまいました。そこで、休み時間を使い、通級だけでなく自分のクラスの教室でも作業を進めることになったのです。
教室に作業の場を広げることによって、それまで次女と先生だけで実施していた活動に、クラスメイトが関わるきっかけになりました。
クラスメイトが……
教室で先生と次女が作業をしていると、次女に対してクラスメイトの子が話しかけてきました。
「次女ちゃん、この絵を描くのにどのくらい時間がかかったの?」
この頃の次女は、通級の先生とは少し話せるようになっていたものの、クラスメイトに対してはほとんど頷きか首振りでの対応が続いていました。でも、この時は「……2時間くらい」と、小さな声ですが答えることができたそうです。
次女が好きなゲームのイラストで、クラスメイトもそのゲームが好きだったため、その子の提案により、オンラインで一緒にゲームができるコード番号も交換したそうです。
先生の心配と次女の気持ち
その時のことに対して先生のほうから
「私はとてもうれしかったんですけど、このことに関して次女さんがどう感じていたかというのが分からなくて……」
と、お話がありました。
先生から次女に、交換日記に今日の気持ちを書くように伝えているものの、私(保護者)のほうからも次女に今日の出来事について聞いてほしいとのことでした。
私から次女に、今日次女自身がどう感じたのか聞いてみると、「みんなが来てすごく緊張して固まって冷や汗が出たけど、とてもうれしかった」といった返答がありました。
次女としては、うれしい気持ちが大きかったようです。
このまま今の先生が担当してくれたら……
この時点で、次女が通級に通い始めてから1年以上経過していました。最初からずっと同じ先生が担当してくださっていて、先生と次女でコツコツ信頼関係を積み重ねながら、「個別の部屋→教室」「先生と2人→先生とクラスメイトと次女」という感じで、ゆっくり活動の場を広げてくれました。
活動の場を広げていく際にも、先生からの一方通行の関わりではなく、常に「それに対して次女はどう感じているか」というところまでしっかりフォローしていただいたことで、次女は安心して少しずつ前に進むことができたのではないかなと思っています。
こういった通級での関わりが本当にありがたく、6年生になってもこの先生のままでいてほしい!と思っていましたが、残念ながら先生は、新年度からほかの学校に異動となってしまったのでした……。
執筆/まりまり
(監修:初川先生より)
場面緘黙のある次女さんが小5の時のうれしいエピソードについてありがとうございます。まず、学校からの電話を「少し不安な気持ちで」取られたとのこと。学校からの電話があると、不安になりますよね(ここは皆さん共感されるところだと思います)。今回はうれしい報告で何よりでした。
次女さんの得意な絵がきっかけとなって、クラスの子との会話が生じたとのこと。とても劇的な場面ですね。次女さんが答えられたこと、大人からすると「すごいね!」と捉えられるような出来事です。しかし、さらに素晴らしかったのは、通級の先生が「私はとてもうれしかったんですけど、このことに関して次女さんがどう感じていたかというのが分からなくて……」と捉えてくださったことですね。発達的な特性のあるお子さんや通級を利用されるようなお子さんは特にそうですが、出来事の認知が多数派とは異なっていることがあります。今回のような、はたから見ると「言葉で返すことができてすごいね!」と思うような出来事でも、本人からすると「とてもつらかった。もう二度とそんな目に遭いたくない」と捉える場合もあります(こうした例でよくあるのは、大人(先生や保護者)は褒めているつもりでも、本人からすると全然うれしくない・恥ずかしくて嫌だった等の受け取りのずれ等です)。通級の先生はそのあたりについて、次女さんに直接確認できなかったからこそ、保護者に電話で説明して、安心して語れる場であろう家庭でどんなふうにその出来事を語るのか確認してほしくなったのでしょう。こうした細やかなお心遣いや連携がとてもありがたいなと感じます。
さて、次女さんにとっても、「緊張したけど(中略)とてもうれしかった」とのこと、何よりです。少人数での指導場面と教室場面とがつながり、拡張していく中での成長を感じますね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。